第8話 複雑な事情あり

 ともかく安全のために生活拠点はこの冥界、学校にはここから通うということでユキを説得できた。まったく、家に帰ったら喋る狐がいた時点で色々とあり得ないというのに、何もかも展開が早すぎる。ついでに逃げられない状況に追い込まれている。

「現世での護衛は私一人では無理ですから、他にも応援を頼みます」

 狐姿に戻ったユキはしゅんとした顔で言うが、鈴音としては当然の要求でしょと鼻息が荒くなる。

「あのね、勝手に立候補させてくれた上に敵は多いわ、ライバルには馬鹿にされるわって、こっちは散々なのよ」

 どうぞここにと用意された畳と座布団の上に座って、鈴音は困ったものだわと腕を組む。しかし、あの健星を玉座に就けてなるものか。その気持ちがふつふつと湧き上がっていた。

「あの人、明らかに妖怪を下に見てるわよね。なのにここの王様になる気なの?」

 まず、そこが解らないし腹が立つ。鈴音がそう言うと、ユキは全くですと大きく頷いて同意した。

「嫌いなのは事実でございましょう。とはいえ、先代の王が退任を決意された理由がトラブルの増加でございますからねえ。そのトラブルを減らしたいと奴は立候補したわけです」

「減らしたいって、あの人は増やしそうだけど」

 鈴音はどう考えても手当たり次第にケンカを売ってそうなのにと首を傾げる。

「はあ、まあ、ケンカっ早いのは認めます。が、あの人もあの人なりに大変と申しますか、まあ、はい」

 それに対してユキは何やら煮え切らない答えだ。嫌っていて、しかも王様にはなって欲しくないけれども、完全に敵とするには無理だと思う理由があるらしい。

「役に立ってることがあるの?」

「はい。先ほど、鈴音様を狙おうとした鬼がおりましたでしょう」

「え? ああ」

 いきなり部屋で襲ってきた謎の声か。あれがどうしたというのか。

「ああいう、妖怪ですら好き勝手に食らうような奴らを祓い、それによって起こったトラブルを解決しているんですよ。ですから、全面的に奴が王になることを嫌とは言えない部分があるわけです。しかし、奴は妖怪全般を嫌い、いずれ暴走して勝手なことをするのだと決めつけております。それが許せない。我々だってちゃんと道徳心を持ってるんです。見下されたままでは終われません」

 ユキは右前足をぷるぷるとさせながら訴える。人間姿だったら握りこぶしを作っている状態なのだろう。

「それで妖怪側の立候補者が欲しいってわけね。でも、妖怪の中から王様になる人は出て来ないわけ?」

 そこが最も不思議なんだけどと鈴音が首を傾げると

「妖怪は好き勝手に生きております故、誰かの上に立ち誰かを纏めるというのが苦手なのです。私のように九尾様にお仕えしているという者や、上位の妖怪に仕えている者などは好き勝手には振る舞いませぬが、まあ、多くの様々な意見を束ねるのは不可能でしょう。故に、今まで二代の王は神でしたし」

「へえ」

 何だかややこしいわねと鈴音は腕を組んで唸ってしまう。仕えることは出来るけど纏めるのは無理。上位の妖怪たちは好き勝手に振る舞ってしまうと。それにしても、二代連続で神様が務めていたのか。そこに人間や半妖が割って入って大丈夫なのか。

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