幕間

魔国での日々 春


 

 どもども皆様、アシュリィでございます。友人達と別れた私は、お父様と共に魔国へとやってきた。


 前回は中々私のことを認めようとしなかった元老院も、今回は割と早く受け入れてくれた。それは多分…前回ここに初めて来た時、私がビクビクオドオドしていたからかな。お父様の裾を常に掴み、離れようともしなかった。

 だが今の私は堂々としているし、文句言いやがった大臣は魔力の刃で服を斬り裂いてやった。大事なところが無事なのはお約束である。お前、次は頭髪な。


「魔族と人間との混血などあり得ません!!」

「なんで無いと言い切れる!!科学的に証明されてんのか!?あ"あん!?」

「カガク…?前例が無いからだ!!」

「前例っつーのは作るためにあんだろが!!!」


 …というやり取りもあったなあ。最早悪魔の証明よな、ここに悪魔は証明されましたー。

 まあ最終的に認められましたが。お父様の圧力、四天王の口添え、あとグレフィールと契約しているのも大きかったな。



「いえ、恐らくアシュリィ様が城の上半分をふっ飛ばしたことが決め手かと思われます。」


 バラすんじゃねえ、ガイラード。次はお前らの家だ、なんて言ってないからね?

 ちなみに四天王という呼称だが…私がそう言ったらなんか本人達が気に入って、自称するようになった。一気にそれっぽくなったな、魔王と四天王て。「奴は四天王の中でも最も最弱…」とかやってくんないかな。そんなこと言ったら、本当に誰が最強か決めたがるだろうから言わんけど。




 そして私はお父様と四天王にのみ、遡行のことを語った。良いことも、悪いことも…。遡りすぎて前世まで行ったことも。話し終えた私は、ごめんなさいと謝罪した。何に対してなのか自分でもよく分からないが…そうするべきだと思ったから。

 するとお父様は私をぎゅっと抱き締め


「辛かったね、もう大丈夫。……でも、そこまでして僕を助けようとしてくれたんだもんね、感激しちゃうなー。」


 と言ってくれた。後半ふざけたのは、気を使ってくれたんだろうな…普段とは違うもの。アンリエッタもドロシーもその後抱き締めてくれて、ルーデンとガイラードは頭を撫でてくれた。そして前世の世界での話を聞きたがったりしたのだ。

 …未来のことを聞かないのは、その必要が無いからなのかな?例えばお父様の死後、誰が魔王に就任したのか等…。…未来は不確定だっていうことかなあ。



 一緒に来た子供達…パリス、アイル、ララと共に日々を過ごす。3人はいずれ人間の国で暮らす予定だ。もしも魔族の誰かと良い仲になったら話は別だが。

 今3人は私付きの使用人となるべく教育中だ。ここは孤児院じゃないから、何かお仕事はしてもらう必要がある。友人兼従者ってとこか。私は誰かに仕えられる柄じゃないけど…むしろお仕えしたい。また宝塚モードやりたい。

 というか…アイルとララは本当は教会とかに預けるべきだったんだよね、彼らの為にも。パリスは獣憑きだから…偏見の無いこの魔国で心を癒して欲しくて連れてきた。でも2人はただの人間だ。特出した何かがあるわけでも無い、普通の子供。

 強いて言えばララは超可愛いしアイルは頭が良い。そしてパリスの耳と尻尾は殺人兵器だ、主に私に効く。彼らはなんでついて来てくれたんだろう…?

 



「それはもちろん、アシュリィ様が助けてくれたから、ですよ?」


「いや、助けたって…私だけじゃなくて、ベンガルド家の皆さんのお陰なんだけど。」


「それでも。俺達はアシュリィ…様に救われたと思ってい、ます。伯爵様に聞いたけど、別にオークションを最初から捜査する予定とか無かったんでしょう?」


 まあ、確かに。偶然が重なってああなったとも言える。…あのオークションは年に1~2回行われていたらしい。今までに救えなかった人達だっているんだよな…。


「それはアシュリィ様が気にすることじゃない。」


「はい、大人達が悪いんです…アシュリィ様に、背負ってほしくありません。」


「ただそういう人達から見りゃ、救われた俺達は…憎く映るだろうな。」


 …うん。なんで自分達は救ってくれなかったんだって…。ともかく、そういった捜査も王国に任せてある。可能な限り救出して欲しいと。あとは彼らの仕事だ。



「……。」


『どうしたの、パリス?』


『アシュリィさま、これよめない…。』


『あー。これは「唯我独尊」…って、なんじゃこの本?』


 パリスは現在言葉の勉強中である。せめて共用語だけでもマスターしないとね~。結構聞き取れるようにはなってきている。魔国の母国語は一応あるけど、それしか使わないって人はほぼいないんだよなあ。

 今更だが私達は、私の部屋のテラスでお茶中だ。よく仕事の合間にしているのさ。本来なら私もこの国の歴史とかマナーとか学ぶ必要があるんだけど…全部知ってるからいらない。だから魔法の練習したりと自由に過ごしているのだ。



 魔国に来てから季節は巡り、現在は春。気持ちのいい風が頬を撫でる…なんかしたい。






 …よし、花見しよう!残念ながら桜の木は無いが、見頃な花はいっぱいある!城から少し離れた丘にいいスポットがあるんだよね。よし行くぞ今すぐ行くぞ!


「ねえアイルちゃん、アシュリィ様また何か思い付いたみたいだね。」


「そうだな。それよりちゃんはやめろって…。」


 今回は子供チームだけで行くぞ!!他の人がいると、3人共緊張しちゃうんだよね。大分慣れてはきたけどさ。



「よーし、ララは厨房に行って4人分のお弁当用意してもらって!外で食べるから、サンドイッチとかそういう食べやすいやつ!

 アイルは敷物の準備と、お茶とジュースをポットに淹れて!

 パリスは私の支度手伝い!」


 支度なんて1人で出来るけどね。今後はそういう訳にもいくまい、私もそれなりの身分があるので。


 各々仕事をこなして、外出の報告をする。大体いつも四天王の誰かがついているんだけど、今日は来なくていいから!と言っておく。こっそり来るかもしれないけど…3人に気付かれなければいっか。




「じゃ、行ってくるねアンリエッタ。」


「はい、行ってらっしゃいませ。」


 今日は彼女か。リュウオウを呼び出し(グレフィールは私以外を乗せようとしないからダメ)、しゅっぱーつ!!


「「「おー!!」」」






 アシュリィ達が飛び立ったあと。



「アシュリィ様が外出された!陛下のお耳に入らぬよう細心の注意を払え!!」


「アンリエッタ様、すでに手遅れです!!仕事を放り投げついて行く気満々です!!」


「椅子に縛りつけなさい!!アラクネーの糸を使うのよ!!!」


「椅子を破壊されてしまいました!!」


「カルメルタザイトで作られた椅子になさい!!」




 この後四天王総出で抑えつけられるお父様の姿があったとかなかったとか。








「アシュリィ様、この辺ですか?」


「そうそう。そこに敷いて。そしたら皆、靴を脱いで乗って!」


「はい!」


 準備を終え一息つく。いやあ、落ち着くわ。私は横になったりダラダラゴロゴロしているというのに、3人はきっちり正座しておる。これじゃ私が駄目人間みたいじゃん!!



「ちょっと、もうちょい崩して、リラックスリラックス!!」


「で、でも…。」


「花見っつーのはそういうモンなの!日々の煩わしさを忘れ美しい花を愛でながら好きに過ごせばいいの!たまに春風に吹かれることがあるのも風情があります。」



 私の言葉に、ようやっと崩れた。懐かしいなあ、昔日本で花見した時…酔っ払いに絡まれたりジュース買いに行った愛斗が道に迷ったり。突風にさらされてフラついてこけて弁当ぶち撒けたり…。…あら?ロクな思い出が無いぞ??


 美味しいお弁当を食べて少し遊んで…やばい、眠くなってきた。


「ごめん、私寝るー…ラッシュ置いとくから、好きに遊んでいいよ。もしくは一緒に寝る?」


「ね、ます。」


「わたしも!」


「俺は起きてる。勝手にお茶飲んでますから。」


 うーんアイルは責任感が強いというか、男の子だねえ。ちなみに彼は10歳。ララは私と同じで9歳だと言うので、パリスは8歳にした。パリスは最初2人のことも警戒していたが…今は仲良しである。


 そして私達は目を閉じる。程よい気温に風。気持ちいい…ぐう。






 ふと思った。リリー達と…こうしてお花見が出来たらなあ、と。そんなことを考えていたからか…夢に出てきてしまったぞ。


 夢の中では…この世界では見たことのない桜の木の下で。シートの上に食べ物と飲み物を広げて。旦那様とトレイシーとヒュー様とジュリアさんが飲み比べを始めて。何故かハロルドさんが優勝した。

 リリーの肩に蜘蛛が降りてきて…パニックになって裸足で逃げた彼女を私とアシュレイとアルで追い掛けて…。そうしたら、いつか皆で遊んだ秘密の場所、滝のあるところに出た。


 そしてまた4人並んで足をバシャバシャさせて…アシュレイが何か言おうと口を開いたところで…目が覚めた。







「アシュリィ様、嫌な夢でも見たんですか?」


「へ?」


 目の前に、アイルの顔。両側の2人はまだ寝てる…どうやら彼に起こされたようだ。



「……。」


 無言でハンカチを渡された。どうやら私は泣いていたらしい。…寂しがりか!!!


「あー…ごめん、ありがとう。嫌な夢なんかじゃないよ、いい夢だった。…いつか、叶う夢。」


「…そうですか。」


 うん。いつか4人でお花見に行こう。その時は、この3人も一緒に!





 魔国には学校が無い。それぞれ自分の家で勉強するのだ。だから、私は留学すっぞ!!

 少しだけ皆と距離を置くべきだと思ったのと、お父様達と一緒にいたいという考えから私は王国を出た。それに勉強は必要無くても、この国での私の立ち位置を確定する必要はある。それも数年で落ち着くだろう。


 リリー達は、貴族のみ通う寄宿学校に行くはずだ。…いいなあ、いいなあ…!遅れるだろうけど、私も絶対行くからね!!




 ふと空を見上げる。この繋がっている空の下…今頃彼らは何をしているのかな。きっとアシュレイは公爵令息として勉強とか鍛錬で忙しいだろうな。リリーは新しくお友達増えたかな?アルは…フェンリルの子供、アリス(何故この名前にしたのか小一時間ほど問い詰めたい)と仲良くしてるだろうか。


 いつか再会する日を心待ちにしているよ。皆も同じ気持ちだと嬉しいな…。






「…さて、そろそろ2人を起こして帰ろっか。」


「はい。」



 





~一方その頃、ディスター城にて~




「陛下が脱走致しましたーーー!!!」



「げ、もうバレた!!嫌だー!僕もアシュリィとお出掛けする!!!」


「いい歳して何駄々こねていらっしゃるんですか!!」


「たまには子供達だけでゆっくりさせてあげませんと!!」


「………行く!!!仕事は終わらせたんだからいいでしょう!!?」


「普段からそのくらいやる気出してください!!どちらにせよ、今日は駄目です!!」




 

 城では魔王VS一般兵→上級兵→幹部(大臣)→将軍(四天王)という展開が繰り広げられているのであった。



「よし、全員倒した。アシュリィ、今…」


「ただいまー。…何この状況?死屍累々じゃないの…。」


「…手遅れ…か…。」


 その場に倒れる魔王。



「…何があったんだ。」



 私はこの惨状の原因が、魔王が娘と遊びたいが為に城で大暴れした結果だと聞き…お父様に説教した。そして…今度一緒にお出掛けをする約束をしたのであった。



 なんともアホな話だが…ふむ。いつか皆に聞かせてあげようっと!

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