家事職ですが魔王に挑んでもよいのでしょうか
モモん
第1話、宿屋を継ぎます
私の名前はサキ。
明日で15歳になります。
ちょっとそばかすのあるメガネっ子です。
髪は亜麻色で、瞳はグリーン。肩まである髪を、普段は三つ編みにしています。
両親は10年ほどまえに、魔人の争いに巻き込まれて他界しました。
他に身寄りのない私は施設に入れられましたが、幸いなことに子供のいない老夫婦に引き取られ現在に至ります。
この国では、15歳になると教会で洗礼を受け、女神さまからジョブとスキルを授けられます。
今からドキドキしています。
戦士になったら魔人専門のハンターを目指します。
それ以外なら、敵討ちは諦めて老夫婦の営むこの宿屋を継ぎます。
洗礼の当日です。
友達のいない私は、一人で教会へ行き所定の寄付金100ゴールドを払って洗礼を済ませます。
そして女神像の前で祈る事10分・・・普通は一瞬らしいです・・・ジョブが決まりました。
鍛冶・・・いえ、家事職です。
家事職というのは今回が初めてらしく、分厚いジョブ一覧を何度も確認して『初』の認定を受けました。
『初』というのはジョブ一覧に新しく掲載されることで、氏名と出身地と年月日が記載される名誉なことらしいです。
スキルが増えた場合は教会に来て報告する義務があるんだそうです。
うれしくないジョブだったのに、踏んだり蹴ったりってやつですよ。
家事の初級スキルは、料理見習い・掃除見習い・裁縫見習いの三つで、初級スキルとしては数が多いんだそうです。
8年間宿屋を手伝ってきた私としては、一通りできていると思うんですけど、新しい発見とかあるんでしょうか。はぁ・・・
帰り道でスライムに遭遇しました。
スライムというのは、軟体動物みたいなぜリーみたいなグニャグニャしたモンスターで、10才の男の子なら倒せる相手です。
直接触るのは嫌だったので、棒か石を探していたら何か視界に表示されました。
【スライム】
料理:食用ではない
掃除:排除対象
裁縫:素材にはならない
排除しますか?
なんだか分からないけど、はいと答えた。
「ウィンドカッター」
えっ、私の声・・・スライムはぶつ切りになりました。
「ファイヤー」
スライムは跡形もなく燃えました。
「なにこれ・・・」
チャラリンと音がして、掃除見習いのスキルが掃除実習に変化しました。
教会へ報告しに戻るか・・・次の時に一緒でいいかな。
なんだか、ジョブって面白い。
家事職って、MPの表示はないのに、魔法も使えるんだ♪
帰ってから老夫婦に伝えると、跡取りが決まったと喜んでくれました。
今日はお客さんがいないので、おばあさんの作ってくれた夕食をいただき、部屋に戻ります。
端切れと裁縫道具を取り出して、雑巾を縫おうとしていたらまた表示が・・・
【布】
料理:食用ではない
掃除:対象ではない
裁縫:雑巾や布巾などの素材
裁縫しますか?
はい、と答える。
針と糸を手にすると、糸が勝手に針孔を通ってくれた。
しかも、効率的な手順が頭の中で展開される。
あは、このスキル便利かもしれない。
雑巾を縫い終わると、チャラリンと音がして裁縫見習いのスキルが裁縫実習に変化しました。
時間が余ったので、作ったばかりの雑巾を濡らして掃除することにした。
すると、少し汚れた場所は黄色。汚れがひどいところは赤で表示されています。
「なにこれ、便利すぎです」
それならばと、雑巾を2枚使い分けて速攻で掃除を終わらせました。
今度はスキルアップはありません。
翌朝、朝食の準備をしていると、同じようなことが起こりました。
スープに具材を入れるタイミング、調味料の量。卵を焼く火加減や火を止めるタイミング。パンを焼く時間。すべてに案内がつきました。
完成時にはもちろんスキルが料理実習にアップします。
「なんだこりゃあ、今日の朝飯はうますぎるぞ」
「えへへ」
今日は森へ行って山菜取りです。
フキ・ゼンマイ・ワラビ、これまでは決まった種類のものしか取れなかったキノコも食用だと分かれば採取できます。
マイタケ・ヒラタケ・キクラゲなどが採取対象に加わりました。
少し奥に入ったところでキノコ型モンスターに遭遇しました。
【ドクキノコ】
料理:カサに毒はあるが本体は食べられる。イシヅキは美味。
掃除:排除対象
裁縫:カサの毒を除けば染料になる
排除しますか?
今まで逃げ回っていただけの相手ですが、美味しいと聞けば採取の対象です。
「食用に捕獲して」
「ウィンドカッター」
狙い通りにカサと本体を切断できました。
本体を籠に収容し、カサに意識を向けると別の表示が出ます。
【ドクキノコ・カサ】
料理:毒。食用ではない。
掃除:排除対象
裁縫:毒抜きすれば染料になる
毒抜きしますか?
「染料になるなら、独抜きします」
「ポイズンセパレート」
カサが回転し毒らしき液体が飛び散ります。
恐る恐るカサをつまみ上げ、食材と分けて袋に入れました。
毒々しかった赤は、鮮やかな赤に変わっています。スカーレットとかいうのかな。
この日は、3体のドクキノコを採取できました。
帰ってから、速攻でドクキノコを調理してみます。
動いていたからと言って、内臓とかはありませんでした。
本体のおすすめはバター焼きですが、そんな贅沢なものあるはずがないでしょ。
今できるのは網焼きとソテーです。醤油!何ですかそれ?
イシヅキの部分は刻んでスープにします。
試食たーいむ!・・・、・・・、んまー!
素焼きに塩を振っただけですが、噛むとジワーっと旨味が口に広がります。
ソテーよりも食材の味が楽しめます。
スープも深みのある美味しいスープです。一緒に入れた香草の香りが引き立っています。
この2品は、普段の夕食とは別皿にして、希望するお客さんにお出しすることになりました。
種類は明かさず、モンスター素材だという情報だけお伝えします。
3組のお客さんは難色を示しましたが、香りに敏感な一人のお客様が試食され、絶賛されたことで結局全員が食べてくださいました。
この素焼きの塩加減はエールよりもワインだと、すべてのテーブルからワインの注文をいただきました。
食材のモンスターについてしつこいくらいに聞かれましたが、そこは企業秘密です。
というか、ドクキノコだなんて言えませんよ。
スカーレットの染料を手に入れた私は、エプロンを染めてみました。
バラのような鮮やかな赤が嬉しくて・・・はしゃいでいたら、買い取るからシーツを染めて欲しいとリクエストされました。
ドレスに仕立ててご主人を驚かせたいと・・・「キトン式なら簡単にできます」と答えると、帰りにも一泊するから3日で仕上げて欲しいと注文いただきました。
3日目の夕食前。奥様を私の部屋にお連れして着付けします。
ノースリーブに仕上げたスカーレットのキトンに、白いリボンを左右から胸前でばってんにして、結び目を腰に持ってきて少し垂らします。
下履き(パンツ)もスカーレットの生地で作り、目立たないようにしました。
キトンの両脇からのぞく白い肌がリボンの白と相まって扇情的に際立ちます。
食堂でお披露目したときの皆さんの驚きを忘れません。
お針子としてのデビュー作になりました。
それからしばらくの間、平穏な日々が続きましたが、手元には様々な食材や素材がそろってきました。
ある日のこと、採取した食材が増えてしまい持てなくなっていました。
すると、レベルアップ音がひびいて新たなスキル「家事職の懐」ができていました。
なんと、移動式の収納庫です。
これは便利です。採取したものだけでなく、道具もしまっておけます。しかも、重量増加なし!
活動の幅がグンと広がりました。
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