06
さって、次の授業は剣術か。参加者は大体男子生徒。女子は応援か、刺繍なんかも選択出来る。
まあ、私と三人衆は参加だがな!!
「え、ララとか大丈夫なの!?」
「リリー様、心配ご無用でございます!どうぞご覧になってくださいな。」
ふふふ…魔国で育った彼らが、軟弱だと思う?彼らは私の世話係兼護衛。まあ見てなさいって。
というか剣術の先生が…
「トレイシー!?なんで!?」
「よう、お嬢。中々いい女になったんじゃねえか?」
「でしょー?…じゃなくて!なんで先生やってんの?」
なんとまあ、見知った顔が先生でした。話によると、スカウトされたからアシュレイの在学中のみ教師をしているらしい。
…教師枠、ゲットだぜ!!なんつって。
私は再会したトレイシーを屈ませて、髪を引っ張る。…うん、生えたな!!やっぱハゲより今の方が格好いいぞ。
今彼は30過ぎのはずだけど…前より若返って見えるんじゃない?表情も晴れやかだし。
「まあなー。んじゃ、早速授業始めんぞ。」
「おーう!ねえ、後でパリスにも会ってよ。ほら、あそこ。」
トレイシーにずっと会いたがっていたパリスは、目を輝かせて尻尾をぶんぶん振っている。それを見たトレイシーは、おうよと答えるのであった。
私達編入組は、今日は見学するよう言われた。残念だが仕方ない、生徒の実力を見せてもらいましょうか。
……うーん、レベル低。なんというか…差が激しいな。本気でやってる生徒とそうでないのが。特に…
「どうだ?大将、やるだろ。」
「うん…。」
アシュレイの成長が凄まじかった。足捌き、体重移動、呼吸…全部洗練されてる…。打ち合いも乱取りも他の生徒より頭1つ分どころか20個分くらい飛び出ている。
「あいつな、もうアレンシア家じゃ大将軍と俺に次ぐ実力の持ち主だぜ。その俺も…そろそろ抜かされそうだがな。」
「嘘!?じゃあヒュー様よりも上!?」
「ああ。この国の中でも上に位置するだろうな。しかも称号の効果もあるから…強力な魔物退治なんかにゃ3年前から駆り出されてる。」
トレイシーの発言に、改めてアシュレイに目を向ける。
彼は基礎が一番重要だと分かっているようで、他の生徒が手抜きをしている素振りも念入りにやっている。
久しぶりに会っても…抱きつけば顔を真っ赤にして慌てふためいたり、昔の恥ずかしい話をされると怒ったり…まだまだお子様だと思ってたよ。
背え伸びたなー、身体鍛えてんなーとは思っていたが…ここまでとは。
「絶対に勝ちたい相手がいるんだと。」
「え、誰?私?トレイシー?」
「いや、違う。」
誰だよ…。
…応援してるぞ、アシュレイ。
その時…一緒に見学していたデメトリアスが一歩前に出た。その顔は、いつものドヤ顔じゃなくて真剣そのものだ。
「アレンシア。手合わせを願う。」
「……か、じゃなくて先生。よろしいですか?」
デメトリアスが、アシュレイと?
先生と呼ばれたトレイシーは少し悩み…私の方をちらっと見た。そんで「怪我人が出たら治療頼む」と言った。
「いいだろう。危ないと判断したら俺が止めるからな。」
その言葉を受けた2人は対峙する。何考えてんだ…?デメトリアスは剣に自信があるようだけど、アシュレイに勝てるとは思わんが。
「アレンシア、本気で掛かってこい。」
「……分かりました。」
互いに剣を構える。トレイシーの合図と共に…デメトリアスが先制する。意外と速い!でも…
アシュレイは難なく受け止め押し返し、すかさず反撃に出る。アシュレイが上部から斬りかかるが…防御が間に合っていない。
躱すことも出来ず、アシュレイが寸止めして終了。デメトリアスが「……俺の負けだ」と認めた。
一瞬で勝負がついてしまった…アシュレイすげえ…。意外だったのが、デメトリアスがあっさり負けを認めたことだ。
周囲も彼らの勝負に魅入っていて、勝敗がついた途端歓声が上がった。
「……お前は、なんの為に自分を鍛えている?騎士になるためか?」
「いえ、騎士になるつもりはありません。」
「はあ!?じゃあ何故!?」
「…勝ちたい相手がいるからです。」
「誰だ?」
試合が終わり、アシュレイが手を出しデメトリアスを立ち上がらせる。
そんでなんか会話してるが…アシュレイがこっちをちらっと見た。何さ?彼らは私達に聞こえないよう、小声で会話する。
「……です。」
「…いや、無理だろう!?」
「無理ではありません!幼い頃に誓ったんですから!!」
「…!!誰に。」
「自分にです。」
「……そうか。俺もまだまだ修行が足りんってことか…。
行くぞ、ティモ。」
もう授業終了の鐘が鳴り、デメトリアスはティモを連れ出て行った。
アシュレイになんの会話をしていたか聞いても「いや、大したことじゃ無い」と教えてくれない。残念。
結局私達は見学で終わってしもた。つまらん。
「トレイシー、久しぶり!」
「おう、でっかくなったな。」
「うん!!」
パリスがトレイシーに抱きついた。授業中は我慢してたもんな。沢山話をさせてあげたいが…残念ながら次の授業がある。
名残惜しそうにするパリスをアイルとララが引き摺り、「またねー!!」と言いながら別れた。
「強くなったね、アシュレイ。」
「…まだまだだ。オレはもっと強くなる。」
そっか。きっと出来るよ。
その頃、学園の遥か上空で。
「うーん、やるねアシュレイ。」
「陛下…何をなさっているのですか…。」
肉眼では見えない位置にいるリャクルとルーデン。帰ってこない魔王をルーデンが迎えに来たのだ。
その手に握られているのは遠見の魔導具、ぶっちゃけ双眼鏡(デザイン案、アシュリィ)。それで授業を勝手に見学していた。
「いやー、昔アシュレイに宣戦布告されてね。どれだけ育ったか見てみたくって。」
「はあ…宣戦布告?」
リャクルは数年前の出来事を思い出していた。
あれはアシュリィがこの国を発つ直前、リリーナラリスと出ていた間のこと。
今より更に幼いアシュレイは、精一杯胸を張って宣言した。
『陛下!いつか…必ずあなたより強くなって、アシュリィを…む、むか、迎えに、行きます!』
幼い子供の言うことなので話半分に聞いていたが…どうやら本気のようだった。
「こうなったらディスター城を改装しないと。」
「いやなんでですか。」
「勇者が魔王と雌雄を決するのは魔王城と相場は決まっているらしいよ!決戦に相応しい内装にしなきゃ。あと廊下のあちこちに宝箱も置いておかないとね。」
以前アシュリィから聞いた話である。いつアシュレイは勇者になったのだろうか。
「仲間を引き連れお姫様を奪いに来る…ふっ、楽しみにしてるよ!」
魔王陛下は心底楽しそうな表情をしながら、今度こそ国に帰って行くのであった。
「それにしても、さっきアシュレイの相手していた少年惜しいなあ。良い師に巡り合えれば、もっと強くなれるのに。」
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