空だけは青い。

真昼

第1話 唐突な話

「突然だけど芳野タイムスリップできるようになった。」


僕を突然家に呼び出した友人の水俣凌平が突然口を開いた。

「何?夢でもみたの?」

僕はそう聞き返す。しかし、寝ぼけているようすはなかった。

「いや、俺も夢かと思ったんだけどさ、簡潔に言うと5回まで望む過去の時間に72時間いることができるって夢の中で白い服を着た男が言っててね、実際に試してみたら目の前に黒い穴が出た。そのときは何処にもいかなかったけど。」

どうやら本当らしい。素直に驚く話だ。


「ほう、あれは?歴史の改変とかタイムパラドックス。」

定番な質問だよな、そう思いながらもつい聴いてしまった自分が憎い。

「んとね、過去の自分と会わないこと、本来の歴史を変えるのは不味いって言ってた。変えたら世界にペナルティがあるとかないとか。」

興味無さそうに彼は言う。

「なるほどね、有意義に使いなよ。」

特に何かしたいわけではない。僕は少なくともそう感じた。

「手始めに2008年にもどっておもいっきりムシキングやって来るわ。」

「なぜ?」

「なんか無性にやりたくなって。」

そういった彼は、子どものような無邪気な笑顔を浮かべていた。

「もっとエロいことに使うと思ってたわ。」

「失礼な、さすがにそこまでアホじゃない。」

「ちなみに2008年を選んだのは、たまたま自分がムシキングにのめりこんでいたからだ。」

思ったより普通の理由だった。だが、気持ちはわからなくもない。

「そうか、なら遊んでこい。」

「おうよ。あ、ごめん芳野。」

「なに?」

「金貸してくれ.....」

「しょうがねーな。」

自分の財布から3千円を取り出して水俣にわたす。

「気が利くじゃん。なんかお土産をかってきたげる。」

そう言って彼は突然目の前に現れた黒い穴に入っていった。

「まじか」

正直ホラ話かと思っていた僕が一番驚いた瞬間だった。



「よいしょっと」

穴から出た先は自分が指定したゲームセンターの裏の路地だった。

「こんなお手軽に過去に戻れるとはね。」

早速遊ばなきゃ、とゲーセンに駆け出す。

「おっと、これだけは隠さなきゃ。」

手に持っているiPhoneを胸ポケットにしまう。流石に”このサイズ”だと怪しまれてしまうだろう。しかし、ここであることを思い付く。

「お土産がてら撮影しとくか。」とビデオモードにしてゲーセンの中に入った。

芳野がくれた千円札は全部夏目漱石だった。

「なるほどね、確かにこれなら問題ない。」

両替機で1枚100玉にしてから、ムシキングの列に並ぶ。平日の11:00を指定したわりに少し混んでいる。

「まあいいや、久々に遊ぶか。」

そういって終わったのは昼過ぎだった。

終わってからは特に何もなく、喫煙所でタバコを吸っていた。あの頃は自分がここにはいると思わなかったと思いながら、立ち上る紫煙を静かに見つめていた。

すると、

「お兄さん火をかしてくれん?」と声をかけられた。

「いいですよ。」とライターを貸し出す。

「ありがとう。」

そういうと声の持ち主は満足そうに一服していた。

喫煙所を出たあとは特にすることもなかっため、迷わずもとの時代に帰ることにした。


「ただいま」

と水俣が声をかけてきた。

「早かったね、こっちの時間で言うとまだ30分くらいしかたってないよ。」

彼の部屋でマンガを読み漁っていた僕はもう少し読みたいと思っていたが、鞄から取り出したカードから目が放せなかった。

「めっちゃ懐かしいやん、このカード持ってたわ。」

「目の付け所がいいね。あと動画もあるよ。」

「過去のゲームの実況動画か。見せてよ。」

「おうもちろん。あ、ちょっと待ってまだ録画中や」

「終わったあと消し忘れてたんかよ。」

「悪い悪い、とりあえず充電するわ。でもムシキング以外にもいいものあるよ。」

「期待してるよ。」

水俣は充電器に差し込み、そのまま動画をながし続けた。

「おま、ここはどう考えてもグー1択だろ!」

「すまん、やけになって全部同じボタン押してた。」

そんな下らないやり取りのあと、動画の終盤で喫煙所に入ってくところが見えた。

「お、当時なら未成年喫煙」

何となく僕は煽った。

「うるせいやい。あっそうそうここでさ、かわいい女の子にタバコの火を貸したんだわ。ここ、ここ。」

下心が笑いかたにでるやつだ。と思ったが、確かに動画に出ている女の子は可愛かった。

「可愛いやん。」

そう一言呟いて画面に目を落とす。

しかし、そこで1つ違和感を覚えた。

「もう少し尺はあるけどここで終わりにするわ、充電したいからさ。」

僕はそんな事にも気を止めずスマホであることを検索していた。

「どうした芳野?」

「いやさ、水俣は2008年に行ったんよな?」

「そうやけど?」

「間違えないよな?」

なぜ芳野はそんなことを聴いてくるのだろうか。さっき出てきた女の子の現年齢でも特定したのか。どう考えても三十路だが。

「さっきたばこすってたやん水俣。お前は赤マルボロ、回りの人はみんなマイルドセブン吸ってるのにさ。」

いやまてよ、もっと女の子みなよ、と思ったが芳野の話を折るのはやめた。

「何であの娘は、メビウス吸っているの?」


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