第79話 祭りの終わりは・・・

 しかし、最後を治めるのは九尾狐だと健星は考えていたわけか。

「はあ、なんだか複雑」

 ここまで流されて、流されまくってやって来たけど、まさか初仕事とされていた戦までこの調子とは。

「そういう運命なんだろ、お前は。いいじゃねえか、王ってのはそのくらいの方がいい」

「健星的にってことよね」

「もちろん」

 飛んできた妖怪を拳銃を使ってぶん殴りながら、にやっと笑う健星はやっぱり悪者っぽい。でも、それが一番健星らしい。

「魂を分割してまで冥界に生まれ変わるのも、結局はそういう性分ってことなんだろうなあ」

 なんか、深刻に考えて損した。そう思うと心は思いっきり軽くなり

「ユキ、頑張れ~。土蜘蛛さん、右から来てる!」

 と、あっさり応援に回れる心境になった。

「だから、お前が凄いって」

 その切り替えの速さに呆れる健星だが、こいつが王になったら、ここは間違いなく良くなるなと、自然と笑みが零れた。そしてこれこそ、小野篁として生きた時代から求めていたものだと気づく。

「行くぞ!」

「おおっ」

 健星も馬をひょいっと飛び降りてケンカ祭りに参加し始める。それに続くのは左近だ。

「いいなあ。みんな、楽しそうで」

「ま、将門さんも行く?」

 寂しそうな将門に、殴り込んでもいいよと鈴音は訊くが

「いえ。大将を守るお役目を頂きましたから」

 ふんと踏ん反り返ると、飛んできた小鬼をぽいぽいと遠くにぶん投げる。その顔は生き生きとしていて、将門なりに楽しんでいるらしい。が、やっぱり中心で暴れたかった気持ちもあるようだ。

「将門さん、もう少ししたら変化するから、中心まで案内して」

「承りました」

 それならば堂々と行けると、将門はにやり。

 こうして大体一時間経った時――

「ケェェェン!」

 高らかに一鳴きして鈴音は変化した。それに妖怪たちは

「おおおっ!」

 と勝ち鬨を上げ

「負けるなあ!」

 鬼の総大将である酒呑童子が躍り出てくる。

 その酒呑童子は大柄な身体に水干姿と、人間より少し大きいものの、想像していた鬼とは違った。そこらへんを飛び回っている鬼のように角も生えていない。

「させぬ!」

 そこに将門が飛びかかり刀を一閃。さらに鈴音がばくっと酒呑童子の首に齧りついた。

「ぐぅ。半妖と聞いていたから半端者と思っておったのに」

 酒呑童子は首を囓られながらも恨み言を呟いたが

「新しき王の御前ぞ! 皆、武器を仕舞え!!」

 と高らかに告げた。それにより、鬼たちは戦闘を止める。妖怪たちはそれを見て、やんややんやと囃し立て、こうしてケンカ祭りそのものも終わった。

 鈴音はそっと酒呑童子を地面に下ろすと、首に出来た傷をぺろっと舐めた。すると、牙が当たって傷が出来ていた首筋が綺麗に治る。

「ふっ、力はどこまでも本物か。さすがは、九尾と安倍の血統よ」

 酒呑童子はそう呻くように呟くと、九尾狐姿の鈴音の前に膝を折った。

「我ら鬼にも、新しき王とともに生きることは可能でしょうか?」

 そしてそう神妙に訊ねた。鈴音はふっと微笑むと、ぽんっと元の姿に戻る。

「私はここにいるみんなが、妖怪だろうと鬼だろうと、元々が人間で今は神様だろうと、私みたいな半妖だろうと関係ない、住みやすい冥界を作りたいの」

 そして、あの宴会で言った言葉をよりしっかりした形で伝えた。すると酒呑童子は

「素晴らしきお心構えでございます。しっかり、見極めさせていただきますぞ」

 と重々しく告げたのだった。

 

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