第十二章 初めての欲求

 1 物足りない思い

 高校生活最後の4月、東から射す太陽の光がまぶしい。去年の私より、今年の私は成長している。身体も精神も大人へとより近付いた。真斗と恋人として名実ともに付き合い、私は今すごく幸せな気分にある。

 私達が付き合っている事は、狭い学校内に噂になっていた。というよりも、生徒の間では公認の仲だった。茜に言わせると、「学校の中で知らない人はいない」仲なのだ。一緒に帰る所は当然見られているだろうし、制服でカラオケに行くし、修学旅行の件もある。下手をすれば、公園でキスしている所も見られているかもしれない。学校内でも平気でいちゃつくようになって、男子とはろくに口を利かない私の変化に気づかない訳がない。


 2年生から3年生へはクラス替えはなく、教室にはいつもの顔ぶれが揃《そろ

》っていた。茜に声を掛けると、「放課後話そう」と言われた。

 放課後の部活動、茜が寄って来て、真斗との事を訊いてきた。

「春休みはどうだった?部活がなかったから、愛海とは全然話せてなくて気になっていたんだ。真斗と進展あったの?」

「うん、いっぱい遊んだよ。私の家にも招待したしね。」茜に詮索せんさくされないように、用心しながらこたえた。茜には真斗との初体験の事は話していなかった。去年のクリスマスの部屋でいちゃついた事までは話していたが、それ以上を話すつもりはなかった。

「いいな、幸せいっぱいだね。愛海、前と雰囲気が変わったよね。女は恋すると変わるって言うけど、真斗が変えたのかな。私も誰かと付き合おうかな。」

 茜は本当に羨ましそうにしていたが、それ以上は訊いて来なかった。


 その日の部活が終わり、久々に真斗と公園デートをした。お泊りの後だったので、真斗の顔をまともに見られなかった。ベンチに腰掛けて、話をした。

「愛海、あの日はすごく積極的だったね。」とんでもない事を言い出す真斗の胸を、私はこぶしで殴っていた。

「真斗こそ、私にいろいろな事を教えてくれてありがとうございました。」私は恥ずかしさを隠し切れず、お道化て返事をしていた。その後はキスをして、真斗の手によるお決まりのコースを辿たどったが、二人とも物足りない思いに駆られていた。

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