第4話 私の彼氏は御曹司

 残念御曹司の九条慎吾と付き合い始めて一ヶ月。


 付き合い始めた当初はお互いさん付けで敬語まじりだったけど、今では呼び捨て敬語なしで話してるし、何度か仕事終わりに食事にも行った。慎吾はいつも私を家まで送ってくれるし、全て順調にいっている。


 順調なはずなんだけど、何度かデートはしても、いまだにキス以上のことはないのが少し気にかかる。二人とも一人暮らしだし、大人なのに何なの? 学生のデートなの?

 もしかして、……やっぱり私が金目的だってバレてる?


「真由? どうかした?」


 食事の帰りについ考え込んでいると、慎吾から声をかけられたので、急いで笑顔を作る。


「……ううん、何でもない。今日は慎吾の部屋に行きたいな~」


 慎吾の腕に自分の腕を絡ませると、あっさりと慎吾はOKを出した。……とりあえず家に他の女がいるとか、私を家に呼びたくないとか、そういうわけではなさそうね。


 まさか……性的な問題を抱えてるとかじゃないわよね? 変な性癖があるとか、それとも不能とか? それで今までの彼女にもフラれた……?


 だって、何か問題でもなきゃおかしいもの。いくら残念でも御曹司よ?

 みすみすセレブファミリー入りを逃す女がそう何人もいるとは思えない。


 私は全然いいのよ? 慎吾に何か問題があったって。

 私の目的は、あくまでセレブ婚よ。

 セレブ妻の座が手に入るのなら、多少のことは目をつぶる。……でも、何か問題があるのならどんな問題かは知っておきたい。


 慎吾としちゃえばはっきりすると思うけど、直球で誘うのもね。ガツガツいきすぎて引かれるのだけは、絶対に避けたい。


「真由? ついたよ。今日どうしたの? ボーッとしてるけど、体調悪い?」


「ごめんね、体調は悪くないから大丈夫。

疲れてるのかな? ちょっと眠いかも……」


 また考え込んでいるうちに、いつの間にか慎吾のマンションについていたらしい。シートベルトを外し、慎吾の方にもたれかかってみる。


「大丈夫? 疲れてるなら、帰った方がいいんじゃない? 送っていこうか?」


 違うでしょうが! そこは、急いで部屋に連れ込んで、なだれ込むようにベッドにGOするとこでしょう。


「大丈夫! もう眠くなくなったみたい」


「え……」


 鈍感御曹司にイライラしながらも、訝しげな目で私を見る慎吾を急かすように車から出て、マンションへと向かう。


 それにしても、……本当に慎吾って御曹司なのね。こんないかにも高級そうなマンション、ドラマでしか見たことない。


 外観はもとより中に入ってみると、私の部屋が何個入るか計算してしまうぐらいに広い作りになっていた。

 テレビも一体何インチあるのか、家具とかも見るからに高級そう。私の給料では、絶対にこんな暮らしではできないわね。そのために慎吾と結婚するんだけど。


「真由が来るって思ってなかったから、片付いてなくてごめんね」


「そんな、全然大丈夫よ〜。素敵なお部屋ね」


 部屋の中を物色してると慎吾に苦笑いされたので、ニコニコ笑顔で答える。


 早く私もセレブ入りしたい。そのためには、もっと慎吾との仲を深めないと。


 あんまりガッツリいって引かれるのは避けたいから、出来れば自然にいいムードにしたいのだけど……。どうにかして自然に慎吾を誘う方法を考えていると、ふいに戸棚の中にあるワインが目に入った。


 ワイン……。お酒……、いいかもしれない。


「ねえ慎吾、慎吾は家でお酒飲んだりするの?」


「う~ん、たまにかな」


「そうなんだ~、良かったら一緒に飲まない? 慎吾と飲んでみたいな」


 それを見てピンと閃き、早速慎吾に声をかけながら、ワインを手に取る。


「今日? 僕も飲んだら真由を送っていけなくなるから、……あ、タクシー呼べばいいか」


「泊まっていったらダメ?」


「え? ……もちろんいいけど」


 よし! 上目遣いで見つめると、戸惑いながらも慎吾からお泊まり許可が出たので、心の中でいつものガッツポーズをする。


「慎吾とお酒飲むの初めてだね~」


「そうだね。いつもは車だからね」


 そうそう……って、呑気にそんな話してる場合じゃないの。戸棚に入っていたワインを開けて、慎吾を酔い潰そうと思ったけど、なんで何杯飲んでも平気な顔をしてるのよ。

 私もそこまで弱い方じゃないのに、これじゃ私の方が先に潰れそう。


「慎吾(の金)とずっと一緒にいたいな。

まだ付き合ったばかりなのにこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、こんなに好きになったのは慎吾が初めてなの」


 このままじゃラチがあかないので、酔ったフリをして甘えてみることにした。

 隣に座っている慎吾の肩にもたれかかってみたけど、慎吾は困ったような顔で笑っている。


「嬉しいよ」


「信じてないでしょ~」


「そんなことないって」


「うそ、信じてない」


「だから、……」


 慎吾の声を遮るように、その首に手を回して自分から唇を重ねる。


「慎吾が好き」


 セレブ婚のためなら、何を失ってもいい。

 プライドも全部捨てる。

 慎吾に変な趣味があっても全く構わない。


 慎吾の膝に乗り上げ、首に手を回したまま訴える。


「もう本当に……、すごいね」


「何が?」


 苦笑いでため息をつかれたと同時によく分からないことを言われて、その意味を考えてみるけど、アルコールがだいぶ回ってきたせいで正常な思考が出来なくなってきた。


「……負けたよ」


「それって、」


 真意を聞こうとしたけど、ソファーに押し倒されぎゅっと抱きしめられたので、まあいいかと口をつぐむ。

 そのまま唇を重ねられ舌を入れられたので、慎吾の背中に手を回す。色々残念だけど、キスは下手じゃないのよね。


 最初の方は上から目線で慎吾を観察していたけど、お酒のせいなのか、慎吾が優しかったからか、だんだん何も考えられなくなってくる。その後のことはあまりよく覚えてないけど、とりあえず心配していたような問題は慎吾には何もなかった……はず。

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