第27話



 伯爵邸での研修(仮)も残す所、今日を入れて3日だ。なんと今朝、上級魔導書の閲覧許可を貰った!そこで低級~上級の違いを説明しよう!



 庶民も気軽に買える低級魔導書。生活魔法に毛が生えた程度のレベルしか載ってない。

 例えば風で薪を割る、重い荷物を軽くして運びやすくする、かすり傷を治す等。


 次の中級魔導書。いいお値段なので貴族かお金持ちしか買えない。

 私的にはここからが魔法!と言う感じがする。ファイヤーボールとか水を自在に操るとか、怪我だって骨折は無理だがヒビは治せる。



 そして上級!一般流通はしてなくて、代々受け継がれる物なのだ。

 さて、いざいざ拝読させていただきます!!




 …そういえば。私は片っ端から魔導書を読んでるが…普通はしないらしい。そもそも覚えられないし、必要無いから。

 自分の学びたい系統の魔導書だけ読めばいいんですってよ。治療特化、召喚のみ、能力向上、呪い等々。


 本が好きな人がいるとしよう。沢山の本を読んでると「この本ストーリーとか結末は覚えてるけど、詳しい事忘れたなあ」ってなると思う。

 だが魔導書はその「詳しい事」が重要なのだ。魔法を使う際、そのページに何が書かれているのか一言一句間違えずに思い出す必要がある!


 …はい、大袈裟に言いました。正確には使い慣れてれば、言霊だけで発動出来る様になる。だから皆、最初は魔導書片手に訓練するのだ。

 私は持ち出せないから無理矢理読み込んでるだけ。無数の魔導書を持ち歩くのと変わらないのさー。



 そして私は沢山読んだ結果…新たなスキルを授かりました!!

 それがこちら。





スキル:速読

    自動検索





 そう!!検索機能が付いたのです!!

 これによって私はド忘れという事がほぼ無くなった。

 なぜならば「銀食器の手入れってどうだっけ?」となった時、私の頭の中に「銀」「陶磁器」「硝子」など複数選択肢が現れ、銀を選択すると答えが浮かぶのだ!

 もちろん私自身の知識の中から検索してるから、私が知らない事はどうしようもないんだけどね。



 しかし!これは当然魔法にも使えるのだよ諸君!

 例えば私が今力を入れている治療魔法。咄嗟に「矢傷を治したい!ええと、どの魔法だっけ…!」となればすぐに適正な魔法が頭に浮かぶ。

 治療にも色々あるから…覚えていても引き出すのに時間がかかるんじゃあ、手遅れになることもある。このスキルはありがたいわ~。これでどんどん魔導書読むぞ!!




 




「…よし終わり!」



 大分時間がかかってしまったが、やっと読み終わった!


「終わったのか。」


「おぉうわあああっっ!!?あっアシュレイ!?」


 

 びっっっっ…くりしたあ~~~…!全然気付かなかった…てかあんた仕事は?


「もう終わった。さあメシ…いや、食事の時間だ。」


「…私達しかいないんだから、いいじゃない。私はあんたの言葉使い、ちょっと荒い方が好き。」


「そ、か。…じゃ、行こうぜ。」


「うん。…?」



 アシュレイから手を差し出される。



「エスコートの練習。付き合ってくんね?」


「そっか…はい、喜んで。」



 そっと手を重ねる。そしてそのまま歩き出すのだが、照れくさくて笑ってしまう。彼も同じ様で、私達は笑いながら食堂に行くのだった。








「今の見た?」


「見た見た!!」


「「「可愛いい~~~!!!」」」



 きゃあきゃあ言ってるメイドさん達から、ちょっと離れた所には。



「………っ(可愛いっっっ…!エスコートの練習と称して手を繋ぎ、はにかむ子供達、尊い…!)」



 またも脳内フィーバーしてる侍女頭であった。







「…なんか騒がしいね?」


「だな…?」




 







 そして次の日。いつもの朝の仕事を終えた私は動きやすい服に着替え、外にある騎士団の練習場に向かう。

 ついに魔法解禁だ!!!今日明日は貸し切り。ご迷惑おかけします!!





「はあい、アナタがアシュリィちゃんね。アタシはジュリア。よろしくね?」


「はい、よろしくお願いします!」


 ヴァニラさんより紹介された彼女は魔法師だ。一応伯爵家専属ではあるが、いつもいる訳ではないらしい。

 しかし…色々、スゴい!!ボン!キュッ!ボォンなスタイル!真っ赤な唇に泣きぼくろ!そして身体の線にピターっとした黒い服!ジュリアナ…じゃなくてこれはもう…


「魔女…って感じですね。」


「あらっ分かるう!?」


 やばっ!!失言だった…ってアラ?喜んでらっしゃる?



「アタシ物語なんかの魔女が大好きで、憧れてたのよね~。ちなみ得意な魔法は召喚よ。

 アシュリィちゃんは?上級までの魔導書全部読んじゃったんですって?」


「はい、読みはしましたが実践は初めてです。あの…最初に使いたい魔法があるのですが。」


「あら、なあに?」


「治療です。治したい人がいるんです。」


「いいわよお。じゃあ部屋に行く?」


「いえ、呼んできます!」


「そお?じゃあ待ってるわね。」




 そして私はアシュレイを連れ出した。ハロルドさんとヴァニラさんには最初から言っておいたから大丈夫。

 「仕事中なんだけどー!」と言うアシュレイを引き摺り練習場に戻る。



「お待たせしましたー!…って、その子は?」


 何やら見知らぬ動物がいる。見た感じ狐っぽいが、もしや精霊?


「その通りよ。アタシが召喚した精霊、ムーンよ。このコは結界魔法が得意なの。

 アナタの魔法が他に被害を出さないように、ね。」



 なるほどー。

 練習に魔法師の立ち合いが必要なのは、当然事故を防ぐためである。初心者は加減が難しいからね。

 召喚魔法はMP消費は激しいが、精霊を呼び出す事が出来る。契約できれば、またいつでも繋がるのだ。今回はあのムーンだが、きっと他にも呼べる子がいるのだろう。



「あら、そのカレね…という事は上級魔法を使いたいのかしら?」


「はい。」


 さっすが、すぐ分かるのね。じゃあ時間も無いし、早速始めますか!



「なんだ?一体。」


「いいから、静かに。」




 

 魔法には言霊が必要だ。言葉はなんでもいいが、気持ちを乗せなければならない。

 単に「治れ」でもいいのだが…私はアシュレイの傷跡を見る。


 きっとすごく痛かっただろう。苦しかっただろう。…怖かっただろう。


 自分の掌に魔力を集中させる。




『頑張ったね、もう大丈夫』





 ちょっと照れくさいので、日本語で発音した。そしてアシュレイの身体を優しい光が包む——…




 その光が消えると…




「…消えた…。」




 アシュレイの身体の傷は、全て綺麗に無くなっていた。彼に鏡を渡すと絶句してた。

 やっぱアシュレイ、美少年だよなあ。顔にも大きい傷がずっとあったから分かりづらかったけど。これからモテモテになるんじゃない?


 そんな事を考えていた私は、アシュレイが大粒の涙を流している事に気付くのが遅れた。



「う…ひぐ…」


「!!?えっどうしたの。まずかった…?ごめ、ごめんね?あの、喜んでくれるかなって…あの、」



 どうしよう!?もしかして「この傷跡は男の勲章だ!」的なやつだった!?

 サプライズが裏目に出た…っ本人に確認してからすべきだったか…っ!


「あの、ごめんなさ」


「ちがう…ありがと、あり、がとう…!」



 アシュレイは私をぎゅーっと抱き締め泣き続けた。いつもは恥ずかしがってるクセに…。

 私もだけど、彼はまだこんなに小さい。この身体で…大変だったね。



「もう大丈夫。私がずうっと側にいるから。お嬢様もまとめて、護ってあげるからね。」


「オレっも、お嬢様と、ひっく、お前を…護るか、ら。ずっと、ずっと…!」




 あー…こんなんつられて泣いてしまう。

 良かった。よかった…。












 ところで。

 ジュリアさんはいいとして…


 そこかしこに騎士団の皆、使用人さん達。挙句にハロルドさんヴァニラさん旦那様奥様…。




 そんな隠れて、覗きですかい?


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