第十三章 初めての不信

 1 強引な行為

 連休が終わってからの1ヵ月は、部活動の練習に明け暮れた。真斗はテニス部を引退して帰宅部になって、一緒に帰る事はなかった。一度茜に忠告された。

「最近は真斗とはどうなの?あいつは藤森達とつるんで遊んでいるみたい。」

「そうなの?最近はあまり会えないから、よく分からない。」私は茜の心配をよそにして、真斗を信じていた。

 定期演奏会が終わり、高校生最後の文化祭当日がやって来た。この行事を最後に、吹奏楽部は引退する。今年は3年生という事で、クラスの模擬店に参加する事ができた。メイドカフェの店員という設定で、クラスの女子5人が交替でメイド服に着替えていた。私は30分の約束で店に出ていると、真斗が友達とやって来た。もちろん藤森君も一緒で、

「愛海、最高!可愛いな、俺の彼女。」と言ってはやし立てていた。その後で、真斗と初めて文化祭を一緒に見て廻った。そして、文化祭の代休に、真斗の家に行く事を約束した。


 真斗との約束の日は、前日から雨と風が激しかった。真斗とデートのために買った水色のワンピースを着ていくか迷ったが、この季節に合った服が他になく着ていく事にした。真斗の家に行くのは3度目で、迎えには来なくて良いと伝えてあった。雨風の中を、傘を差して向かった。

 真斗の家に着いた時にはびしょ濡れになってしまい、新品のワンピースを着てきた事を後悔していた。

「愛海どうしたの?びしょ濡れだよ。すぐに着替えた方がいいよ!」と言ってくれたが、私はどうしようかと考えあぐねていた。

「どうしよう。着替えた方がいいかな。何か着るものある?」

「妹の服は小さいし、俺の服で良ければ、長目のトレーナーがあるよ。」さらに、

「風邪をひくと困るから、シャワーで温まるといいよ!」と促されて、浴室に向かった。

 シャワーから出て、ワンピースを乾かすためにハンガーにかけ、居間のソファーに腰掛けた。真斗のトレーナーはももの辺りまで丈があったが、たった1枚で心細かった。頭をタオルでいていると、真斗が横に来ていきなりソファーに押し倒された。私は唖然あぜんとして固まっていると、真斗はいつになく怖い顔をしていた。

「ねえ、真斗、どうしたの?怖い顔して。私、嫌だよ、こんな所で…。」というのもむなしく、真斗は無理矢理に行為を進めてきた。私は抵抗する事もできず、真斗にされるままになっていた。


 自分の欲求を満たすだけのために、半ば強引に事に及んだ真斗を私は許せなかった。涙が出てきて、ソファーにうずくまって泣いていた。しばらくして真斗が何処からか戻って来て、私の頭をでて言った。

「愛海、泣いているの?ごめんな、我慢し切れなくて。」真斗の言葉は、言い訳になっていないと思った。私は泣くのを我慢しながら、

「いつもの真斗じゃない。今日の真斗は変だよ。」とはっきり言った。

「愛海は俺を愛していると言ったよね。俺も愛しているから、それを実践しただけだよ。」真斗は私の言葉を利用して、正当化しようとしている。

「愛しているのは、今の真斗じゃない。心が繋がっていないで、こういう事はしたくない。真斗は私の気持ちを全然解かっていない。私も、今の真斗の気持ちは解からない。ただ身体だけが欲しいなら、恋人でも何でもない。」私は、「ない」ばかりを並べ立て、真斗を否定した。真斗は黙って私の言葉を聞いていたが、納得したようには見えなかった。


私は少し落ち着くと、真斗から煙草の臭いがするのに気が付いた。

「真斗、煙草吸ってきたの?いつから?まだ高校生だよ。」詰問口調で訊いた。

「ああ吸っているよ。周りの友達は皆吸っているよ。愛海もやってみる?」真斗の開き直った態度にあきれるとともに、言葉を失っていた。

「私帰るね。」と断って、着替えようとすると、真斗がじっと見ていた。

「着替えるから、こっち見ないで!」と強めに言い放った。まだ乾ききらないワンピースに袖を通して、自分でも情けなくなった。帰り際に真斗が玄関で、

「送らなくていい?またね!」と言うのにつられて、「またね」と返していた。

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