第43話



 アシュレイの声で目が覚めた。なんだよう、そんなに怒んなくてもいいじゃんか。


 朝からもの凄く怒られたが、気にせず仕事に移る。お嬢様にも帰りが遅くなるなら連絡しなさい!と怒られた。お母さんか!


 なのでクックルの分身を2人にも預ける。お嬢様にはベータ、アシュレイにはガンマだ。

 使い方…って言い方はいやだな。…飼い方か?それを説明すると感心してた。それでまあ、当然ながら昨日の話になる訳だが…夜見たものはお嬢様には黙っていよう。私みたいに眠れなくなりそうだし。



「私の方もいいけど、お茶会はどうでしたか?お友達出来ました?」


 と聞いたら、2人は顔を見合わせて唸った。



「成功…かしら?」


「いや…どうでしょう?」



 え、何その反応。


 詳しく聞いた所…最初はそれなりに楽しく過ごしていたらしい。

 だが暫くすると、私のぶん殴リストに登録されてる令嬢とかが、懲りずにお嬢様に喧嘩売ってきたらしい。んでもって話は私とアシュレイにまで飛び火して、

「アイニー様が仲良くしていた孤児をリリーナラリス様が気に入って、無理やり自分の執事にした」

という荒唐無稽な話を始めたらしい。

 多分アイニー様が自分でそう吹聴してるんだろう、というのが私達の見解だ。だって私達が孤児なんて、他の貴族が知ってる訳ないし。


 挙句の果てには「第二王子の婚約者はアイニー様だったのに、リリーナラリス様が我儘を言って泣く泣く愛し合う2人は引き裂かれた」ですってよ。

 ぶん殴リストからぶっ殺リストに移しておくね!


 そんでまあ、当然お嬢様はやんわりと否定した。そこで執事との仲良しっぷりを見せつけてもいいんだが…アシュレイは男の子だから、殿下の婚約者候補としてあまり異性と近過ぎるのはよくなかろう。その場では笑って流す事しか出来なかったらしい。

 その殿下に関しては、こないだのお茶会にいた人は苦笑していたらしいが。アレを見て愛し合うって、ねえ?

 でもまあロイスタン様以外にも、知人以上友人未満の人は出来たらしい。よきよき。



 ふむ。つまり私が次の機会で、お嬢様とのラブラブっぷりを見せつければいいという事ですね!!

 宝塚アシュリィ降臨しちゃうよー!!



「ふふ、よろしくね。」


「で、お前の方は?…朝の事も含めて説明しろよ!」


 後半の方は、私にしか聞こえない小声で言ってきた。へいへい、分かってますって!




 昨日の商談については割愛し、傭兵について全部話した。交戦したあとふん縛り、現在伯爵邸にいる事まで全部だ。誤魔化そうかとも思ったが…なるべく嘘はつきたくない。

 そうなると当然…アシュレイが噛み付いてくる訳だ。



「な!?じゃあ今、伯爵家で自由にしてんのか!?」


「監視付きだよ。」



 覚悟はしていたが…やはりこうなってしまった。彼にとって傭兵達は、仇と言ってもいいだろう。

 私だってもし教会の皆が連れ去られたら…目の前に犯人がいたら正気を保てる自信が無い。更に皆の安否不明ともなればね…。

 でもアシュレイには、今は堪えてもらうしかない。確実に子供達に辿り着くまでは。



「そういう問題じゃねえよ!なんで騎士団に通報しねえんだ!!」


「…だからそのデメリットについては説明したでしょ!?考えなしに行動したら、子爵の罪も問えなくなるしガイラードだって逃す事になりかねないんだよ!!

 そうなったらあんたの家族の消息だって掴めないし同じような被害者がまた出るかもしれない!!それでいいのかあんたは!!」




 8歳の子供にひどい事を言っている自覚はある。でもここは譲れない!



 さっきからお嬢様はおろおろし、アシュレイは私の言葉に黙ってしまう。あの顔は、理解は出来るが納得いかないって感じだな…。

 とはいえ、私にはこれ以上説明しようがない。自分で消化してくれればいいんだけど…。


 だがアシュレイは「…悪い」と答えたきり黙ってしまった。










 それから1週間以上が過ぎたが…。私達は気まずいまま過ごしている。互いに仕事はちゃんとやっている(つもりだ)けど…。



「…これ頼む。」


「ん…はい。」


「さんきゅ…。」




「ほれ。」


「ありがとう。」


「おう…。」




 …とまあ、最低限の会話しかしていない…。寝る前の会議も報告だけ済まして終わりだ。

 侯爵のアレも、相談出来ていない。流石に眠れなかったのは初日だけなので、なんとかなってるが。





「あなた達、いつまで気まずいままなのよ…。」


「私が知りたいんですが…はあ。」



 今日もお嬢様はお出掛けだ。今回は私が付き添いをする。なので今身支度中なのだが…お嬢様も気になるよなあ…。


「アシュレイには酷な話だってのは分かってるんですけど…だけど私が謝るってのも違う気がして。

 でも、他に言い方があったかも…とは思っています。人生って、正しい事が良い事とは限りませんよね…。」


 お嬢様のヘアセットをしながらぼやく。もう溜息出まくりだよ。このままずっとこの状態…なんてのは絶対嫌だ。トロくんにも相談してみたんだが…。



『…うーん、僕が口を出せる問題じゃないと思うよ。よく話し合うくらいしか思いつかないなあ。』


『だよねえ…うう、言い出しづらい…!』


『(アシュレイくんも同じ事を相談しに来た事は黙っておこう…)』




 はあ…とにかく切り替えよう!今日もお嬢様をお護りする事だけを考えねば!

 と、気合を入れていたら侯爵と鉢合わせした。内心ひいいい!!ってなったけど、鋼の精神でにこやかに対応出来たぞ。…ああもう、思い出しちゃったじゃんか!!

 アシュレイに行ってきますと告げ、馬車に乗る。




 御者席でひとり考える。アシュレイの事、傭兵達の事、ガイラードという男。侯爵の趣味?

 …実は…ガイラードの姿絵を見た時から…どっかで見た事あるような気がするんだよなあ…。でも会った事はないし、ゲームにもいなかったと思う。黒髪黒目に褐色肌、鋭い目つきも相まってアシュレイの「黒い番犬」という評価もぴったりだと思う。

 あんな目立つ人だったら、忘れないと思うんだけどなあ…?


 それとも…私の記憶が蘇る前に会ったことがある?まさかね…。











「ようこそいらっしゃいました、アミエル様!」



 そして始まったお茶会だが、なんだかんだお嬢様は上手く溶け込めているね~。本来は優しくて素直で可愛い人なんだから、人気があって当然よな。

 にしても…今日は小規模なお茶会のようだ。私のリストに載ってる人は見当たらんな。もしかして主催者様が配慮してくれたのかな?


 それにしても、髪短い令嬢が2~3人いる?お嬢様ほどではないが、胸辺りまでの長さの人がいるな。

 なるほど、お嬢様に影響を受けたがいきなり短くする度胸は無かったってとこか?家族の反対もあったかもしれんし。

 それとも、ショートカットな女の子がいいって言ってた第三王子狙いだったりして!

 

 …ん?こっちに向かって来てる令嬢…。





「あ、あの。初めまして、アミエル様。

 わたしシャリオン伯爵の娘、ミーナと申します。少々お話よろしいですか!?」


「え、ええ…初めまして、リリーナラリス・アミエルですわ。」

 


 うおー、元気のいい令嬢だな。お嬢様も圧されてるわ。そして髪短っ。私といい勝負だよ、髪括ってもないのにうなじ見えてるよ?



 …?この令嬢が話しかけて来てから…視線を感じる?気のせい、じゃあないな。敵意は無さそうだけど…好意的でも無い。



「あのあの、実はわたし、王宮のお茶会の時からアミエル様とお話したいと思っていたんです。

 アシュリィさんとアシュレイくんとも…今日はアシュレイくんはいないんですね。」


「あら、嬉しい事を言ってくださるのですね。ね?アシュリィ。」


「ええ、お嬢様。私共の事まで気にかけてくださり、光栄でございます。」



 そう言うとシャリオン様は目を輝かせた。うーん、中々に可愛らしい人だな。ミーナ・シャリオンか。偶然にも、女主人公と同じ名前だなあ。伯爵令嬢だし!しかも緑色の髪ってとこまで同じ!




 ……。




 本人じゃん!!!?ゲームと雰囲気違くない!?短髪だから?だからなのか!

 …でもまあ、こうやって社交をしていればいずれ出会うのは分かっていた事。ただ予想していたよりもお嬢様に友好的だな?


 お嬢様も楽しそうだ。ノーマルエンドでもこの2人は老後だが、仲良くしていたし。お嬢様のお友達になってくれるかな…?




 ………。




 シャリオン様が美味しいお菓子があっちにあったんです!と言って取りに行った隙に、お嬢様に話しかける。



「失礼致します、お嬢様。申し訳ございませんが、少々席を外させていただきます。ラッシュが側にいますのでご安心ください。

 すぐに戻りますので…。」


「?…分かったわ。」


「ありがとうございます。」



 許可を得て側を離れる。本来なら何があろうと離れるつもりは無いのだが…。そんな遠くまで行くつもりは無いので大丈夫だろう。

 あまり離れるのは…も本意ではあるまい。

 少し離れた所にある木を睨みつけ、移動する。



 …ここでいいかな。さて、と。




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