サキュバスネード5 グローバル・サイクロン

「な、何ですかこれは……」


 外に出たメイスンは、唖然とした。視線の向こう側に見える大きな竜巻。恐らくハリケーンの影響で発生したであろうそれは、黒い豆粒のようなものを大量に巻き上げていた。あれの一粒一粒が、きっと淫魔なのだ。

 すると、淫魔の群れが、こちら側へ高速で飛んできた。まるで蜂の大群のようだ。


「くっ……」


 メイスンは立て続けに淫魔を矢で射落とした。しかし、淫魔の数が多すぎる。一人では対応しきれない。


「我々が援護します!」


 メイドたちが、拳銃を手に駆けつけた。彼らの対空砲火によって、淫魔たちは次々と消滅させられてゆく。それでもなお、淫魔たちは人海戦術で押し寄せてくる。


「早く行け! このバカ息子が!」


 父の咆哮が、メイスンのすぐ後ろから聞こえた。振り向くと、父もまた狙撃銃を持って参戦している。父の射撃の腕前は一級品であり、一発ごとに淫魔を正確に撃ち抜いていく。

 メイスンは黙って頭を下げ、停めてある車へと向かった。


「よし、あのバカは行ったな。さっさと家に入れ。鍵の確認と窓の補強だ」


 父はメイドたちに指示を飛ばすと、扉を開けて彼らを誘導した。最後の一人が中に入ったのを確認すると、父はドアを閉めようとした。

 だがそこに、一体の幼女ロリ淫魔が飛びかかってきた。


「おわっ!」


 父は玄関口の床に押し倒され、弾みで後頭部を打ってしまった。幼女淫魔はすぐにメイドの銃で撃たれ消滅したが、後頭部を打った父の意識は無くなっていた。


***


 メイスンは、ひたすら車を走らせていた。淫魔が来る方向から、出所は大体絞り込める。だが、あくまで大まかな予測でしかない。

 車には、実家から持ち出してきた道具一式が載っている。散弾銃と拳銃二丁ずつ、日本刀、プロパンガスの2kg缶……これらがあれば、淫魔と戦い魔法陣を破壊できるはずだ。


「多分この辺だと思うのですが……」


 魔法陣は紫の光を放っているので、視認は容易だという。とにかく紫色の光が目印になる。建物の窓という窓を片っ端から眺めてみたものの、中々探し出せるものではない。

 街中では州軍と警察が避難誘導を行っていた。しかし、そこにも淫魔の大群は容赦なく飛来する。軍と警察は各々の火器で対抗するも数の差は圧倒的で、次々と淫魔に押し倒されては体をまさぐられ、精気を吸われ事切れていった。惨事というより他はない有様だ。


 先を急ぐメイスンの車の前に、一台の軽自動車が停まった。そのドアガラスが開き、黒人の男が声をかけてきた。


「おぅいメイスン!」

「マーク!?」


 車に乗っていたのは、マークであった。


「お前、逃げネェのか」

「ワタシはこれから淫魔竜巻サキュバスネードを解決しなければならないのです」


 メイスンの言葉に、マークは察したように頷いた。


「よし、オレも手伝ってやる。初回サービスで料金はタダってことにしといてやるゼ」

「初回サービスって……そんなのあるんですか?」

「ないけどな、今作った。これ一回限りだガハハハ」


 そうして、マークは車を降りた。その手にはチェーンソーが携えられている。メイスンはガス缶を背負い、肩に散弾銃を掛け、腰に拳銃と日本刀を帯び、もう一丁の散弾銃を手にして車を降りた。


「何の手がかりになるか分かんネェけどよ、右に曲がって二ブロック行った先のアパートから変な光が漏れてたんだよな。テレビの光にしちゃ何か違うしよ……何だったんだアレ」

「……それです! それですよマーク!」


 思いがけなく、メイスンは手掛かりを得ることができた。そのアパートの何処かに、魔法陣があると考えられる。


「じゃあ行きましょう」

「おう」


 淫魔の大群が飛来する中、二人は例のアパートに向かって走り出した。


「オレはサメを相手にしてきたんだ! 淫魔如きにゃ負けないゼ!」


 マークはチェーンソーを唸らせながら淫魔を叩き切りながら突き進んでいく。彼の仕事道具であるチェーンソーは、今まで多くのサメを葬ってきた必殺武器だ。

 

「やりますねマーク。だがワタシも!」


 メイスンもまた、散弾銃で淫魔を撃ち落としていく。そして、とうとう紫色の光を放つ窓が見えてきた。


「あれですか……」


 メイスンとマークは、淫魔を薙ぎ払いながらドアの方に回り込んだ。

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