アステリズムの夜
町川 未沙
星
*
「最低」
「おい、待てよ
怒りに震える声で吐き捨てる私に、彼氏──いや、もう“元”彼氏と言っておこう──は、焦ったように声を上げる。
彼の隣に座る、私の親友だったはずの女子生徒も、瞳を潤ませながは訴えかけてきた。
「あのね凛、これは違うのっ……」
「何が?私全部見てたから」
ここはバスケ部の部室。
男子バスケットボール部のマネージャーを務める私が、インクが切れたボールペンを変えるため部室に戻ると、部屋の中から男女の話し声が聞こえてきた。
何故か嫌な予感がして、音をたてないように戸を開けるとそこでは、同じマネージャーである親友と選手である私の彼氏がキスをしているところだった。
私が部屋に入ってきたことに気がついていない二人は、何度も繰り返し唇を重ねていた。それは、「事故だ」などで誤魔化せるレベルのものではなかった。
言い訳は出来ないと悟ったらしい元彼氏は、はあっと大きくため息をついて言った。
「……そもそも凛が悪いんだろ。お前、手を繋ぐ以上のこと何もさせてくんねえじゃん」
「っ……!」
私は声を詰まらせ、手に持っていたインクのないボールペンを元彼氏に向かって力いっぱい投げつける。
「うわ、何すんだよ」
「最低」
私はもう一度そう言って、自分のカバンをひったくるように取ると部屋を出た。
今までもあの二人は、私の知らないところであんなことをしていたのだろうか。
モヤモヤするようなイライラするような、そんな感情をどこにぶつけたら良いのかわからなくて、私はひたすら走った。
いつもは自転車で帰っているけど、今日は自分の足で走っていたかった。
冬の冷たい空気が頬を刺しても、スカートが大きく翻っても、走るのをやめたくなかった。そうしていないと、吐き出しどころのない感情は、自分の中に溜まっていく一方だったから。
家族にも心配されてしまうだろうかと思うと、家にも帰りたくない。
そうやってがむしゃらに走っているうちに、気が付けばいつもは通らない団地の中へと遠回りしていた。
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