第三章 初めてのふれあい
1 夏のさそい
代休明けで気の抜けた雰囲気の漂う学校は、文化祭の喧騒が嘘のように感じられた。6月から夏服の白のセーラー服にすでに替わっていたが、改めて見ると教室の中は爽やかな雰囲気を醸し出していた。茜と倉橋先輩は、文化祭が終わってようやく交際が深まっているようだ。休み時間に、茜が嬉しそうに話してくれた。二人だけになった部室で、キスをしたという報告もあった。臆病な私にとって、茜の行動力は
放課後の部活動は、3年生が抜けて緊張感に欠けていた。昨日街で会った仲尾梨沙は、今日は部活を休んでいるようだ。ほっとしていると茜が、
「どうしたの?ボーとして。ところで、愛海は真斗とはどうなの?」とはっきりと訊いてくるので、現在の状況を説明せざるを得なかった。
「そうか、愛海は男子には慎重だからね。でも、真斗も男だから…。何か変な事しようとしたら、変な事というのは、愛海がしてほしくない事という意味だけど、私に言ってね。懲らしめてやるから。」茜は真斗に対しては厳しく、私に対しては保護者のような態度を取るのが頼もしい。
夏休みに入り、吹奏楽部は7月いっぱいで休みになる。その後仲尾梨沙とは部活で顔を合わせたが、特別な話はしなかった。一方、真斗のテニス部は地区大会があり、会う回数はさらに減っていた。高2の夏休みもあと1ヵ月しかない。私は、じれったさを感じていた。真斗とはラインのやり取りはあるが、なかなか会えないでいる。このまま会えずに、今年の夏は終わるのかな。真斗に会えない寂しさを感じるようになっていた。
8月になって、珍しく真斗が電話を掛けてきた。妹の彩海がそばにいて、聞き耳を立てている。妹の事を気にしながら、当たり障りのない受け応えに努めた。電話の内容は、部活の試合が終わった事、私に会いたいので都合はどうかという事、そして海に遊びに行かないかという事だった。私は嬉しくて、飛び上がりそうになったが、妹の手前気持ちを抑えて返事をした。その後で、二人きりではなく、藤森剛と仲尾梨沙の二人が一緒だと聞いてショックだった。
「何で」と問い詰めることもできず、電話を切った。妹はにやにやして、
「お姉ちゃん、海水浴デートか、いいな。私も付いていこうかな。」
「バカなこと言わないでよ。二人じゃないんだから。」と言わなくてもいい事を言ってしまった。真斗と二人だけで行きたかったけど、真斗にもいろいろな事情があるのだろう。
「真斗と会えるのだし、楽しまなくては」と自分を納得させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます