第18話 妖怪の血

「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン」

 もの凄い早口で健星が真言を唱える。と、ぶわっと炎が巻き上がった。それが鬼たちに襲いかかる。

「きぃぃぃ」

 鬼はその炎に惑い、一匹が燃えて消えてしまった。

「凄い」

 鈴音は呆然とそれを見るしかなかった。しかし、残った一匹の鬼が鈴音を睨み付ける。

「そこにおったか。狐め!」

「ひっ」

「ちっ」

 健星が急いで拳銃を拾う。

「姫様に障るな!」

 だが、それよりも早くユキが襲いかかった。身体は人間のままだというのに牙を剥きだしに、ぐわっと鬼の喉元に食らいつく。

「っつ」

 その光景に、鈴音は後退ってしまった。鬼が必死にこちらに手を伸してくるのも怖ければ、ユキの半分が狐になった顔も怖い。


 妖怪が怖い。


 そうはっきり気づくともう動けなくなっていた。その間にぎりぎりとユキの牙が鬼の喉元に突き刺さっていく。すると、ぼたぼたと血と肉の塊が喉から落ち始めた。しかし、それは鬼の肉ではなく、どう見ても別の肉だった。

「あっ、ああっ」

 恐怖で混乱する。こんな奴らを束ねるなんて無理と、鈴音は首をいやいやと振る。私は妖怪じゃないのよと、必死に否定しようとする。しかし、目を閉じたくても閉じられず、なぜかユキの顔を凝視してしまう。


 あの顔を、私は今までに見たことがある。


「ああっ」

 そう思うと、頭が割れそうなほど痛くなった。鈴音はその場に蹲る。

「ぐうっ」

 ユキは助けに入りたいが、鬼を押えていなければならない。鬼はなおも鈴音に手を伸す。

「拙いな、混乱してるぞ!」

 健星が鈴音の様子がおかしいことに気づき走り寄ってくる。だが、混乱した鈴音は健星の手を弾き飛ばす。

「やだ、私はっ」

「ちっ、これだから半妖は」

 健星は再び拳銃を放り投げると、印を組もうとした。しかし、ばちんっと何かに弾かれ、その場に倒れてしまう。

「なっ」

「違う。私は違う。あんたとは違うの!」

 混乱した鈴音が叫んだ。あの顔、半分狐で半分人間の顔。あれを見たのは、あの顔をしていたのは――

「す、鈴音」

「ぐうっ」


 小さい頃の私。


「ああっ!」

 叫ぶと、鈴音の中で何かが弾けた。どんっと部屋に大きな風が巻き起こる。健星もユキも思わずベランダまで後退った。首を食いちぎられた鬼は、波動に負けて消え去ってしまう。

「マジかよ。あいつ、本当に半妖なのか」

「半妖です。ただし、安部家の血を継ぐ御方。妖怪としての血が多く含まれていても、我々は驚きません」

 健星の問いにそう答えたユキだが、実際はビビっている。

「ぎいっ」

 波動が消え、そこにいたのはあの大妖怪、九尾狐だった。

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