08


 人は皆平等だと誰かが言った。俺はそうは思えない。


 確かに優劣は存在する。貧富、容姿、才能。それらは大体生まれながらに決まっている。


 だから皇族に連なる俺様は、誰からも傅かれる貴い人間なんだ。





 たとえ、俺が王の子でないとしても…
















 デメトリアスがおかしい。


 いや最初から変な奴だったけど、輪をかけておかしい。

 一応授業には出ているけど、朝は遅刻するし放課後はいつの間にか消えている。あんなにしつこくリリーを口説いていたというのに、それすらも無い。

 むしろ私達を避けている気がする。というか、ティモ以外誰も寄せ付けないし。我儘傲慢皇子の本領発揮か!?なんてふざける気にもなれねえや。

 

 …つまらんとか思ってないぞ、本当に。


 

 そしてこの間、剣術の授業でちょっと打ち合ったんだけど…惜しいな。噂通りの実力はあるし、自分で天才だと言うに相応しい才能を持っていると思う。

 でも、足りない。

 



「うーん…。」


「どうしましたか、アシュリィ様?」


「アイル…。」


 従者三人衆の動きを見てみる。彼らは騎士ではないので…大剣は使い慣れていない。片手剣ならそこそこ扱えるが。授業は片手剣メインで助かったわ。


 パリスは短剣が得意だし、アイルは弓の腕が抜群だ。なので持ち運びしやすそうなボウガンを作ってみたらハマった。

 ララにはクナイを使わせてみたら…どハマりした。いや私だってクナイの使い方なんて知らないから…投げたり刺したりするだけだけど、結構様になっている。

 それに彼女は普段メイド服を着てるし…なんかこう、ね?スカートの下に武器を隠すのって、よくない?


 とにかく、純粋に剣の勝負だと彼らはデメトリアスには敵わない。私の独断でクラス内に暫定的な順位をつけるとしたら…


アシュレイ>デメトリアス>アイル>パリス>ランス≧ララ>その他生徒


 といったところかな?私は別だぞ。何故なら負けそうになったら最終手段で剣を捨てるので。

 ぶっちゃけ私は、素手の方が得意だ。要にステゴロだね、手っ取り早いし。剣の順位関係無え…。



 なんというか、デメトリアスも剣向いてないんじゃない?何が向いてるかは知らん、自分で見つけなさい。トレイシーだって剣より斧の方が強いし。

 でもなんか本人、剣に拘ってるっぽいんだよなあ。…よし、さり気なく…



「ねえ、剣以外の武器はやらないの?アイルなんかは弓が得意だし。」


「…強さの象徴と言えば剣だろう。」


 それだけ言ってどっか行った。我ながら全然さり気なくなかったわ…


 …まあ彼とは知人以上友人未満って関係だし…こっちから首突っ込むのはやめよっと。



 しかし強さの象徴ねえ…。

 彼は、なんで強さに拘るのかねえ。

 









 それから数日後のこと。



「あのあの!微笑の貴公子様!」



 廊下を私とアシュレイとパリスで歩いていたら…後ろから呼び止められた?…びしょうのきこうしさま…???

 そろ~っとアシュレイを見上げると…彼は手で顔を覆って私から逸らし、耳まで真っ赤にしていた。



 ダッッッッッサ!!!!あんた、そんな二つ名付いてんの!!?うっそだろ!?

 というより声をかけてきたのって…




「やっぱり!あの、今お時間よろしいですか?」


「無い。じゃ。」


 ナイトリーだった。アシュレイは言い切って足早に歩き始めたので、私も彼女を無視して歩き出したが…


「あ、待ってくださーい!私、クッキー焼いてみたんです!召し上がっていただきたくて…!」



「アシュレイ様は受け取られません。」


 そこに立ちはだかるのはパリスである!公爵令息が、手作りのお菓子なんて受け取る訳無いでしょうが。

 彼が冷たい訳じゃないぞ、平民だって親しくもない人から貰ったら引くでしょ。むしろアシュレイはリリーの作ったクッキーを、腹を壊してでも食い切ったんだぞ!!!



「ちょっと、そこどいてよ!あなたはアシュリィ様付きであって、アシュレイ様とは無関係でしょうが!」


「関係ある。アシュリィの従者である以上、俺にとっても身内同然だ。彼らの言動は俺の意思でもある。」


 おおう…ダッッサイ二つ名付けられてるくせに、格好いいじゃん!




 なんとか逃げ切った後、リリーに微笑の貴公子様について聞いてみた。



「ああ~…それね。

 貴女昔…アシュレイに「令嬢に囲まれて困った時は曖昧に笑え」みたいなこと言ったじゃない?

 アシュレイも最初は公爵家の者としてどう振舞えばいいか悩んでいて…試行錯誤の末鉄仮面に落ち着いたのよね。」


 そういえば…アシュレイって私達に対する以外は寡黙な鉄仮面なんだよね。そんでたま~に微笑むと…その笑顔に心臓を撃ち抜かれる令嬢が続出したらしい。

 付いたあだ名が微笑の貴公子様か。でも微笑んでるってことは、困ってる時なんじゃん…。楽しい時は普通に笑うしニコニコしてるし。



「でも、なんでナイトリーがクッキー焼いてくんの?仲良いの?」


「まさか!…ナイトリー嬢が、オレが庶民出身だって知ったみたいで…やたら話しかけてくんだよ。

 まあ隠していた訳でも無いし、それで俺を見下すような奴は剣で捻じ伏せてきた。でもなあ…あの令嬢…


「やっぱり同じ過去を持つ者同士でしか分かり合えないことってありますよね!貴族の堅苦しいマナーとか嫌になりますよねー。身分階級とか!

 今度、一緒に王都散策とか行きません?貴族って、服を買うにも家にデザイナー呼んで作らせたりするじゃないですかー。でもやっぱお店を回って悩んで選ぶ方が楽しいですよね!」


 とか色々…。なんつーか、私は貴方の苦しみ分かりますよ!みたいなこと言ってくんだよ…。」




 あちゃー。リリーと同じポーズで天を仰ぐ。パリスも真似しているのが可愛くて…じゃなくて。


 腐っても公爵令息のアシュレイにそんなこと…「オレ腐ってねえし」うっさいわ。無知ってこわあい。


「そういえば…最近殿下に声かけてんのも見たなあ。「無礼な」ってひと睨みして去ってった。」


 デメトリアスか。一言で済ませるあたり、優しいもんだよね。




 これ以上…ナイトリーが暴走しなきゃいいんだけどな…。

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