2 茜の場合

 ~私と真斗は、小さい頃からの馴染なじみで、近過ぎる存在だった。だから、好きとか何とかという感情には、二人とも鈍感だった。だから、私は他の男の子と付き合ってみたし、真斗にも親友の愛海を紹介した。愛海は私を、自分の気持に正直だと言っていたけど、全然そんな事はない。~


 坂上茜と工藤新一は、二軒隔てた所に家があり、幼稚園も小中学校も一緒で、いわゆる幼馴染であった。家の行き来もよくしており、同い年の兄妹、姉弟のようにして育った。小さい頃は、一緒にお風呂に入った事もあるし、一緒の布団で寝た事もある仲だ。

 さすがに中学生になると、お互いに意識するようになるが、母親しかいない真斗の家で茜は、妹の麻実の面倒を見ることもあった。茜は一人っ子で、実の妹のように麻美を思い、麻美も慕っていた。


 中3の時、真斗の母親が仕事で遅くなり、茜が麻美と留守番をしながら勉強をしていると、部活を終えて真斗が帰って来た。

「おー茜、悪かったな。夕飯はできてるか?」

「まだだけど、お父さんみたいな事言わないでよ。気分悪い。帰ろうかな。」と茜がねて見せると、真斗は、

「ごめん、ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ。母さんが作っていったから、一緒に食べていけよ。」とあっけらかんとした態度で謝った。

「ついでに風呂でも入っていったら?」

「バカじゃないの。まあいいか、今日は私の家、両親はお出掛けだから帰りが遅いんだ。」じっと二人のやり取りを見ていた小4の麻実が、口をはさんだ。

「茜ちゃんとお兄ちゃん、仲がいいんだね。結婚したら、茜ちゃんが本当のお姉ちゃんになるね。」麻実ちゃんの言葉に、茜は顔を赤くした。

「麻実ちゃんまで何言っているの、あり得ないから。」と必死で否定した。

 真斗の家でご馳走ちそうになり、テレビを見ながらうとうとしていると、唇に何かが触れたような気がして目が覚めた。真斗が台所で水を飲んでいたので、

「ねえ、今、私に何かした?」と振り向くと、真斗は風呂から上がったのか、トランクス一枚の姿で立っていたので、茜はびっくりした。

「何その恰好かっこうは。私の前で、恥ずかしくないの?」と言いながら、茜は男の子の身体をついつい観察していた。

「じろじろ見るなよ。それに、何もしてないよ。何をするって言うのさ。」と返されて、「キスしたんじゃないの」とは言えなかった。その時の疑心は明らかにならなかったが、その後もただす事はしなかった。


 二人は高校も同じ南陽台高校に入学し、1年の時は同じクラスだった。お互いに好意は持ち、男女の意識はあるものの、それ以上の関係には到らなかった。茜が恋愛の相談をすれば、アドバイスをしてくれるし、逆に茜も真斗の恋の架け橋にもなった。二人の初恋は、この時実らなかった。

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