あの人気声優は幼馴染だった

涼野 りょう

プロローグ

2人は幼馴染

 ただ今の時刻は25時。この時間になっても起きているのは、夜型人間の学生や、仕事に追われる社会人くらいだろう。普通なら水曜日(1時間前ほどに木曜になったが)のこの時間は翌日に備えて寝ているはずだ。


 そんなことを言っておきながら、今の俺は学生であるにも関わらず、ホットミルクが入ったマグカップを片手に、あと5分ほどで始める放送に備えていた。


(ふぅ、にしてもこの時期に飲むホットミルクもいいものだな)


 自分の部屋にある小さめのモニター。そこにはコマーシャルをやっている。え? 何の放送かって? 聡い人なら分かったかもしれないが、俺は今期から始まるアニメの第1話の放送が始めるのを待っているその最中だ。


 5分ほどの時間をホットミルクを飲みながら待っていると、ついにオンエアが始まった。このアニメの原作は、ネット小説から出たラノベだった。それは確かな人気を持っていて、ついにここまでたどり着いたといったものだ。内容はセカイ系と言われるジャンルだ。


(確か、原作を読んだときはバカみたいに泣いたっけ。教室で……)


 あまり良くない出来事を思い出してしまったが、気にしないことにしよう。過ぎたことは仕方ないさ!


 モニターでは丁度2人の男女が映し出されている。まさかこの時は、2人があんなことになるなんて思いもしなかったな…… え?何が起こるのかって? それは、この後2人は……


 うん。ネタバレはしちゃだめだよな。みんなが楽しく物語を見るためにも。決して作者が面倒くさくなったとかではないからな?


 それから、30分にも満たない時間はあっという間に過ぎ去ってしまったようだ。それにしても、第1話にはOPが流れないのはなんでなんだろう。EDも同じだけど、結構頑張って作ったんだけどな……


 EDの曲調はかなり悲しい感じのノリだ。我ながら睡眠導入にはピッタリな良い曲を作ったな。取り敢えずいつも通りに反省点を絞り込もうかな。どうして俺が反省をしているのかって?


 それは単純な話だ。このEDを作ったの作曲を俺が担当したからだ。


 それから、録画したアニメのED部分を何度も聞きながら、反省点をあげていく。時間にして30分程だろう。俺は睡魔に負けていつの間に眠っていた。




「ハルちゃん。起きて! サユちゃん、かなり怒っているよ!」


「むぅ~ あと、5時間眠らせろ」


「単位がおかしいから! ほら、早くしてってば! 遅刻しちゃうし、彩雪ちゃん起こっているから!」


 そう言いながら、俺の肩を揺すり、いやこれは「強請り」といったほうがいいんじゃないか…… 目を開けるとそこにはいつも俺が使っている木目調の机がある。そして、さっきから俺を起そうとしているのは幼馴染の秋月雨乃だ。彼女はストレートの茶髪を腰のあたり案で下げていて、慌てるような顔をして俺を見ている。


「雨乃? どうしたんだ? 朝からうっさいぞ」


「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。 彩雪ちゃん、すっごい怒っているんだから! 早く着替えて来てね!」


 そう言いながら雨乃は、昨日使っていたマグカップを「キッチンに持って行っておくからね!」と言いながら部屋を出ていった。ちなみに、終始慌てていたような顔をしていながら、ムスッとした顔もしていた。いや、どうやったらその表情を一緒にできるんだよ…… ちなみに、サユちゃんとは俺たちのもう1人の幼馴染の事だ。


 さすがにこれ以上待たせるわけにはいかないから、とっとこハム太郎、ではなく早く着替えよっと。時間を見るとちょうど時計は8時を指していた。ちなみに俺の通う高校の終業時刻は8時20分。こういう時に早着替えって役立つよな。クラスに1人はいる謎の特技を持っている人。どうも俺の事です。


 制服に着替えて、バッグを持って部屋からでる。それから顔を洗いに洗面所に向かう。これも朝の少ない時間を有効活用するための時短テクニックです。まぁ、こうなったのは完全に自業自得だけど。


 洗面所を出てリビングに向かう。この家はリビングダイニングとなっていて、そこにはさっき部屋から出ていった雨乃ともう1人の幼馴染の彩雪がいる。どうやら雨乃が言っていたことは本当だったらしくて、彩雪は見るからに怒っていた。黒髪は肩のあたりまで少しウェーブが掛かっている。だけど、今の俺にはそのウェーブがキャラが起こっている時の風の表現にしか見えない(語彙力不足)


「晴希、遅い」


 彩雪、いや彩雪様は短くそう言った。普段、雨乃と一緒にお喋りな彩雪がここまで怒っているとは…… まぁ、いつもの事か。そして、いつも俺のせいなんだが。


「悪かったって。すぐに飯食うから。だから、その席どいて?」


「残念ながら、晴希の朝食は既におばさんの胃の中よ」


 マジかよ…… 母さん2食分も食べたっていうのか。だから、体重計が“おかしい”記録を出すんだろ。


「それより、時間もないんだから朝ごはん食べている時間なんてないから! ほら、2人も早くいくよ!」


 そう言って1人雨乃は急ぎながら玄関に向かう。俺と彩雪もそれに追いかけるように続き、ローファーを履く。それから、3人そろってキッチンで洗い物をしていた母さんに「行ってきます」と言い家を家を出た。


 にしても2人が朝、この家に居ることが当たり前になってきたな。本当にいつもすみません……


 家を出た3人は少しだけ早歩きをしながら学校に向かっている。ここから学校までは普通に歩いて10分程度のかなり近い場所にある。家を出た時間は8時10分。これくらいなら終業時刻には間に合うだろう。


「それにしても晴希、どうやったらこんなに寝坊するのよ!?」


「昨日の夜アニメ見ていたら、遅くなった。反省はしているけど後悔はしていない」


「どうしてリアタイで見るのよ!? 録画して後からでも見れるでしょ!?」


 以外に思われることもあるが、成績が良く、清楚な見た目な彩雪はサブカルチャーに詳しかったりする。昨日のアニメも彩雪はかなり楽しみにしていたのだが、俺とは違って、寝ることを優先したようだ。


「やりたいことがあったから仕方ないだろうが。そういえば、主役の声優の冬川雪って人の演技かなりすごかったぞ」


 なんなら、OPとEDの2つの作曲を俺が担当したなんてことも言いたくなったが、グッとその気持ちを抑える。俺の仕事の事は両親以外の誰にも言っていない。それは幼馴染の2人にも言えることだ。


「そ、そうなの? 本当に? どこが良かったの?」


 どうしてか彩雪が問い詰めるように聞いてきた。それに伴って歩く速度も落ちてしまった。それを見かねた雨乃が「2人とも早く歩いて!」と急かしたために、俺と彩雪の会話は終わった。


 家を出てから7分ほど経っただろうか、俺たちは学校に到着することになった。それでもかなりギリギリになったせいか、生活指導の先生がこちらを睨んでくる。この学校では教室のすぐ外にあるロッカーで靴を履き替えることになっているので、後者に入ってそのまま階段を上がっていく。2年生の教室は3階にある。ちなみに、俺たち3人のクラスはそれぞれ別となっている。


 ついさっきまで早歩きだったせいか、階段を上がり切った時には、かなり息が切れていた。ついでに7月に入ったばかりとは言え、かなり暑くなってきていて、汗が肌に張り付いていて不愉快にさせる。


 それから、俺たち3人は階段のあたりで別れると、それぞれの教室に向かっていった。そして俺はロッカーで靴を校内用のに履き替えて、教室に入った。


 教室ではクラスメートがそれぞれのグループで1つの机に集まって話し込んでいた。俺の机を見てみると、男女が合わせて6人ほどのグループが集まっていた。まぁ、俺がこのグループに入っているわけなく……


「そこ、どいてくれないか?」


 俺がそう言うとそのグループは「うわ、陰キャじゃん」「空気よめよ」と渋々言いながらも、別の所へと移っていった。このやり取りに興味を示したクラスメートは他にいるわけがなく、そのまま朝のホームルームを迎えることになった。


 そうです。俺はさっきのグループの彼らが言った通りのただの陰キャです。

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