ディスペラータ・ネル・ブイオ ~異世界贖罪譚~
ビビッド・ウェイン
プロローグ
第0話
この映像は……どこかで見たような……いや……どこかではない……どこでも見せられた光景である。
またか、また俺は失うのか。嫌と言うほど自身の直感がそう告げる。これで何度目だろうか。
特別な存在を守ったはずなのに。俺に感謝の眼差しを向けるべきその瞳に映るは絶望。明らかな敵意と恐怖が込められている。
先程までは俺に救いを求めていたはずなのに。何故そんな目をするのか理解ができない。握り締めた拳に思わず力が入る。しかし力は放出する先を知らず、そのまま握り締めたまま。
いや、理解できるはずだ。俺の腕は白くも黒くも黄色くも無い。赤だ。本能が拒絶を告げる赤。しかし救いの赤でもあるはず。
複雑な様相を見せたその赤を見すぎたからだろうか、絶望の目からは一筋の滴が流れ落ちてくる。
抱きしめてその滴を拭ってやらなければ。それが出来るのは俺だけだ。そう決意し足を一歩踏み出す。
俺が足を踏み出した瞬間、その距離だけ抱きしめるべき体が遠のく。その体は震え、首は微かに横に振れている。
ついに顔面の中で居場所を失った滴が落ちる。重力の法則に従えば床にポトリと落ちるはずだが、そうはならずに特別と床の間を繋いでいる、温かさを失いつつある有機物のどこかに消え去った。
体じゃなくてもいい。髪の毛でもいい。指一本でもいいんだ。特別な存在に触れていたいのに。拒絶の色が濃くなっていく瞳を見てしまえば、それは叶わない。きっと永遠に。
ああ、そうか。俺は理解してしまった。この世で一番理解したくないことだ。また裏切られてしまったか。何でだ、何でだ、何でだ。俺は今度こそ裏切られないはずだったのに。
「何でだ……」
思わず声が漏れる。漏れているのは声だけではない。
出そうとも思っていないのに、悔し涙が漏れて止まらない。俺は絶対に、絶対に……。
腕の力が抜けていく。抱きしめる存在も無いことを理解してようやく、放出する方法を学んだようだ。
そこから徐々に下へ下へと力が失われていき、重力の法則に従って倒れ込んでしまう。先程の滴とは違い、俺と床を繋ぐものは何もない。
気付けば土下座でもしているみたいだ。果たして何に願っているのだろうか。それとも何かしらの許しを請うているのだろうか。誰も答えは教えてくれない。
そうしてしばらく経ってから顔を上げてみると、既にそこには誰もいなかった。俺の瞳は全てを見ることを拒絶した。
ごぼり、と。体のどこかで何かが溢れだす音が聞こえた。
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