3 正直な気持ち

 卒業式の日、茜はクラスでの打ち上げを断って、家族と真斗の4人でお祝いをする事を計画していた。両親には、大学に合格できたのは、一緒に勉強してくれた真斗の御蔭だ。そして、お礼をしたいから卒業式の夜に、食事に招待したいと言った。茜の父親は喜んで、一人娘のために横浜のホテルのディナーを予約した。真斗の家には、母親が断りを入れてくれたので、簡単に彼を誘い出す事に成功した。さらに真斗には、食事が終わったら、友達の所に行くと言って帰る振りをするように伝授した。私達家族は部屋を別にしてホテルに泊まる予定だから、あとで落ち合おうという計画であった。

「茜はすごいな。親に嘘ついて、怖いよ。」と真斗が茜に言うと、

「何が怖いの?じゃあ、私と一緒に過ごせなくていいの?」と逆襲された。


 当日の夜、横浜へは父親の運転する車で出掛けた。真斗は緊張気味で、周りの様子を伺いながら食事をしていた。茜は、両親に話を合わせながら、真斗を気遣う事も忘れていなかった。デザートを食べ終わり、真斗は計画通りにお礼を言って帰った。茜とは、近くの山下公園で待ち合わせていた。

 両親は部屋に引き上げたが、茜はコンビニに行って来ると言って外に出た。その足で山下公園に行き、真斗と合流して、氷川丸の前のベンチに腰掛けた。

「待たせてごめんね。食事はどうだった?」と茜が問い掛けた。

「美味しかった。初めての食べ物ばかりだった。ご馳走様でした。」

「いいよ、そんなに畏まらなくて。緊張していたみたいだけど、大丈夫?これから私を戴くんでしょ?」茜は真っ赤な顔をして、冗談とも取れない事を言ってしまい後悔していた。真斗も同じように赤面し、違う意味で緊張していた。  

茜が真斗の肩に頭を乗せると、真斗は優しく肩を抱き寄せて唇を重ねた。港の夜はまだ肌寒く、夜景を見ながらしばらく抱き合っていた。


 しばらくそうしていたが、茜が真斗に語り掛けた。

「実はさ、真斗に愛海を紹介したのは、私の誤算だった。まさか真斗と彼女が結ばれるとは思っていなかったんだよね。」茜の告白じみた言葉に、真斗は動揺していた。

「前にも話したけど、愛海を紹介したのは、真ちゃんを諦めようと思ったからだよ。あの時の愛海は男子に嫌悪感を抱いていて、臆病だったの。それで、愛海のリハビリを兼ねて、真ちゃんと付き合う事を勧めたの。一石二鳥だと思っていたのに、虻蜂取らずになってしまった。」

「諺で語っているけど、どういう意味?俺にも関係あるってこと?」

「そうだけど、私になのかな。私は真ちゃんを諦める口実、愛海は男性不信から脱け出す方法として考えた。でも私は、先輩と付き合っても諦め切れていなかった。真ちゃんはすぐに愛海とは別れて、私に救いを求めて来ると思っていたの。なのに、愛海が真ちゃんと、まさかエッチまでするとは思っていなかった。二人の進展具合は愛海から逐一報告を受けていて、手を繋いだ、キスをしたと際どい所まで話してくれた。エッチした事はさすがに言わなかったけど、彼女の様子で察していたよ。愛海は男性不信から脱却できたのに、諦め切れない私は、正直口惜しかった。」茜の話に、真斗はどう答えていいのか戸惑っていた。

「男の子に免疫のない愛海を、そこまで口説いたのは褒めて上げる。あの子は後悔をしてないと言っていたけど、私は後悔している。これが私の誤算だった。」茜の長い話を聞いていた真斗は、

「俺がはっきりとしなかったせいで、茜にも愛海にも迷惑を掛けたみたいだね。これからは、茜だけを好きでいると誓うよ。」真斗の本気を、茜は見て取った。

「もうこれから先は、愛海のことも、浮気のことも口にしないよ。これで終わり。寒くなってきたね、ホテルに戻ろ!」

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