第44話
周囲に人気が無いのを確認し…魔力を手に集める。狙うは…
「そこっ!!!」
「!!?ぐっ!!」
よし命中!!木の上から落ちてきたのは…子供?私よりちょっと上くらいかな、顔を隠しているから性別はわからん。
落ちたっつっても華麗に着地を決め、すぐに私から距離を取る。うーん、殺気を感じる。
「手荒な真似して申し訳ない。ちょっと気になったものでね。敵意は感じられなかったけど、リリーお嬢様の護衛として見過ごせない。」
「…いつから気付いていた?」
「ミーナ・シャリオン様がお嬢様に話しかけた時から。あの時からずっと、お嬢様を観察していたでしょう。
主が不躾な視線に晒されているのはあまりいい気がしないのでね。」
「…ふん。」
どうやら殺気は抑えてくれたようだ。だが警戒は解いていない。
状況から察するに、シャリオン様の護衛だろう。影ってやつ?でもまだまだ未熟だな、私に感づかれるくらいなんだから。
「…その通りだ。自分はまだ半人前、将来的にはミーナ様専属になる予定だが…今日の茶会は練習としてお護りしている。」
「…シャリオン様は影が付いている事も知らなそうだったね。…もしかしてシャリオン伯爵家って、そういう裏社会とかに強い?」
「ああ。旦那様はミーナ様を溺愛しておられる。万一の事を考え、外出時は必ず影が付き添っている。当然裏社会にも詳しいさ。」
「…やっぱあなた半人前だな…他人にそんな事情ペラペラ話しちゃ駄目でしょうよ…。」
「…ああっ!?」
「嘘、自分の口軽すぎ…?」なんてアテレコつきそうなポーズしとるわ。まあ私は情報貰えてラッキーです、どうもありがとうございます。
「ち、違うぞ!いつもはこんなに軽くない、断じて!!
ただ貴様…いや…貴方は敵に回したくない雰囲気というか…そんなアレなんだよ!」
なんじゃそら?慌てて言い訳のような事を始めたぞ。でもまあ、確かにこんな口軽かったら練習でも大事なお嬢様の護衛なんかにゃしないだろうね。
…これ、チャンスじゃない?
私は彼?彼女?に近づく。一歩一歩近づく度に青ざめて後退りされるの、結構傷つくな…くすん。だが逃さん!影の腕を掴み、にっこり笑って語りかける。
「ねえ…私の依頼、聞いてくれる?」
「い、依頼…?それは侯爵家から伯爵家に?それとも貴方個人?」
「個人だよ。そもそも私の雇い主は侯爵じゃあない。どう?」
影は少し考えた後口を開く。
お願いや脅迫ではなく依頼であれば、聞いてくださるかもしれないとの事。うん、それでいいよ。
OKが出たら、侯爵家ではなくベンガルド伯爵家に手紙を送るよう伝えてもらう。侯爵家の人間は信用出来ん、大事な手紙なんて渡してたまるかってんだ。
これで一歩前進出来るかもしれない!そう思うと自然と拳に力が入る。
「あのー…離していただけません?」
お、ごめんごめん。ついね。
今まで裏社会に深く通じていそうな貴族とか関わりなかったからな、テンション上がっちゃったよ。こりゃもう公爵家や王家に力添えいただくしかないのか!?と思ってたもんよ。
さて、そろそろ戻るか。影もそうしたいだろう。つかもういないし!流石に早いな。
戻る前に、旦那様に通信しておこう。シャリオン伯爵家から私宛に手紙が届くかもしれませんって。
「クックル、オン。アルファと通信。」
〈…ん?どうした、まだ何か?〉
「へ?旦那様、私です。…アシュリィですが。」
〈おや、アシュリィか。どうしたんだ?〉
「その前に…今まで通信していました?」
〈ああ、アシュレイとね。まあ相手は私ではなかったが。〉
アシュレイが…?ハロルドさんあたりに相談でもしてたのかな。気になるけど…今は時間が無い。用件だけ伝えてオフにし、お嬢様のもとへ急ぐ。
その後も平和なお茶会が続き、帰宅する時間になった。
そして帰り際、影がいそうな方向に向かってウインクする。言葉添え、よろしく!ってね。
なんとなく、影が頷いている気がした。
「お嬢様ー、シャリオン伯爵令嬢はいかがでしたか?お友達になれそうですか?」
「そうね…楽しかったけれど、あなたと話したそうにしてたわよ?今度お相手して差し上げたら?」
「え?うーん…まあ、そういう事なら…?」
帰り道、御者台からお嬢様に聞いてみた。結構話弾んでたみたいだし、そこそこ礼儀も弁えている。にしても、私とねえ?まあそれは置いといて、そろそろ本気でアシュレイをどうにかしないといけない。
シャリオン家に依頼したい事は当然、ザイン子爵の犯罪の証拠集めとガイラードの調査。出来れば侯爵家についても調査してもらいたいが…伯爵がどんな人物かも分からんし、保留で。
だがこの交渉は、私だけでなくアシュレイも行くべきだ。いつまでも気まずいなんて言ってらんねえ!!
たとえアシュレイとの関係が悪化しようとも…いや悲しいけど。私多分泣くけど、彼の家族の命にゃ代えられない!
私はアシュレイと向き合う覚悟を決め、前を向く。会話の途中で私の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、お嬢様が小さく笑った気がした。
というかアシュレイ今日は、警備隊と一緒に鍛錬の予定だったか。多分夕方までだよな。あーあ、寄っていけば良かった。通り過ぎちゃったよ、もう。
だがお嬢様の部屋に戻ってみれば、いたわ。お嬢様もびっくり。
「おかえりなさい、お嬢様。それにアシュリィ。
…悪かった!」
「…へ?」
え、え?どしたん??私の決意どうしてくれんの?
「なんだよ、その間抜け面?…だから、今回の件。オレがガキだったんだよ。お前の言う事は正しい。家族のみんなを助け出す為だったら、オレの我儘を通す訳にはいかねえ。
それとな…オレ、お前に劣等感抱いていた所もあったんだ。お前がハイスペック過ぎて、オレ要らなくね?お嬢様、お前1人で護れんじゃねえ?って…。
何より、オレにそんだけの力がありゃ、家族を目の前で失うような羽目にはならなかったのに!って…。」
…なんとなく、そんな気はしていた。たまにすごく落ち込んでたり、本を真剣に読んでたり、がむしゃらに剣を振るってたりしてたから。
焦ってんな、追い詰められてんなー…とは思っていたけど、私が声をかけるのは逆効果だろうから見て見ぬ振りをしていた。
もちろん相談されたら、応じるつもりだったけどね。
「…あんたにどんな心境の変化があったかは聞かないけど、よく言った!
必ず、家族を助け出す!」
「おう!!」
私達は堅く握手を交わし、笑い合った。お嬢様も手を乗っけてきた。もちろん、お嬢様も仲間だ!!
よかった。アシュレイは自力で乗り越えてくれたんだな。いや、ハロルドさんが何か言ってくれたのだろう、感謝しないといけないな!
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