1-7

「この世界が別の世界になるって……?」




どういうことだ? 自分が住んでいるこの世界が別の世界になるなんて、意味がわからない。




「要するに、ジュンが住んでいるこの世界を、別の世界に飛ばすってことよ」




ああ、最近流行りの異世界もの小説みたいな話か。主人公が異世界に飛ばされて無双する、あの手の話を思い出す。




「他の世界に干渉するなんて、異界法で厳しく禁止されているはずよ」




「さすが管理局の人間だな。法律だの規則だのに忠実な考え方だ。しかし、そんなものを私たちが守ると思うか?」




「だったら――力づくで止めるわ!」




リズはそう言って魔法を放った。先ほどの男と同じような炎の魔法だ。それに対し、白衣の男も魔法を操り、攻撃を防ぐ。火花のようなエネルギーが飛び交う中、2人は互いに一歩も引かない。




戦いは互角――どちらも一歩も譲らない状況だ。




(何か、自分にもできることはないだろうか……?)




戦闘に関しては素人の自分が加われば、足手まといになるだけだ。しかし、この状況を打開するために何か手助けできる方法がないかと辺りを見回す。




視界に飛び込んできたのは、さっきから異様に目を引いていた巨大なコンピュータだ。モニタには数式のような文字列が並んでいる。




(……もしかして、あれ、プログラムのコードか?)




よく見れば、これはソースコードのようだ。高校の情報の授業で基礎だけは学んだことがある。それほど難しいものではなければ、多少は読み解けるかもしれない。




このコードが、この装置を動かしている鍵――そう直感した。




(わからなくても、触ってみるだけやってみる価値はある)




意を決して、コンピュータに向かって操作を開始する。カーソルを動かしてコードを選択し、消去を試みた。まるで普通のパソコンを扱うようにキーを押すと、文字が次々に消えていく。




(よし、このままコードを消して――)




その時だった。




「何をしているのですか?」




背後から冷静な声が響いた。男だ。こちらの行動に気付いた彼が、手元の装置を操作する仕草を見せた瞬間、画面が消え、操作が強制的にロックされてしまった。




「――ちっ、遠隔操作ができるのか」




「やりますね。私たちの戦いに隙を見つけて動くとは。しかし、無駄な努力でしたよ。消したところで、このプログラムはすでに起動している。止めることはできません」




男の表情は余裕に満ちている。しかし、何かが引っかかる。プログラムが「起動している」なら、そもそもコードを削除した時点で、こちらの操作に干渉する必要があっただろうか?




リズの戦いを見守りつつ、男の言葉に疑問を抱く。ふと、思いつきで声を張り上げた。




「……本当にプログラムは起動しているのか?」




「え? ジュン、どういうこと?」




「だってそうだろ。『もう止められない』と言いながら、どうして自分を画面から追い出す必要があったんだ? 本当に起動しているなら、自分がいじったところで関係ないはずだよな」




男がこちらを睨む。その表情に、微かな苛立ちが見えた気がした。




「――頭が回るのですね。まあ、いいでしょう。確かに、その通りです。プログラムはまだ起動していません。正確には、完成すらしていませんよ」




「やっぱりな……!」




プログラムが完成していないと認めたはずなのに、男は依然として余裕の笑みを浮かべている。




「ですが、完成は時間の問題です。あと少しで全てが終わるのですよ」




「だったら――阻止するまでよ!」




リズが再び魔法を放ち、再び激しい攻防が始まる。ジュンは男の態度を見て確信した。このプログラムを完成させる前に、何としても妨害しなくてはならない。

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