十三話 新郎新婦と新たな商会。

 草木が生茂おいしげる初夏になり、シェリーは一五歳の成人を迎えた。

 そしてそれに伴い、アイザックとエイリーンはその約束通り、だがで一ヶ月後に晴れて正式に夫婦となったのである。


 成人となったシェリーは、本来であれば一〇歳で誰もが受けるとよわいの儀」を受けることになり、付添つきそいに立候補するために何故か全員集合して挙手するアイザックお父さんとかエイリーンママとかJJ元後見人とか元従業員豚野郎どもを振り切り、一人で出掛けて行った。


 実は「齢の儀」を諸々の事情で受けていない者は珍しくはなく、中には子供と一緒に受ける親もいる。


 そもそもそれは絶対に受けなくてはならないものではなく、単に魔法文明を残し保護したい教会が、魔法適性を知るために躍起になっているだけのものであるため、科学や機械文明が発達している現代においてそれほど重要なものではないのだ。


 ちなみにエセルは受けていない。皆に騒がれるから。


 結論から言えば、魔法文明の存続とか保護などというお題目などどーでも良いし、需要が少ない技術は廃れるのが必然だという商人根性全開なシェリーは受けたことを激しく後悔し、母であるエセルがそれを回避し続けた理由を痛感した。


「齢の儀」で使用するのは、神殿の別棟にある、ステンドグラスが全面に施されたきらびやかな聖堂に鎮座する、神霊が宿ると謂われている高さ3メートル、幅1メートルもある巨大な六角柱の魔水晶だ。


 その聖堂を初めて見たシェリーの感想は、コレを作るのに一体お幾ら枚の大白金貨をぎ込んだのだろうと、同世代な一般の方々とは若干どころか相当ズレた感想を漏らし、巨大魔水晶を目の当たりにしたときですら同様の感想しか出て来なかった。


 九歳からアップルジャック商会を事実上回していた実力は、様々な意味で伊達ではない。ある意味では弊害ともいえるのだが。


 そしてそのお高そーな魔水晶に手を当てて魔力を注ぐことで色が変化し、それで魔法属性の適性を判断するのである。


 あけならに。

 せきならねつに。

 せいならすいに。

 あいならひょうに。

 ちゃならに。

 さびならがんに。

 りょくならそうに。

 へきならもくに。

 くうならふうに。

 あまなら(空気)に。

 ごんならせいに。


 そのような属性となっている魔法だが、実は魔法適性があれば努力次第で属性の全てを習得可能だ。

 そして炊事洗濯などの所謂いわゆる家事魔法は、全ての魔法の基礎である。


 極論から言えば、「齢の儀」で判断される適正とは、その者がを知るためのものであり、それほど深い意味はない。

 強いて意味を求めるのなら、魔水晶が何処まで染まるか、何処まで深い色になるかでその者の魔力量が判る程度である。

 そして魔法は大して重要視されていなく減衰傾向にある現代において、それすら重要なことではない。


 もっとも半分以上染まるという非常に稀有で希少な事態が起きたのならば話しは別だが。


 よってそれはほぼ流れ作業で行われ、たまに複数の色が混じって感心されたりする程度だ。


 そんななんてことのないただの伝統行事ともいうべき「齢の儀」なのだが、乳液付きの手で触って跡を思いっ切り付けてやろうと邪悪にほくそ笑むシェリーが魔水晶に魔力を流したことで、その場にいた全員の度肝を抜いてしまった。


 シェリーの出した色は――黒だった。


 一点の曇りも無い、光沢すら無い吸い込まれそうな美しい漆黒。


 そしてそれが魔水晶全てを染め上げたのである。


 因みに乳液付きの手で触って手の跡をバッチリ付けるという子供の悪戯じみた行動をするなどということは……しっかりしていたシェリーであった。


 その色々な意味で前代未聞の事態となった神殿は騒然となり、自身の腹の色が出ちゃったのかなーとか呑気に考えポリポリ頭を掻くシェリーの独白や思いなど全て置き去りにして、枢機卿すうきけいのくせに百余年前から神殿を牛耳っていると自負する森妖精のアーリン・ティム・ジンデルまで駆け付けてしまい、


「聖女だ! 聖女が現れた!」


 とか意味不明なことをのたまい、何故かお祭り騒ぎになった。


 その漆黒が意味するものは、全ての属性の色が全く同量で濃く混ざり合い、完全に均整が取れているということ。


 そう、全ての色が同量で均等に完全に混ざり合えば、虹色や玉虫色になるわけでもなく、黒になるのだから。


 加えて魔水晶全てを染め上げるほどの魔力量。百年――いや千年に一人の逸材だと大騒ぎされてしまった。


 だがこのときシェリーは、


「え? 私そんなにイヤらしくないよ! 失礼な!!」


 とかをどういうワケか取り違えて理解してしまい、キョトン顔の後でプンスコ怒っていた。

 まぁ、その原因は大変よろしくない情操教育をしたイヴォンであり、更に元店長の実の父親変態元従業員豚野郎どももその一因を担っているのだろうが。


 その後、勝手に傍付きにさせられたであろうメガネがよく似合う三つ編み修道女さんが、戸惑いまくってあわあわ言いつつ真っ赤になりながら説明してくれ、この人可愛いなぁとかオヤジ的発想でニヤ笑いをし、だが何故に母親であるエセルが頑なに「齢の儀それ」を受けなかったのかを理解することとなる。


 エセルはシェリーなど足元にも及ばないほど魔法に精通しており、当人もその自覚があった。


 そう、判っていたのだ。もし自分がそれを受けてしまったら、今現在シェリーが陥っている状況のようになってしまうということを。


「私が千年に一人っていうんならお母さんは一万年に一人の逸材ね!」


 などと褒めてるんだか嫌味なのかイマイチ判断に困るような愚痴を零しながら、だがシェリーはそのまま神殿に隔離され、何故か終生誓願しゅうせいせいがんさせられる寸前までになってしまった。


 当然、敬虔な信徒でもないシェリーが素直にそれに従うわけはなく、確実に洗脳じゃないかと言わんばかりの説法をしてくる枢機卿を商人独自の損得勘定で言い負かし、更に恫喝紛いのことも言われたが、


「迫力と威圧が足りない。やり直し。時々殺気も混ぜると効果的だよ」


 などと常々色々といわくありげな方々と一緒に働いていたシェリーに恫喝そんなものが通用する筈もなく、呆れと共にダメ出しをし、やがて面倒になって隔離部屋を内側から施錠ヴェルヤージュして立て籠もったのである。


 結果的に、何処からかシェリーがそんな色々な意味で危機状態に陥っていることを聞き付けた元副店長で〝草原のプレリ・災厄者カラミテ〟なリー・イーリーと、商業ギルドのサブマスターで〝草原の破壊者プレリ・デストリュクシオン〟なデリック・オルコックの草原妖精コンビが神殿から助け出した。


 関係ないが、メガネと三つ編みが良く似合う傍付き修道女のコーデリアさんもお持ち帰りされていたりする。メッチャ戸惑っていたが。


 それでもなお強権を行使し神殿兵タンプル・ソルダ聖堂騎士団サント・シュヴァリエまで駆り出してシェリーを取り込もうと、神殿が動き出す。


 それを察知した「気に入らない奴は誰であろうと何であろうと即粉砕」が信条の超武闘派元冒険者パーティ〝無銘リアン・ル・プレノン〟を始めとするシェリー大好き色々いわくありげな背景持ちな元従業員達と、暴走列車を真正面からぶった斬った実績持ちな、身長2メートル超えゴリゴリマッチョな商業ギルドマスターのシオドリック・グレンヴェルを筆頭に、実は元々傭兵団な商業ギルドの連合軍との全面戦争寸前まで発展してしまった。


 そんな事態になってしまうとは一切思っていなかったシェリーは、余程のことがない限り止まらなくなったそれに責任を感じ――


「もうこうなったら神殿を壊滅させてやるわ! 行くわよみんな! 戦争の時間よ!! 愛とお金と正義とお金と自由とお金と平和とお金とお金のために! そして商人の恐ろしさを世に知らしめるのよ! 商人が経済を回しているお陰で神殿が成り立っているんだと、目に物を見せてやるわ! タンプ殿ル・ソルダとかサント・シュヴァリエなんてナンボのモンじゃーい!!」


 ――腹を括った。


 そして絶賛戸惑い中だが言われた仕事はきっちりこなすのが信条の、眼鏡がよく似合う真面目な三つ編み修道女のコーデリアさんが差し出す、何処から出したのかリンゴに口付ける森妖精の旗章きしょうが刺繍された巨大軍旗を掲げるシェリー。魔法で風を起こしてはためかせるのも忘れない。

 だが大き過ぎて、ちょっとヨロめいちゃったのはナイショの方向でお願いします。


 商業都市グレンカダムに響くときの声。なんだかガチムチマッチョで豆タンクな岩妖精の職人達も、鈍器片手に加わっているような気がするが気にしない!


 ――解決方法としてなにかが違う気がするのは、きっと気のせいではない筈だ。


 だがそんな一触即発な事態も、暴走する枢機卿を筆頭とする神殿軍に三通の書状が届いたことで唐突に収束する。


 その書状の内容までは不明だが、その書状の封蝋にはそれぞれ、ストラスアイラ王室と神殿教皇、そして森妖精の王の印璽いんじがしてあったという。


 それを届けた使者の名は、ヒュー・グッドオールと名乗った。


 その後ヒューは、その事態を収束させた謝礼に、シェリーから純白でツヤツヤサワっとする使用済みなシルクのパンツを貰い、たとえ生まれ変わってもシェリーと共にあるという傍迷惑な誓約を立てたという。


 因みに、そのパンツはエセルのものだった。


 まぁそんな感じで、真面に語ったのなら一話六千文字で十三話くらいは費やすであろうバカ騒ぎがあったために、アイザックとエイリーンの結婚が遅れたわけである。


 そして現在、アイザックは以前住んでいた郊外の自宅を引き払い、どういうわけかシェリーの自宅に引っ越して来ていた。


 というのも――


「これから所帯を持つのに無職とかありえないよなー。どうするかなー、誘われた商業ギルドに就職するか? いやでも役所仕事は嫌なんだよなー。本当に優秀なヤツも確かにいるけど、大体は賢いバカしかいねぇんだよ。難関試験に合格したのにバカが治らなかったのかって言いたい」


 とか、わりと真剣に悩むアイザック。そしてエイリーンはというと、


「えー? 無職とか気にしなくて良いわよ。あたしが養って、あ・げ・るから♡」


 などとダメ男を製造するようなことを言っちゃう有様である。だが流石にそれには抵抗があるのか、真面目に職業紹介場へ行こうと検討するアイザックだった。


 だがそんなとき、やっとギルドのバイトから解放されて疲れ切ったJJが、お祝いの竜肉を差し入れしながら言ったことから全てが始まった。


 いや、それは「始まった」ではなく「再開した」と言った方が正解だろう。


 ちなみに「竜」と「龍人」は種として全然違うため、共食いとかでは決してない。そして竜肉は高級品だ。


「いや姉さん、ザックは店長として大成していたんだし、仕入れや営業の手順や知識、それに商店営業に必要な資格も諸々持っているんだから、思い切って商会を立ち上げたら良いんじゃないのか? なんなら自分が会計で手伝うよ」

「あら良いわね。きっとザカライア爺も協力して商品リンゴ酒を卸してくれるわよ。あとジャンは嫌がるかもだけど、リーや〝かしましい三人娘〟も呼び戻して始めましょうよ」

「いやちょっと待てよ、簡単に言うけど俺の貯蓄じゃあ商会立ち上げに必要な大金貨五枚には届かないぞ。それにエイリーンのを合わせたって足りないし、ギルドからの信用貸しを利用するにしても、そもそも連帯保証人になってくれる人ってなかなかいないだろう」


 純粋に金銭的な問題で、いきなり頓挫し頭を抱える三人。


 だがそこへ、竜肉ステーキを素敵に見事に美味しそうに焼き上げたシェリーが、メガネがよく似合う三つ編み修道女のコーデリアさんと一緒にカートを押して来て、


「お金? なんなら私出そうか?」


 何気なく言ったその一言が決定打となった。


「お母さんから相続した特許収入でギルドにある私の口座の預金額が見るのも恐ろしいくらいになっちゃってるけど使い道ないし……てなんか目付きが怖いんだけど」


 自分を見詰める三人の双眸が「ギュピーン!」と光っている錯覚に襲われるシェリー。事実、龍人姉弟の双眸が爛々と輝いちゃっていた。そう、獲物を見付けたときの視線のように……!


 そして――


「え? なに? お出掛け? みんなで行くの?」


 物凄い勢いで竜肉ステーキを食べ終えると、片付けもそこそこに戸惑い全開なシェリーを拉致同然に馬車に押し込めて連れ出す。身嗜みだしなみは車内でコーデリアがしてくれた。


 そして商業ギルドに着き、サブマスターのデリックに事情を説明すると、


「それは名案です」


 と良い笑顔で言われて防音設備の整った部屋に通され、何故か後は業種と規模、取扱商品、資本金、そして会長名を記入するだけになっている『商会開業申請書兼魔法契約書』を取り出して、シェリーへと差し出した。


 何故にまず自分の前に? そう怪訝に思い、だがデリックに促されるままサインをして確認もせずに、そのまま隣へスルーパスする。

 そして首を傾げて怪訝な表情で自分を見る隣のアイザックを一瞥して頷き、後は素知らぬ顔をした。


 実の父親とはいえ、あくまでアイザックの商会であり、自分が口を出すべきではないと思ったから。


 そう、自分がすることは、資本金を肩代わりして連帯保証人になるだけだ。その連帯保証人だって、資金が潤沢で担保があればすぐに取り下げられるのを、シェリーは知っている。


 まぁそんな感じでのほほ~んと構えているシェリー。だが呼ばれて訪れたトレヴァーがその書類を確認して首を傾げ、


「嬢ちゃん、これマジで通して良いのか? どう考えても損するぞ」


 警告のつもりで訊いたのだが、資金に関して言っているのだとばかり思っているシェリーは深く考えず手をヒラヒラさせて承認した。


「大丈夫よ。そろそろ特許期間が終了するとはいえ、お母さんが残してくれた資産が雪だるま式に増えて使いどころがないもの。それに使えるお金は使わないと経済が回らないでしょ。世の幸せのためにも消費するのが一番よ」

「……嬢ちゃんがそう言うんなら止めねぇが。後で後悔しても俺を恨むなよ?」

「えー? トレヴァーさんには感謝こそすれ恨むなんて絶対にないよ。そんなことより、今度新しいスイーツのレシピ教えてよ」

「そう言われてもな。最近なんだかヒューのジジイが余計に『愛を愛を愛を』って騒ぐようになって凄ぇうるさくて仕事に差し障ってんだよ」

「あー、うん……なんかゴメン」

「? なんで嬢ちゃんが謝んだ? まぁいい。んじゃ国法士の承認印を押しとくぞ」


 ヒューが「愛を愛を愛を」と騒いでる理由について、心当たりしかないシェリー。ご想像通り、使用済みなシルクのツヤツヤサワっとパンツが原因である。


 いくら故人とはいえ自分の母親のパンツをそんなことに使い、更にそれが原因で周囲に被害が出てしまったことで、シェリーは罪悪感と共に深く反省した。三秒間くらい。


「書類に不備はありません。流石と言うべきですね。では、商業ギルドは新たな商会の誕生を祝福致します。末長くお付き合いのほど、何卒宜しくお願い申し上げます」


 差し出された商業ギルドの承認印付き商会開業許可証をアイザックが受け取り、更にギルドより祝金として大銀貨一枚(十万円相当)が送られ、全ての手続きが終了した。



 ――そう、終了しちゃったのだ。



「……あれ、そういえば連帯保証人の書類ってあったっけ?」


 頬杖を突いてそれを眺めていたシェリーは、自分が一箇所にしかサインしていないのに気付いて呟いた。


 するとデリックは首を傾げてキョトン顔をして、


「え? なにを言っておられるのですかシェリー様。連帯保証人なんて必要ありませんよ」


 言われて、今度はシェリーがキョトン顔をする。


 あれ? 規約変わった? とか考えていると、先程承認された申請証の写しに目を通し、


「は?」


 愕然とした。


 申請証の業種は商店。これは間違いない。そして取り扱う商品は酒類と食品、そして雑貨。これはアイザックが酒類販売許可資格と食品衛生責任者資格を持っているから問題ない。食品衛生責任者資格に関しては〝かしましい三人娘〟も取得済みであるし、シェリーも持っている。

 ついでに飲食店営業資格とか菓子製造業資格とかも、シェリーは取得していた。趣味で。


 だか問題はそれではない。


 申請証の代表取締役に書かれている名は、アイザック・セデラー。それは良い。そうするべきだと思っていたから。


 問題は、会長である。




 ――シェリー・アップルジャック――




 そこには、そのように書かれていた。しかもシェリーの筆跡で。


「……よぉデリック。お前ぇ絶対ぇワザとやったろ?」

「? なんのことでしょうかトレヴァー氏。確かにシェリー様を遊ばせておくのは社会の損失だと思っておりますが、それを強要など出来ません。それにシェリー様はのです。というか、当方はてっきりシェリー様が会長になるとばかり思っておりましたが?」

「あー、こっちとしてはシェリーに連帯保証人になって貰って俺が会長になるつもりだったんだが……なんかシレっと会長欄にサインしてたから、なんだかんだでそうするつもりなんだなーとしか思わなかったよ」

「言ってよお父さん! 気が抜けて促されるままサインしちゃったじゃない!」

「あバカ!」

『お父さん?』


 綺麗に重なる、デリック、トレヴァー、そしてコーデリアの三重奏。口の固いJJには既に伝えてあるため、彼は驚きもしなかった。


 結局アイザックはシェリーとの関係を自白する羽目になり、シェリーはデリックとトレヴァー、そしてコーデリアから、


「強く生きて下さいね……」

「まぁ、あれだ……自分の価値は親で決まるもんじゃねぇから大丈夫……くぅ!」

「シェリー様にそのようにお辛い過去が……大丈夫です、どう思われようともわたくしがお傍に居りますから……!」


 何故か涙ながらに励まされた。


 シェリーにしてみれば、実の親がイヴォンではないという事実だけであと三百年は生きて行けそうな気がするのだが。まぁ無理だけど。


「ザック、貴方はエイリーンもそうですがシェリー様もしっかり幸せにしないといけませんよ。もし不幸にしたのなら……判っていますね?」

「おうザック! 判ってんだろうな? シェリーの嬢ちゃんを大切にしねぇと木っ端喰らわせるぞこの野郎莫迦野郎!」

「あ゛? なんで手前ぇら如きにンなこと指図されねぇといけねぇんだ? んなこたぁ百も承知だこんクソども! エイリーンもシェリーも絶対ぇ不幸しねぇって俺ぁエセル様に誓ったんだよ。そのためだったら例え神龍だってぶっ潰してやるよ!」

「……いやぁ、この人本当にウチのお爺様神龍一対一タイマンでぶっ飛ばしたからなぁ……しかも素手で……」


 諸々様々な通り名を背負っているメンバーがいる超武闘派元冒険者パーティ〝無銘リアン・ル・プレノン〟なのだが、実はアイザックが最強だったりする。


 その二つ名は――なかった。


 冒険者時代には、人前で暴走するメンバー三名をたった一人で止めるのに精一杯であったから。強いて言うなら、仲裁者アルビタージであろうか。


 だが考えてみて欲しい。様々な二つ名を背負っているメンバーの暴走を、


 まぁそんなこんなな珍事があって、結局魔法契約をしてしまった後であるために破棄するわけにもいかず、なし崩し的にシェリーが会長になることになった。


「ちゃんと契約書に目を通さないからよ。らしくないわね」

「反論の言葉も出ないわね……」


 エイリーンの至極真っ当な言葉に、二の句が付けられないシェリーであった。



 ――*――*――*――*――*――*――



 夏になり、新緑が深まる頃になってやっと、アイザックとエイリーンは結婚式を挙げることになった。


 通常は教会で行うのだろうが、で教会には近付きたくもない人々が多いため、何故かシェリーの自宅横に教会堂っぽいものを岩妖精の職人連中が三日掛けて建ててしまい、こけら落としも兼ねてそこで挙げることになったのである。因みに料金は無料であった。


 その建物にはパーティー会場も併設されており、礼拝堂での宣誓を終えたら、そのまま披露宴へと雪崩れ込める様式となっている。


 その建築仕様を見たときシェリーは、


「これは……ビジネスチャンス!」


 独白し、悪い笑みを浮かべて早速レストラン「オーバン」のリオノーラと〝かしましい三人娘〟とで連絡を取り合い、色々準備をし始めた。


「くっくっく……ウチが掻き集めた極上果実を存分に喰らうがいいし」

「ふっふっふ……ボクが厳選した新鮮野菜に驚愕するのねん」

「うっふっふ……あちきがこの目で選別した至極の肉を味わいなんし」

「ふえっへっへ……あたしが作る料理なしでは生きられない身体にしてあ・げ・る♡」


 そんなことを言っている、フルーツ担当のヒト族シャーロットと野菜担当の土妖精メイ、精肉と鮮魚担当の鬼人族レスリー、そしてレストラン「オーバン」のオーナーシェフ、リオノーラ。

 ……セリフだけ聞くと、どうあっても悪巧みをしているようにしか思えない。


 そんな感じで準備が着々と進み、そして式当日となった。


 その日――商業都市グレンカダムは、季節外れの大雨に見舞われていた。


 この季節に雨が降るなどということはほぼないにも拘らず、一歩外に出れば全身濡鼠ぬれねずみになってしまうくらいの大雨である。


 いやこれ絶対におかしいだろうと思っていたら、なにかを調べていたリーが珍しく大真面目な表情でシェリーに言った。


 どうやら神殿で「降雨の儀」行っているらしい――と。


 これには流石に激怒したシェリーが、理由は違えど怒り心頭なヒューと共に極大魔法を展開して「儀式返し」を行い、雨雲を吹き飛ばしてそれを行っている枢機卿の神殿へと局所的に集めて固定した。


 その後神殿の半径1キロメートル圏内には一月ひとつきに渡って土砂降りが続き、食材が湿気にやられて痛んだり洗濯も出来なかったりしたという。

 因みにその神殿の場所は、人里より2キロメートルほど離れた場所にあった。


 それはどうでもいいとして、雨雲が吹き飛び晴天になったことで空に大きな虹が掛かり、その下でアイザックとエイリーンは、やっと夫婦となったのである。




 余談。


「ええと、本当にわたくしが宣誓を取り仕切っても良いのでしょうか? 力不足だと思われますが……」

「なに言ってるのコーデリア。貴女は充分優秀でしょ。聖魔法の適正物凄く高いの知ってるんだから。ほらほらグダグダ言わないでさっさと司祭服ストラに着替えるの!」

「え? ちょっとシェリー様、待って下さい自分で出来ますから! 脱がさないで下さい! て、あ、触らないで揉まないで!」

「うわ~、なにこのおっぱい。大きさはそれほどじゃないけど張りと弾力凄いわね。わ! ウェストほっそ! おしりもムチムチでエッチだなぁ。JJも喜んだでしょう?」

「え? なんで知って……じゃなくて、一人で出来ますから、お願いです許して下さ……」


 その後、コーデリアが取り仕切る式は滞りなく行われた。


『Nous promettons que nous exerçons amour et fidélité l'un l'autre partout dans la vie au temps de meilleures choses et circonstances adverses et maladie et santé comme un couple.

(私たちは、夫婦として、順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、生涯、互いに愛と忠実を尽くすことを誓います)』




「でもまぁ、ぶっちゃけちゃえばザックの寿命が尽きるまでなんだけどね~。基本的な生命活動年数が違うし」

「エイリーン?」

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