ピアニストに恋をして

西尾 諒

第1話

恋をしたことはありますか、と聞かれてNOと答える人はいないだろう。もしいたとしても、それは自分の心を隠しているだけに違いない。恋というものは反射神経と不随意筋に繋がっているものだ。突然訪れ、自分の意思でなんとかなるものではない。もっともそれを無かったかのようにすることは意志の一つでどうにでもなるのだけど・・・。それを隠すことになんの意味があるのだろう?

まるで恋とは無縁のような僕だって・・・現実の恋の三つや四つしたことはあるさ。でもピアニストへの恋の数は・・・三つや四つでは済まない。

老いていようと若かろうと男であろうと女であろうと、極端に言えば生きていようと死んでいようと、僕は上手なピアニストに間違えなく恋してしまう。

彼らの鍛えられた指は、彼らの強靭な腱は、彼らのロマンチックな語り掛けは、或いは・・・或いは少し素っ気なく見えても情熱的な心は、偉大な作曲家たちの音を借りて心を鷲摑みにしてくる。

涼しい風の吹く朝、午睡の微睡の中、夜寝付くまでの不安な心を抱えた床の中で彼らは僕を優しく包み、暖かく癒してくれる。

さて今日はどの恋人と一緒に・・・眠ることにしようか?

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