第六章 その二

「私『達』だと……?」

 ゲイルはハッとフォグルに視線を遣る。それを受けてフォグルはニヒっと笑い返す。

「いや! まだだ! まだ終わりではないっ! 儂が貴様を始末すれば良い事だっ!」

 そう叫んだウインデルは持っていた槍を構える。実に堂に入った構えである。

 室内でも取り回しがし易い様にと短槍を選んだのは、もしかすれば自身が戦う必要があるかもしれないと想定していたのだろうか。

「一度だって私に勝てた試がないのに、勝てる気でいるのかしら?」

「それは剣での話。そして貴様の剣の腕は散々見知っておる! 儂の槍捌きの前では貴様の剣なぞ掠りもさせぬわ!」

「……言うじゃない」

 ウインデルはヘイリアの注意がゲイルに向かぬ様、敢えて挑発して見せる。ここで少しでも時間を稼ぎ、ゲイルに逃げる隙を与えなければならない。

 ウインデルは知っている。

 ヘイリアの剣技は自身を遥かに凌駕している事を。

 それは槍と短剣という圧倒的リーチの差を以てしても、いささかも埋める事はあたわない。

 それ程に隔絶した実力の差がある。

 むしろ、彼女と闘い、勝利を得る人間など果たして存在するのだろうかとさえ思えてしまう。

「征くぞっ!」

 先手を取られては、その勢いのまま勝負が決するのは自明の理。

 ヘイリアが動く前にウインデルが仕掛けた。

 それをヘイリアは王者の様な貫録を以て受けて立つ。勝負となると先手を譲ってしまうのは、フォグルとの度重なる勝負の習慣のせいであろうか。

「はああああああああああああ!」

 裂ぱくの気合で、必殺の鋭い突きを連続で繰り出す。

 ヘイリアは冷静に全ての突きを躱し、逸らし、少しずつ間合いを詰めていく。

 あと一歩──、ヘイリアの間合いに入るという所で、ウインデルが体当たりを仕掛けて来る。

「うわっと!」

 驚いた様な声の割に、余裕を持って躱すヘイリア。

 そのままの勢いでウインデルはヘイリアと距離を取る。ヘイリアを中心として点対称の位置に移動した形で再び向き合う。

 ヘイリアに、ゲイルに背を向けさせる事で逃げる隙を生み出そうと言う魂胆もあった。

「ハァ……ハァ……ハァ……化物めっ……」

 ウインデルは全身から滝の様に汗をしたたらせ、肩で息をしながらもヘイリアを睨み付ける。

 些かもその闘志に衰えは見られない。

「良く言われるわ」

 ひるがえってヘイリアは未だ息一つ乱れてはいない。少し体に火照ほてりが見られる程度である。

 やっと体が温まって来た、と言い換えても良いだろう。

 そう──、ヘイリアはまだ全力で闘ってすらいないのだ。

 だがそれは少し違う。出し惜しみをしているのではない。全力を出して闘うという事を徹底的に排除している。それがヘイリアの闘い方だった。

 体力でも筋力でも男には劣る。だからこそ、一切の無駄を排除した技、体捌きを身に付けた。その精度はあらゆる動作がナノの世界に突入している、熟練の職人が長年同じ動作を繰り返す事によって会得する様な感覚を、あらゆる動作で体得していた。それはひとえに一秒でも長く戦える様に。フォグルの前に立ち塞がる全てに立ち向かえる様に。

 ヘイリアは周囲の全ての者に意識を向けながら、ウインデルの相手をしている。ウインデルはヘイリア一人に全神経を集中させていると言うのに、結果はこの様だ。主君であるゲイルを逃がすだけの隙を作る事すら出来ない。

 かくなる上は──。

「いやああああああああああああああ!」

 覚悟を決めたウインデルが、全身全霊を篭めた突撃を敢行する。

 愚直なまでに一直線。最短距離での突撃だ。

 加速と重量の乗ったウインデルの突撃を、ヘイリアでは正面から受ける事は出来ない。

 選択肢はどう回避するかのみ。

 ヘイリアは繰り出される必殺の一撃を足場に、縦に跳ぶ事でウインデルの突撃を回避。華麗に背後に回り込むと、背後から首を狙って一撃を放つ。

 渾身の一撃を躱されたウインデルは、想定通りの流れに歓喜を爆発させる。

 背後から感じる必死の気配に、ウインデルは回避を選択しない。

 振り返る時間も惜しいと、短槍を放棄し両腕で左右から襲い掛かる両の短剣を防御する。

 ウインデルは両腕を犠牲にして、ヘイリアの短剣を奪う腹積もりであった。

 鍛えに鍛え抜かれたウインデルの腕は、その一撃を優に受け止め得るだろうと思わせた。

 それが、そこらの短剣であったならば、ヘイリアの技術を以てしてもウインデルの思惑通りになったかもしれない。

 だが、ヘイリアがフォグルから手渡されていた短剣は、生前ディザステルがヘイリアの為だけにあつらえた業物。腕力の劣るヘイリアの為だけにこしらえられた短剣は丈夫で、そして何より切味が抜きん出ていた。

 一切の躊躇なく振り抜かれた両の短剣は、ウインデルの両腕ごと、一撃の下に首を斬り落として見せたのだった。

「ウインデルっ!」

 二人の闘いをただ見ているだけしか出来なかったベルクヴェルクの重臣たちが、ウインデルの死に愕然とする中、ゲイルだけは剣を抜きヘイリアに向かって一歩を踏み出した。

 意識の全てをヘイリアに向けて。

 その瞬間──

 背中から胸に向かってける様な鮮烈な痛みが駆け抜けるのをゲイルは感じていた。

 ゲイルがゆっくりと振り返ると、緊張した面持ちで両手を血で汚したクラウディアの姿があった。

 クラウディアは強張った表情ながらも、力強い瞳でゲイルを見つめていた。

(まさか……な……。油断したか……)

 ゲイル一生の不覚であった。

 背後から刺された傷は、幸いにも心臓を外れていたため即死は免れたものの、致命傷であることは明白であった。

「なぜ…………だ…………?」

「彼女が言っていたでしょう? 『私達』にとってあなたはもう用済みだと」

(そういう……ことか…………)

 いつから俺は罠に嵌められていたのだろうかと、ゲイルは死に至るまでの残り僅かな時間でそんな益体やくたいもない事を考えていた。

 そして──

「ゴフッ! ガハッ!」

 大きく咳込み大量の血を吐き出し、そのまま床へ倒れ伏す。

 そして二度と起き上がる事は無かった。

「あ、あ、あ…………ああああああああああああああ!」

 立ちどころに領主と将軍の二柱を殺され、居並ぶ重臣たちは恐慌を来す。

「静まりなさいっ!」

 彼らを正気に立ち返らせたのは、クラウディアの一喝であった。

「我が夫、ベルクヴェルク領主ゲイル・ベルクヴェルク伯爵は、たった今ご逝去せいきょなされました」

 自分で殺しておいて良く言う──などと口が裂けても言える状況ではなかった。

 クラウディアの側には、あの魔物ヘイリアが味方しているのだから。

 ただ、この小娘が一体何を言う積りかと、傾聴けいちょうする姿勢を見せる。

「従って! 亡き夫に代わり正当後継者たるこのクラウディア・ベルクヴェルクが後を引き継ぎ! ルーイヒエーベネ、ベルクヴェルク両州を統治するものとする!」

 有無を言わせぬ強い口調で、クラウディアは宣言する。

 パチパチパチパチ

 と、フォグルとヘイリアだけが祝福の拍手を贈る。

 だが当然ながらその一方的な宣言に、居並ぶベルクヴェルクの重臣たちの内の一人が流石に我慢ならんと恐怖も忘れて怒りもあらわに叫び出す。

「ふざけた事を! 誰がその様な戯言ざれごとを認めると言うのかっ!」

「戯言? ふざけているのはあなた方では? これは正当なる権利に基づいた決定事項です。ルーイヒエーベネ唯一の後継にして、身寄りなきゲイル伯爵の妻たる私が両州を納めるは当然の事! 従えぬと言うのなら……」

「殺せるものなら殺すが良いっ! 統治とは一人で行う物に在らず! 我等を除いて両州のまつりごとが貴様如きに出来ようかっ!」

「フフ……。御心配は無用です。その為の手筈を整えていないとでも? あなた達の代わりなど幾らでも居るのですよ」

 やってしまって下さい、と冷徹な声でクラウディアは告げる。

「待て──」

 それが、その貴族の最後の言葉となった。

 ヘイリアが落ちている槍の穂先を拾って、反抗する貴族に投げ付けたのだ。

 穂先は狙いあやまたず、心の臓を一突きにし、反抗する貴族を永遠に沈黙させる。

 それを見届け、クラウディアは告げる。

「他に私に意見する者は居ますか?」

 クラウディアの本気を見て取った残りの重臣たちは、うやうやしく新たな主君にこうべを垂れるのだった。


 その後のクラウディアは、まさに目の回る忙しさであった。

 ルーイヒエーベネとベルクヴェルク、両州が新たな領主によって合併、統治される事を周知。元ベルクヴェルクの民たちに移住の自由を認め、鉱石と食料の売買を以前のそれと同じ様にして再開。あくまで対等である事を強調させていた。

 それぞれの軍は一度解体し、新たに再編。西のホーホエーベネは飢饉が遂に極まり崩壊。総体としての軍備は縮小しつつも、新たな軍は全てを職業軍人でまかなうという強兵策を採用。遠くない内に来るであろう外敵に対する備えも怠る事はない。

 政治機構については頭を悩ませた。

 フォグルが事前に文官達を城外に避難させていたため実務に大きな影響はなかったが、両州の溝は決して浅くはない。そこで、両州の各文官達と政にたずさわる貴族達を、三年毎に半数ずつ両州を行き来させることとした。両州の融和と権力の集中を阻む目的であった。

 また新たに一つの州としての名前を考案。

 新たな州の名は、ゼーゲン州と名付けられた。

 後に国体が事実上消滅したのを境にして、州の名をそのままとってゼーゲン王国となるのだが、それはまだ少し先の話である。

 大小様々に噴出する問題に対処しながら、何とか政を形にしていく若き女領主は、忙しさが極まると今は城を離れた二人の事を思い出しては暫し現実逃避をするのだった。


 ◇


「そうね──そうなっても良かったんだけどね」

「え──?」

 床に抑え付けられたままの状態でヘイリアは右足を跳ね上げ、爪先でフォグルの後頭部を強打する。

 フォグルの体がヘイリアに覆い被さる様にして倒れ込む。

 力の抜けたフォグルを撥ね退ける事は簡単であったが、敢えて倒れて来るままに受け止める。いやむしろヘイリアから抱き付きに行っている様にも見えた。

 一瞬意識が飛んだフォグルが気が付いた時には、体勢はほぼ変わって居ないのに勝敗は決定的に変わっていた。

「まだ続ける?」

「いや……降参。──っああああ……。連勝できると思ったんだけどなぁ」

「甘い甘い。そうそう何度も負けては上げませんよー」

 床で抱き合いながらイチャイチャしだす二人に、堪らずクラウディアが声を掛ける。

「ここで私も終わりですか……。覚悟は出来ています。出来れば苦しまない様にお願いしますね?」

 二人に歩み寄り膝を付くと、そっと目を閉じてその時を待つ。

 覚悟は出来ていると言いながらも、その体は小刻みに震えていた。公爵令嬢と言えど今年まだ成人したばかりの少女だ。死はやはり恐ろしい物だった。

「大丈夫ですよ姫。目を開けて下さい」

 フォグルが起き上がり、震えるクラウディアを包み込む様に優しく肩を抱きながら声を掛ける。

「私はここで殺されるんじゃないの?」

「約束したでしょう? 力の及ぶ限りあなたをお守りします、と」

「はいはい、そこまでそこまで。離れて離れて」

 グイグイと強引にヘイリアが二人を引き離す。

「今良い所なのに。もうちょっと待ってよ」

「待ちませんー! お嬢様も! あなたを殺す積りはないから。安心しなさい」

 ゲイル達には生け捕りにする様言われていたが殺してしまう積りで探していたヘイリアだったが、まるで最初からそんな気は無かったかの様に言う。

「信用できません」

「あなたを殺したらフォグルに嫌われるじゃない」

「信用しましょう」

 一瞬にして前言を翻す程の説得力を持った言葉だった。

 そんな二人の遣り取りをニコニコと見守るフォグルに、クラウディアは視線を向ける。

「初めからこうなるって分かってたんでしょ!」

「こうして会うまでは半々。直接会って言葉と剣を交わして、確信しました。はい」

「もうっ!」

「でも勝負はちゃんと勝ちに行きましたよ。勝ちたいですからね。負けちゃいましたけど」

「はぁ……もういいわ。で? これから私達は何をするの? それも考えてあるんでしょ?」

 この二年の付き合いでフォグルのやり口を嫌と言う程知ってしまったクラウディアは、諦めた口調でフォグルに先を促す。

「あー……悪いけど、ゲイルの奴からお嬢様は生かして連れて来るように一応言われてるから、殺さない以上はこれは外せないわよ?」

「うん大丈夫。想定通りだから。姫様も、良いですね?」

「…………仕方ないわね。良いわよ。それが必要なんでしょ?」

「はい。その代わり、それだけの見返りはありますよ」

 大船に乗ったつもりでお任せくださいとフォグルが請け負う。

 フォグルはいつもこんな感じなので良いが、敗戦の姫とは思えぬクラウディアの様子にヘイリアは自分の事を棚に上げて違和感を覚えていた。

 今後のクラウディアのやる事について滔々とうとうと語って聞かせるフォグルをさえぎって、ヘイリアは敢えて見えている罠を踏みに行く。

「私は、あたなの父親含め、この城の多くの貴族たちを殺して来たわ。それなのに、あなたからは私に対する怒りや憎悪を感じない。何故かしら?」

 クラウディアはヘイリアの目を真っすぐに見据えて答える。

「二つ、あります。一つは、サンダーク将軍の訃報が伝えられた時。フォグルからこうなるだろうと聞かされていました。さっきも言いましたでしょう? 覚悟は出来ています、と」

「……もう一つは?」

「私達の行いに対する報いは、当然に受けるべきでしょう?」

 その言葉にはクラウディアの、領主一族として生まれ育った者の自負が込められていた。自暴自棄ではない。最善と信じて行った行為の代償は、甘んじて受け入れる。権力者階級である自分達が、その責を負うのは当然の義務であると。それが例え、自身のした事ではなくてもだ。領主とは斯くあるべしとクラウディアは常々考えていた。

 保身にばかり走る凡百の貴族達とは、クラウディアは一線を画す存在であった。

 その心の強靭つよさには、ヘイリアも気圧けおされるモノがあった。

「姫様……御立派になられましたな……」

 感激の涙を拭う振りをフォグルがしていると、

「「うざっ」」

「ひどいっ」

 二人共から非難されてしまっていた。

 よよよと泣き崩れる下手な演技でバッグに近付くと、また中を漁り出す。

 そんなフォグルを見て、二人は笑い合っていた。

「いいんだ、俺にはまだとっておきがあるんだぜぃ?」

 じゃーんとバッグから取り出したのは、二振りの短剣だった。

「リアにプレゼントだ」

 はいと手渡す。

 受け取ったヘイリアがその短剣を手に取ると、直ぐに気が付いた。

「分かる?」

「ええ……これは…………凄いわね……」

 手に吸い付く様にピタリと収まる感覚。初めて握るのに、長年使い続けたかのような体との一体感。自分の神経が通っているかの様だ。

「これなら敵がどれだけいても負ける気どころか、フォグルに傷一つ付けさせずに戦える気がするわ」

「そう来なくっちゃね。リアがこれからの仕上げの要になるからね」

「はいはい。で、私は何をすればいいのかしら?」

「それはね──。あ、姫様ももう一度」

 フォグルは二人にこれからやる事、やってもらう事を説明していった。


 ◇


「はぁ~あ……。あの時は楽しかったなぁ。あんなドキドキしたのはあの時だけだもの」

 女公爵として毅然と振舞う姿はどこへやら、承認待ちの書類の山を前にして子供の様にイヤイヤしているクラウディア。

「はあ……。フォグル達は今頃何処で何をしているのかしら……?」

 窓から遠くの空を見つめていると、ついそんな想いが零れてしまっていた。

 そんなクラウディアに近付く影が一つ。

「ここで、今からあなたを折檻する所です」

「へっ──?」

 

 パコーン!


「痛いっ!」

 丸めた紙束で思いっきり頭をはたかれたクラウディアが、気まずそうな顔で視線を逸らす。

「どうせこんな事だろうと思いました。何、人を過去の人扱いしているんですか。テキトウな事言って仕事をさぼらないで下さい」

「うう……、帰って来るのは夜だって言ってたのに……。騙されたわ……」

「その積りだったのですけどね。呼び出されたんですよ。『女公爵が仕事をして下さらない』ってね」

 ジロリと睨んで来るフォグルに、気まずさがピークに達したクラウディアは椅子をクルリと回転させてフォグルに背を向ける。

 フォグルは明らかにヘイリアとのデートを邪魔されてご機嫌斜めであった。

「まあ良いじゃない。デートはいつでも行けるんだから」

 遅れてクラウディアの執務室に入って来たヘイリアが、フォグルをとりなす。

「今は一緒に暮らしてるんだから、ね」

 フォグルとヘイリアの二人は現在、州都ヴァルムに居を構えていた。

 元フリーレンの村人達は解放されたとは言え、村は壊滅。そのまま元の暮らしに戻るという訳にも行かず、伝手つてを頼って身を寄せる者、そのままベルクヴェルクに留まって暮らす者、二人の口利きで新たな土地で身を立てる者、それぞれが新たな道を歩む事となった。

 フリーレンの村長という役職が消失したヘイリアもまた、フォグルと一緒に暮らすと言う新たな道を進んでいた。

「さ、姫様。今日中にここの書類、全て処理していただきますからね?」

 ニッコリと浮かべる笑顔に、まだ完全に怒りが収まった訳ではなさそうだとクラウディアは観念する。

「はぁ~い。じゃあバババっと片付けちゃいましょ! ……っと、フォグル!」

「何でしょうか?」

「もう姫じゃないでしょ!」

「おっと……。これは大変失礼致しました。『姫様』」

「もうっ!」

「あなた達っていつもこうなのね。変わった主従ね」

 コンコン。

「御歓談の最中申し訳ないんですがね、よっと──」

 ドスン!

「『姫様』、追加のお仕事ですぜ」

「リードまで!」

「おう! 御両人、今日も元気そうで何よりだ。どうだい? 今晩付き合わないか?」

「いいですね」「お邪魔します」

「おうさ。じゃあいつもの店でな」

 用は済んだとさっさとフロストリードは持ち場の門へと戻って行く。

「あっ……私も……」

「姫様は今日は缶詰ですね」

「そんなぁ……」

「サボってるからこういう事になるんです」

 ヤレヤレと、フォグルは椅子を持ってきてクラウディアの正面に座る。

「さあ、時間までに全部片付けますよ。書類は私が目を通します。姫はサインを。リアは仕分けと決裁の済んだ書類を役人に渡して」

「はい!」「りょーかい!」

 クラウディアの治世の裏には、歴史の表舞台に登場する事はない彼らの存在があったのだった。

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