僕の灯が堕ちるまで

碧生 なの

目覚め

 重たいまぶたを持ち上げ、痛む後頭部をさすりながら俺はどうにか感覚をフル稼働させて状況を把握しようと試みる。

 暗い部屋だ。薄く開いた瞼から見えるのは遠くのほうで光るモニターのようなもの、そして何人かの人影だ。

 俺は今ベッドの上で仰向けになっている状態だ。ここはどこなんだ……?

 全く思い出せない。なぜここにいるのか、どうやってここに来たのか。いや、来たんじゃない。連れて来られたんだ。それだけはわかる。

 感覚が戻りつつあるとき、遠くのほうにいる人物たちの会話がかろうじて聞こえてきた。


「……注射を用意してくれ。あとケーブルも」

「ハードディスク問題なし。いつでもOKだ」


 注射、ケーブル、ハードディスク。

 統一性のないような単語たちが次から次へと聞こえてくる。

 やがて会話が終わり、次は足音が聞こえてくる。それはこちらに近づいてきているようだ。

 自分でもなぜここまで冷静なのかわからない。感覚が次第に戻っていく。

 男二人だろうか。俺の横に立っている、気がする。バレないよう目をつむっているからあくまで感覚だ。


「準備はいいな。ケーブルを繋げ」

「了解」


 嫌な予感がした。


 背中にかすかな振動が伝わる。ケーブルを何かに繋いだのだろうか。

 すると突然空気が漏れるプシュッという音とともに蒸気のようなものが俺の顔をおおっていくのがわかった。体の危険信号。心臓の鼓動が早くなる。

 この時点でタダ事じゃないことは察知していた。しかしおかしい。体が動かない。先ほどまで何事もなかったのに、急に力が入らない。やがて強烈な眠気に襲われる。


「……ッ!!!」


 声帯もイカれてしまったのか声すら出ない。まったくいきなりクソな状況だ。

 意識が切れる――と思ったその寸前、全身に雷でも落ちたかのような衝撃に襲われる。力がみなぎる感覚。

 今ならいける。そう思った。


「なっ!?こいつ目を覚ましたぞ!!」

「構えろッ」


 俺は無意識に飛び起きていた。急な力の入りように膝がカクつく。

 今の俺なら目の前にいるこいつらを皆殺しにできる。確信すらあった。

 だが俺はすぐさま正面にいたハンドガンの銃口を向けている男のみぞおちに蹴りを入れ、手から離れたハンドガンを奪い取りすかさず発砲。放たれた二発の弾丸は男の胸を捉えた。


「こいつ……ッ!」


 仲間の男も発砲してくるが俺は訳も分からずそれを回避――いや正確には弾道を読み取って避けた。すぐに焦点を男の額に合わせてトリガーを引く。男は一発で倒れた。

 残りの敵数を確認する間もなく俺は出口を目指して駆け出した。ドアを蹴破けやぶって進む。階段を飛び降りてまた走る。後ろから声が聞こえるが無視して走り続けた。

 外に繋がる大きなドアを見つけた俺は何を思ったかハンドガンでドアノブを破壊、足で蹴り外へ脱出した。

 敵に発砲してから一瞬だった。何が起きたのか自分でもわからない。

 ひとまず外に出られたことに安堵した――のも束の間だった。おそらく裏から回ってきたであろう敵に見つかり、敵が発砲したのと同時に全身から力が抜けるように意識も消えた。

 

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