第30話



 はい到着!早ーい!!


 馬車でえんやこらと進むより、障害物も無い空の旅は速い!!2時間で着いた!まあ途中鳥と衝突したけど…美味しそうなので教会にお土産として持って行く事にした。

 上空で血抜きしたから…もし下でパニックになってたら犯人は私です。ごめんなさいね。

 

 しかし快適な空の旅でございましたわ。離陸時の圧も着陸の浮遊感も、飛んでる最中もほとんど風は無かった。恐らくリュウオウの能力なんだろうけど、そよ風程度で気持ちよかった~。

 そういえば、リュウオウ長いから15人くらい並んで乗れるかなーって思ってたんだけど…尾の方は荒ぶってるから、あの辺に乗ったら振り落とされるね!想像したら笑っちゃったわ。




「よっし、まず教会に挨拶して、荷物を纏めるよ。私達はもう、ここに保護されてる子供じゃあないんだから。」


「お…おう!」



 …アシュレイ、少し慄いてる?

 そういえば忘れてたけど、私達ってまだ8歳なんだよねえ。小学生が自立して住み込みで働いて…しかも見習いとはいえ執事。立場的には他の使用人と同じか上。

 よく考えたら、普通の子供に耐えられるのか…?今更アシュレイを巻き込んだ罪悪感が…!

 でももう退けないし、アシュレイは分かってて覚悟していたハズ。私はアシュレイの手を握った。



「これから大変だけど…一緒ならきっと大丈夫!」


「…!おう!頑張ろうぜ!」



 その意気だ!!




「「ただいまー、シスター!」」


 元気よく扉を開ける。すると現れたのは…。



「おかえり、リィちゃん!あとレイ。」


「カルマ!久しぶりー。」


「オレはついでかい…。」


 飛びこんでくるカルマをぎゅーっと抱き締める。あー、懐かしいこのやりとり!アシュレイとカルマって仲良いんだか悪いんだかよく分かんないんだよね。

 そしてカルマに手を引かれるまま歩き、皆と再会を喜んだ。皆アシュレイの傷跡が消えてる事にすぐ気づき、祝福してくれた。その中に、


「あれっベラちゃん!久しぶりだねー。」


「久しぶり、アシュリィ。それとそっちがアシュレイだね。初めまして、卒業生のベラよ。」


「ああ…アシュレイです。ベラ…さんの事はアシュリィやトロから聞いてるよ。」




 久しぶりにベラちゃんに会えた!今16歳かな?大人っぽくなっちゃって~。一緒に遊びたいけど…今は急がなくちゃ。


「ごめんね、ゆっくりしたいけど私達…すぐ荷物纏めて行かなきゃ。」


「ああ。早くお嬢様の所に行くんだ。」


「それ!それを言いに来たのよ私!」


 ん?ああ、お嬢様に伝言かな?おっけい、でもトロくんに言えばいいのにぃ~このこのっ。


「ちっがーう!そもそも私、最近トロと会えてないのよ。…いや喧嘩じゃなくてね!?

 なんだか…お屋敷でリリー様が大変みたいなの。よく分からないけど、なるべくお側にいたいんですって。」


「そうなの、トロくんここ2週間くらい教会にも来てないし…あっ!!!」





 その話を聞いた私達は駆け出した。荷物はまた後日!!あ。これは渡しとかなきゃ。


「シスターはいお土産!!じゃ、また!」


「えっきゃっ。あら美味しそう。

 …ちょっとー!!この鳥、天然記念物の…!どうしましょう!?」








 急いで侯爵邸に行かなきゃ!!でも第一印象は超大事。早速燕尾服に着替え頭も整え、侯爵邸に…!



「アミエル侯爵家、どこにあんの!!?」


「お前知らねーのかよっっ!!?」



 詰んだ!!!!











 結局空から探す事にしました。いつもどっちから馬車が来てたかは知ってるから…そっちの方角でとにかくデカい屋敷を探せ!!となりまして…。

 我ながら頭の悪い作戦だ。だが、上流階級の家がどの辺にあるのかは知ってるから、そこを目指した。

 後で冷静になってよく考えたら…教会に戻ってシスターに聞くべきだったね!!











「こんにちは。私はアシュリィと申します。侯爵様にはお手紙が届いてると存じますが…お目通り願えますか?」


「ボクはアシュレイです。同じく、お目通り願います。」



「んん?何も聞いてないが…確かか?子供のお遊びにしちゃあ本格的な格好だが。」



 まず第一関門、門番。

 まあ妥当な対応だな。ちびっ子が燕尾服着て当主に合わせろって、怪しいよなあ。



「はい。こちら、ベンガルド伯爵様より紹介状も預かっております。こちらは侯爵様に直接お渡しするよう言付かっています。」


「ベンガルド伯爵…分かった、確認するからちょっと待ってろ。」


「「はい。」」





 ここで焦っちゃいけないぞ、アシュリィ。確実に雇って貰わにゃ。……ところでさっきから気になってたが…。



「アシュレイ…今の門番、2年前にお嬢様の護衛やってた騎士だわ…。」


「えっ、あのタックル事件の?でも話に聞いてた印象とは違うぞ…?」


「なんちゅう覚え方してんのさ。私も驚いてるよ…。」



 門番はもう1人いるので、ヒソヒソと会話する。

 そして、確かにあいつはお嬢様の護衛だった奴だ。お嬢様が襲われるのをただ見学してたあんちきしょう。私に剣を向けたクソったれ。お嬢様を罵倒した身の程知らず。

 私は2年前は前髪で顔隠してたし、ボロい服を着ていたから気付かなかったんだろうな。言いたい事は山程あるが…んんん?

 


 前からずっと思ってたんだけど…侯爵家って…





「おーい。旦那様から面会の許可が下りたぞ。ここから先はあの人に付いて行け。」


「「はい、ありがとうございました。」」



 っと、思考が遮断されちゃった。今は余計な事考えてる場合じゃない!

 お迎えはあの人か。見た所執事さんだね。

 多分30代半ば、なんかこう…常に胃を痛めてそうな弱々しさを感じる。



「ようこそ、小さな見習い執事さん。私はこの侯爵家で執事長を務めているルイス・コルディです。

 さあ、案内するから付いてきてくださいね。」


「ありがとうございます…。」






 調子が狂う。






「ここが旦那様の執務室ですよ。

 旦那様、見習い執事さん達をお連れしました。」


「入れ。」


「はい、失礼します。」


「「失礼します。」」



 侯爵家の名に恥じない立派なお屋敷にお部屋。ここに来るまでの廊下も、絵画や装飾品が素晴らしかった。来客を目で楽しませてくれる。

 そして屋敷の主人も、一見穏やかそうな紳士だ。



「よく来た、2人共。私がこの屋敷の主、ハルク・アミエルだ。お前達の名前を聞こう。」



「はい、ボクはアシュレイと申します。貴重なお時間を割いていただき感謝致します。」


「私はアシュリィと申します。こちらにベンガルド伯爵様より紹介状を預かっております。どうぞお受け取りください。」



 侯爵は私から紹介状を受け取り目を通す。すぐに読み終わり、私達を見据える。





「ふむ、確かにベンガルド伯爵の筆跡だ。

 確認だが、お前達が仕えたいというのはリリーナラリスで相違ないか?」


「「はい。」」



「そうか…。この家では、あの娘に与える物は何もない。当然人員も。

 そこで提案だが、それぞれ他の兄弟に仕えるのはどうか?お前達はとても優秀だと聞いている。

 アシュレイは2人いる息子の世話をすれば良いし、アシュリィには娘を頼みたい。

 だがどうしてもリリーナラリスに仕えると言うのであれば、侯爵家で雇用する事は出来ない。」



「「………。」」




 落ち着け、予想通りだ。伯爵様は考えがあると仰っていた。それが今、私が持っている一通の手紙。


『もし侯爵が君達を雇わないつもりなら、この手紙を渡すといいよ。』


 そう言いながら渡してくださった手紙。…なんか侯爵の弱味でも書いてあんのかな?実はヅラとか。

 



「はい、私達はリリーナラリスお嬢様にお仕えする為に参りました。

 そして伯爵様よりもう一通手紙を預かっております。こちら、私達を採用出来ないと仰るならお渡しするようにと言付かりました。」


 さっきと同じくルイスさん経由で手紙が渡される。私達はもう心臓バックバクだよ。どうなるんだよ私達!!最終手段はお嬢様を掻っ攫って逃げるからな!!!



 その手紙を読んだ侯爵が、溜息をつく。


「この手紙には、ベンガルド伯爵がお前達を雇う、と書いてある。お前達の給金、生活費、その他諸々全て伯爵が負担するそうだ。

 そしてお前達に拒否権は無い。私が手紙を受け取った時点で契約成立だ。」



 !!!!??

 いやいやいや、なんでそこまで!!?

 特訓のお陰で顔には(多分)出てないけど、私今もの凄く困惑してますよ!?アシュレイも。だってすんごい汗かいてるからね!!

 そんな私達の様子に気付いてんだか気付いてないんだか、侯爵は淡々と続ける。



「それだけでは無い。リリーナラリスが寄宿学校に通うのであれば、当然お前達も付いていくだろうと。2人の学費も負担するそうだ。

 そしてこれが同封されていた。お前達のゲルトカードだ。」



 ゲルトカード。それは…キャッシュカードだ。

 この国にも銀行はある。そしてこのゲルトカードは個人の魔力を登録する。つまり、本人しかお金を引き出せないのだ。入金は別。

 でも魔力を登録した覚えなんて…犯人はジュリアさんか!?魔法の特訓の際、既に伯爵がこれを計画してたなら…!

 や…やられた!!何を考えてるんだあの伯爵!?

 旦那様達の事は信頼してるけど…ここまで私達が施される理由はまるでない。善意…じゃないよな。もしそうだとしても、タダより高いモノは無い!


 じゃあ考えられるのは…投資?…今は考えても仕方ない。ひとまず好意に甘えといて、今度会ったら問い詰めよう。




「それではお前達は本日よりこの屋敷で見習い執事として働く。だがあくまで伯爵家の執事だ。

 立場としては客人に近くなる。故に執事ではあるが他の使用人との上下関係は無いと思って欲しい。仕事に関しても、基本的にリリーナラリスに関する事だけで良い。

 備品や食材なども好きに使えば良いし、食事は使用人の分を食べれば良い。全て伯爵が負担するから気にするな。」





 …さっきからさあ、侯爵の言葉。高圧的に聞こえるかも知れないよね。

 でも実際、彼の声はとても優しい。表情だって柔らかいし、まるで子供の成長を見守る親のよう。



 …その表情、その声は!私達ではなくお嬢様に向けるものでしょう!!!







「…かしこまりました。侯爵様のご温情に感謝致します。伯爵様にも感謝の意を送ります。」


 後で伯爵邸にリュウオウ嗾けてやる…。


「もしよろしければ、お手隙の方がいらっしゃればお屋敷の案内をして頂けないでしょうか?」


 アシュレイも結構言葉使い、様になってきたなー。心配無さそうで安心するわ。

 アシュレイの言葉に返事をしたのはルイスさんだ。


「そう言うと思いましてね、手配しておきましたよ。君達も知ってる人物です。先程呼んだので、そろそろ来るでしょう。

 ああほら、丁度。」



 そこに現れたのは当然、トロくんだ!トロくんは私達を確認すると、安心したような泣きそうな顔をした。



「ありがとうございます。それでは行って参ります。

 …ああ!それともうひとつ。今後私の召喚した精霊が、共に行動する予定です。こちらの子なのですが…屋敷内を自由に散策してもよろしいでしょうか?」


 ラッシュを小型犬サイズにして見せてみる。許可されなかったら、蚊サイズにしてお嬢様にくっ付けてやる!!

 (余談だが。召喚時はジャイアントパンダサイズだったよ)


「精霊を連れ歩くのは問題ない。好きにすると良い。」



 よし、言質取った!もうここに用は無い。私達はトロくんと共に執務室を出る。






 …ついに。最後まで…「娘を頼む」の一言が無かったな…。










「トロくんお待たせ!お嬢様の所に案内して!」


「うん…!待ってたよ、お嬢様をお願い…!!」




 やっと…もう大丈夫だからね、お嬢様!!

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