魔国での日々 冬



「それでは!第一回!!魔王陛下主催によるディスジェイス雪合戦大会、大・開・催!!!」


「ルールは簡単、雪玉のみを使い、自分以外をノックダウン!!!」


「そしてなんと優勝者には!!明日1日アシュリィ様とずっと一緒にいられる権利が与えられまーす!!!」



「「「さあ、張り切ってまいりましょう!!」」」



「「「うおおおおおおおお!!!!」」」



 上からパリス、アイル、ララ、トリオ、参加者の台詞である。




 なんだこれ。


 もう一度言おう、なんだこれ。


 何度でも言いたい、なんだこれ???




 私は確かに「雪合戦したい!」と言った。だが私の考えていた雪合戦は、こんな大勢の人が集まって雪が溶けるんじゃないかと言わんばかりの熱気に包まれたものではない。きゃっきゃうふふと雪玉を投げ合うものであって、決してバトルロワイアルなんかではない。

 これじゃほんまもんの合戦ではないか、甲冑用意しようか?私はただ…遊びたかっただけなのに…!






 この魔国はベイラー王国と違いそれなりに雪が降る。だから私は毎年従者トリオとディーデリックと四天王を巻き込んで雪遊びをしていたのだが…。

 最初は寒ーい!!とか嫌々付き合っていた子供達も、始まってしまえばこっちのもん。今では雪の日を心待ちにするようになった。そんでそれを見た大人達も楽しそうですねえ、と混じるようになった。そこまではいい。


 どうして、こうなった?





 ……はい、原因は分かっています、私です。私がいけないんですう!!

 あれよあれよと話は進み、なんか城中巻き込んでの大会になってしまった…。料理長、お昼は今日無しですかね…?メイドさん、さっき洗濯してなかった?大臣、年を考えい。お父様、働け!!なんだ魔王主催って!!!そしてなんで私は優勝商品っぽくなってるんだ!!?





「(優勝して明日は仕事サボってずーっとアシュリィと遊ぼう!一緒に買い物行って、お昼寝してお茶にして!あとはー…)」


「(ふふ、アシュリィ様ももう15歳。年頃の女の子にしてはファッションに興味が無さすぎるのよねえ。明日はいっぱい着せ替えしましょ!)」


「(うーん、一緒に魔法のお勉強…じゃいつも通りだし。お昼寝か探検か…)」


「(やはりここはアシュリィ様と鍛錬!魔力は素晴らしいが攻撃と防御が低すぎる!)」


「(ふむ…アシュリィ様が会いたがっていたエンシェントドラゴンの住処に連れて行って差し上げよう)」


「(私が優勝したら…婚約者候補としての親睦を…!)」




 それぞれの思惑を胸に、雪合戦大会スタート!!もう好きにやってくれ…。ちなみに人間のトリオは不参加。あんなライオンの群れにウサギを放つ真似はせん、司会として実況に専念するらしい。



 まず狙われたのは…当然お父様!!100人近い参加者が一斉に雪玉を手にお父様に襲いかかる!!忠誠心どこ行った?


「陛下、お覚悟!!」


「強い者から叩く!恨みっこ無しですぞ!!」


「そう来ると思っていたさ!!お前達、たまには僕だって本気出すぞー!!」



 な…!?四方八方から迫り来る雪玉を全て躱す、打ち砕く!!そして隙を見て…反撃!!



 ゴキィッ!!「ぐはあっ!」


 骨逝っちゃったよね今の音!?ルールでは魔法も禁止なんだけど…ただの雪玉であんな音出る!?お父様はその後も難なく確実に1人ずつ仕留めていく。私の足下に転がってきた雪玉を手に取ってみると…



「重っ!?何これ、雪玉が超圧縮されて…これもう氷の塊じゃん!!?」


 こ、こええ~…。こんなもんが豪速で飛んできたら…おおう。こりゃ確かに合戦だわ。大人しく姫役に徹しよう…。あ。




「おお~っと!!ここで優勝候補の一角、ドロシーさんダウン!!未だ陛下の優勢は変わりません!」


「なんと陛下、ほぼほぼ1人で参加の大半を倒してしまいました!!」


「残るは陛下とアンリエッタさん、ルーデンさんにガイラードさん!そしてディーデリック様だあ!!きゃー!ガイラードさん頑張ってー!!」


「「贔屓するんじゃありません!!」」


 トリオもノリノリで実況してるし…。最近のララはガイラードへの好意を隠そうともしない。彼も笑顔でファンサしとるわ。その度にララが「きゃー!きゃー!!」と騒いでいる。

 ガイラードが優勝したら1日私と過ごすことになるんだけど…いいの?


「大丈夫です!ルールでは2人きり、とは言っていませんからわたしもくっ付いて行きます!何よりアシュリィ様とガイラードさんは互いに主従以上の感情を持っていませんし!」


 よく分かるね…その通りですが。




「あああー!!ルーデンさんもダウン!今の見えましたか、アイルさん!!」


「全く見えませんでしたねパリスさん!ですが、流石の陛下にも疲労の色が見えます!ララさんもいい加減実況してください!」


「おっとっと。さあ、このまま陛下の一人勝ちでフィニッシュなのでしょうか!?まだ勝敗はついていません!!」


 本当ノリノリだな君達。…初めて会った時からは想像も出来ないね。



 怖がって暗闇で泣いていたララが、今は好きな人も出来て頑張っている。

 人生を諦めたようなアイルが、今はパリスとララを引っ張ってリーダーとして、お兄さんとして生き生きしている。

 誰も信じられなかったパリスが、今は笑顔で沢山の人とお話し出来るようになった。




 私は年が明けて春が来たら、寄宿学校に編入することが決まっている。3人は当然のようについて来てくれるらしい。…私が、守るからね。





「あ!!陛下が膝をつきました!!今の強烈な一撃には耐えられなかったようです!」


「その隙を逃す彼らではありません!!」





「陛下!!今ここで貴方を超えさせていただく!」


「ディーデリック。お前にはまだ早い!!」


 

 あ。果敢にも挑んだディーデリックだが…お父様の雪玉をモロに腹に喰らい…破れたり!!



「ふ…まだまだアシュリィは任せられないね。」


「ぐ…!!」



 これが雪合戦じゃなければ胸熱な展開なのに…!残るは3人、優勝は誰の手に!?




「ふふ…昔もよく、こうして遊んだものだね。」


「その通りですわ、陛下。ですが…私達ももう大人。」


「いつまでも、「みんな頑張りましたね」は通用しません!!」


「その通り!さあガイラード、アンリエッタ!来い!!」



「「「うおおおおおお!!!」」」



 勝つのは誰だ…!!!




 その時。



「「「へ…?ぎゃーーー!!!」」」



 なんと…お父様達の頭上に巨大な雪玉が出現し…そのまま彼らを飲み込んだ。一体どこから…!?



「あ!お城の屋根の上をご覧ください!!」


 アイルの言葉に全員が一斉に上を見る。そこに立っていたのは…。





「陛下…皆さん…仕事を放り出し、何をしているのでしょうか…?」


 あれは…侍女頭のクラリス!かつてはお父様の教育係も務めたという女傑だ!!この魔国において、彼女に頭が上がる者はいないとかなんとか。



「子供達はともかく…いい年をした大人が何をしておいでなのかと聞いているのです。

 以前のはろうぃんパーティーというのは城の者達も良い息抜きとなるかと思い許可致しましたが…。今回の件は、仕事をサボってまですることでしょうか?」


「え、え~と、ね?ねえ、お前達?」


「そ、うです、ねえ~。なあ?」


「うふふ~?ですよねえ~?」



 雪から這い上がってきたお父様達もタジタジだ。

 私達子供には優しいおばちゃんなのだが…お父様達にはそうでもないらしい。誰もが滝のような冷や汗を流し目を泳がせている。



「と言うより…今日はクラリス休みなんじゃ…」


「何か仰いまして、陛下?」


「なんでもないよ!?」


 …ん?よく見ると、クラリスの隣に誰かいる。

 お父様によく似た顔立ちの…苦笑いしながら私に手を振る彼は…!


「お祖父様!」


「え!?あ、父上!密告者は貴方か!!」


「いやあ~あっはっは!うーん、ははは!」


 笑って誤魔化せてないぞお祖父様!そうこう言っているうちに、クラリスの頭上にさっきより大きな雪玉が形成されていく…!

 私は咄嗟にディーデリックだけ引き摺って、子供達を一か所に集めた。そこに高性能の結界が張られたのだが…お祖父様だな。



「貴方達は…いい年をして…!!」



 ひええええぇぇ…雪玉がどんどんデカくなっていく…!クラリスは両腕を上に挙げた。まるでアレだアレ、元◯玉!



「いや、落ち着こうクラリス…!」



 お父様達大人も結界を必死に張ろうとしているのだが…ことごとく分解されている。これもお祖父様だな。お祖父様は攻撃は苦手な代わりに、守りに特化しているらしい。



「ちょーっとリャクルも将軍達も最近ネジが緩んでるからね。そろそろ大人だという自覚を持ってもらわないとね。」



 お祖父様、結構スパルタだね!まあ…自分の父親がアレで、息子はコレだもんなあ…きっと、すんごい苦労してきたんだろうなあ…。






「いい加減に…なさいませーーー!!!!」





「「「「ぎゃあああああ……!!!!」」」」





 ズ…ドオオオォォォン……!!


 …と超巨大な雪玉が城の庭を埋め尽くす。これは…もう…




「えーと…ゆ、優勝は…クラリスさんでーす!!」


「おめでとうございます!!」


「では解散!!!」


 あああトリオが逃げた!!ということは私は…?




「アシュリィ様…ああいう大人になってはいけませんよ。

 聞けば優勝者は貴女と1日過ごす権利が与えられるとか。さあ、みっちりお勉強致しますよ!!身近な反面教師から学ぶのです!!」




 こういうオチかよお!!?もおおおお!!雪合戦大会は金輪際禁止だからなああああ!!!








 


 ……とまあ、魔国でもそれなりに楽しく過ごしていた訳だが。やっぱりことあるごとに「ここにリリーがいればなあ」とか「アシュレイも喜びそう!」や「アルは率先して動きそう…」とか考えてしまうのだ。


 でも…もうすぐだよ。雪が溶けて春が来たら…。





 待っててね、もう少しだから!!










※※※※※※※※※



という訳で、次から学園編でございます!

今後はモチベーション維持のため毎日更新は不可能ですが、完結まで突っ走りたいと思います。

ちなみに今後は魔国編のようにキャラクター達が大騒ぎして大はしゃぎがメインとなりますので、ご了承いただける方はお付き合いくださいませ。

そしてアシュリィ以外の視点も増えてまいります。◯◯視点と表記しないので、お前かよ!ということもあるかも。



新キャラもちょびっと登場する学園編、しばしお待ちを!!

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