第29話


 ついに来た。この時が。


 私とアシュレイは全ての課題を終了し、伯爵家での研修は終了した。

 そして今。旦那様の執務室で私達の階級が告げられる。



 さあ…結果は…!?








「2人共、よく頑張ったね。評価はハロルド、ヴァニラ、セイドウ、ジュリアからつけられる。」


「「はい。」」


 ちなみにセイドウとは、騎士団長の名前だぞ。





「その結果…アシュリィ、アシュレイ。君達は執事見習いに認められた。——おめでとう!」



 ……!!!


「「ありがとうございます!!!」」




 やっっったあああ~~~!!!見習いとはいえ執事!執事!!

 本当なら飛び上がって喜びたい所だが、我慢だ!家に帰るまでが研修だぞ!まあ帰ってからが本番だけど。





「おめでとう。君達はまだまだ成長途中だ。次に会う時には、胸を張って執事です、と言って欲しいな。」


「よく頑張りましたね。まだマナーには心配な所もありますが…他の仕事ぶりに問題はありません。

 貴方達なら、侯爵家でも大丈夫でしょう。」



 ハロルドさん、ヴァニラさん…。いつも注意されてばっかりだけど、たまに褒められると嬉しくて、お嬢様の為にも頑張ろう!って思えた…。

 あなた方に教授していただいた事、必ず使いこなしてみせます!!



「坊主、やっぱり騎士にならんか?ってのは野暮ってもんだな。お前はセンスがいい。その剣でお嬢様をお護りしろよ!」


「はい!ありがとうございました!」


「あと嬢ちゃん…お前さんはなるべく剣を握るな…。多分素手でいいと思うぞ。」


「お前…何した?」


「別に?…練習用の剣を、3本へし折っただけだし…。」


「…そうか。」


 やめてくんないかなあ、その反応!?アシュリィならしょうがない、みたいなやつ!私だって傷付くぞ!?



「アタシからは、うん、アシュレイくんは元々の目標の結界魔法と治癒、低級だけど時間稼ぎには十分に通用するわよお。それと身体能力強化魔法も覚えるといいわあ。低級でも結構違うからね。

 で、アシュリィちゃん。魔法に関しては言う事ないわあ!ただ暴走には要注意よ。遊びに行くから、また魔法一緒に勉強しましょうねえ。」


「「はい!」」





「では、これが紹介状だ。手紙は先に侯爵邸に出しておいたから、話は通ってる筈だ。

 君達にとっては、これからが本番だろう。…気を引き締めて、リリーナラリス嬢を支えなさい。」


「「はい!お世話になりました、旦那様!!」」



 当初の目的だった紹介状を手に入れた!…こんなにも達成感があるなんて、思いもしなかったなあ。

 …もうお別れか。あっという間に時間は過ぎちゃうなあ。…この屋敷に来れてよかっ「まだ終わってないわよ!?」





 …へっ?奥様?



「やっておしまい!!」


 奥様がそんな悪役っぽいセリフと共に指を鳴らすと、どこからかメイド軍団が現れた!


「え、え、え?」


 そして私をロックオン!どこかへ運ばれてった。



「何事ーーー!?」











 状況が掴めない私は、困惑するしかないのだった。

 気付くと鏡台の前、椅子に座らされている?



「執事たるもの、己の身なりにも気を配らなくてはいけません。そして貴女のその目は珍しいものですが、別段隠す必要性もありません。

 今後は起床したらまず、就業前に自身の身嗜みを完璧になさい!年頃になったら化粧もお忘れなく!

 さあメイド軍団、アシュリィを完璧に仕上げるのです!!」


「「「お任せを!!!」」」


 ヴァニラさん!!結構ノリ良いですね!?

 うぎゃあああああ!!身嗜みのプロに仕上げられちゃうううう!!



「やーん、お肌もちもちのすべすべ~!」

「はあ、このサラサラの髪は惜しいけど…。」

「ってやだあ、可愛いいー!!」

「ちょっとお、こーんなプリティーなお顔隠してたのお!?」

「腕が鳴るわね…!」




 ひいいいいいえええぇぇぇ…!!!










 



「…アシュリィ遅いですね。」


「女性の身支度には時間が掛かるものさ。それよりアシュレイ、とても似合っているぞ。」


「えへへ…ありがとうございます。」


 アシュレイは現在、燕尾服に身を包んでいる。身体の傷跡も消えたアシュレイは、その表情も見違えるようだ。

 彼がただ微笑むだけで、沢山の女の子が寄って来るだろう。ハロルドも大満足。





 と、その時ドアがノックされた。許可を得て入ってきたのはヴァニラだ。



「お待たせ致しました、アシュリィの準備が完了しました。どうぞご覧ください。」












 ふい~、やあっと解放された…。しかしお高そうな燕尾服。いくらすんの…?

 いや、考えるのはやめよう。お祝いで旦那様からのプレゼントって話だしね!


 にしても…よく考えたらこの家で顔面晒した事なかったな。いやあ、やっぱ前髪無いと視界がスッキリしてて気分も晴れるね!皆可愛いって言ってくれたけど…流石にお世辞が上手いね。

 そりゃあ私だってあの母の娘ですし?多少は良いと思うけど…ねえ。



 さーて、お披露目だ。アシュレイもお揃いの服だって言うし…並んでみよーっと!


「アシュリィ、入りなさい。」


「はい。」



 そして執務室に戻ると…

 

 感心したように「ほう…」と呟く旦那様。

 目をキラキラさせてる奥様。

 目を細めて、孫の成長に喜ぶおじいちゃんのようなハロルドさん。

 ヒュウっと口笛を吹く団長。

 うっとりしてるジュリアさん。


 そして…


「………。」


「いや、アシュレイ?あんた、私の顔見慣れてるでしょうよ。」


「おう…。」



 コイツ…女子に耐性が無さすぎる…!

 


「こらっ、これから私達は執事になるんだよ?あんた…いや君だって、貴族の御令嬢方に囲まれるかもしれないんだから!

 その都度そんなに顔真っ赤にして固まってたらどうするの!ポーカーフェイスよ、鉄仮面よ!」


「うん…。」



 うん、じゃねーわ!!!


「はあ…それよりも君、燕尾服似合ってるね!今のセットした髪型も良いけど、髪の毛伸ばしてさあ、三つ編みなんかにすると格好いいかも!

 それにやっぱり、綺麗な目をしてるね!私はどう?似合うかな?」



「似合ってる…ぜ…。超かわいい…。」







 彼はそう言い残し…倒れましたとさ。手の形を…グッドにしたまま…。




「アシュレイーーー!!!?」



 頭を抱える男性陣。目を輝かせる女性陣。私はどーすりゃいーのー!!?




「男装の麗人…ってとこかしらね…?」


「わかりますう、奥様。その辺の男よりも男前で、それでいて可愛さは損ねてないって感じですかね?」












 その後アシュレイが復活し、今度こそお別れだ。

 服を着替え、貰った燕尾服と紹介状を大事に大事に仕舞う。

 そして玄関ホールに向かうと、なんとお見送りに皆様勢揃いしてるじゃないですか。…自分涙いいすか?


 冗談抜きで泣きそう。…そして考えてしまう。

 私達はこれから戦場に向かう訳だが…もしもリリー様がこの家のお嬢様だったら。そして私とアシュレイが揃ってお仕え出来るならば。…それはとても、幸せなんだろうな…なんて。


 そんな夢を見るくらい、いいでしょう?




「本当に、お世話になりました。このご恩は必ず、何かの形で返させていただきます。またいつか、今度はお嬢様と一緒にお邪魔させてください!」


「大変だったけど、このお屋敷で過ごした1ヶ月はボク達の宝物です。これからも頑張ります!」




「君達なら上手くやれる。アシュリィ、暴走には気を付けて。アシュレイ、もうちょっと積極的に頑張れ!」


「…はい。」


「は、はい?」


 最後の最後に感動をぶち壊してくれてありがとう旦那様!お陰様で軽やかに出発できます!!



 本当に、ありがとうございました!!








「行っちゃったー…。」


「はあ、寂しくなるなあ。」


「でも一番悲しがってるのは…。」



「皆さん…今日から通常業務ですよ…ほらそこ、サボってないで…くぅ…。」


「「「ヴァニラさんだねえ…。」」」





 こうしてベンガルド家は台風も去り、いつもの日常に戻る。


 












 別れを惜しみつつも伯爵邸を後にした私達は歩き出す。また馬車の旅…ではない!



「アシュレイ、今日は空から移動だよ!」


「え?どうやって!?」



 ふふふふふ。もちろん、召喚さ!!



 そういえばジュリアさんが言ってたが…精霊に形は無いらしい。召喚した人間によって姿形が変化する。そして契約解除すればまた無形に戻る。

 ジュリアさんは狐が好きだから、どんな精霊を召喚してもみんな狐になるらしい。


 そして私のラッシュ、今は子猫サイズに縮んでるが…多分私の強そうイメージがパンダになったんだろうね。

 守護=頑丈そう→熊。そこに可愛さ+でパンダ。多分攻撃特化ならライオンが来るかもしれない。


 そして!移動用に新たに精霊さんと契約したのだ!地上なら馬もいいかもだけど、今回目指したのはズバリ、ドラゴン!!!




 …という事で召喚してみれば…。





『アシュリィちゃん…このコ…蛇?』


『いえ…ドラゴンです…。』





 西洋のドラゴンじゃなくて、和風のドラゴンが来てしまったよ。

 まあこれはこれでよし!!



「おおおお…?初めて見る動物だけど…かっけえな!?」



 うんうん、男の子だねえ。彼の格好良さが伝わって嬉しいよ。名前はリュウオウ。そのまんますぎて運命感じるね!



主人あるじ殿、早う乗れ。アシュレイ殿もか?—


「うん!お願いね、リュウオウ。さあ、後ろに乗って、アシュレイ!」


「おう!」




 …どこ掴めば良いのかな?あ、この小さい角ですか。よっしゃ!

 アシュレイ、しっかり掴まらないと落ちるぞ?バイクのタンデムだと思えばいいのに。って伝わらないか…。



「行っくぞーーー!!」


「おーーー!!」



—しっかり掴まっておれよ!—




 そうして私達は、シュタンの街に帰還するのだった。




 今行きます、お嬢様!!

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