第8話 ライルの決意

「あー、やっと訓練が終わったー、今日から自由だ」




 ライルは訓練場の門を出たが久しぶりに外へ出てこのまま家へ向かうのも味気ないし、両親に会うのがなんだか気がのらなくおやじと顔を会わせるのも少し嫌だった。




「よし、パーカーとマークの顔でも見て帰るか、手紙の内容ももっと聞きたいし」




 ライルは先ずマークの家を目指し港へ向かった。




 そして港町が見えてくるとすぐにライルは歩くのをやめた。




 その目に飛び込んで来たのはコンプリトル島の港が悲惨で変わり果てた街の姿だった。




「なんだこれは、とても尋常じゃない光景だ。タナーの手紙の事はこんなにも酷いとは思わなかった」




 ライルはまた歩きだし崩れた煉瓦の残骸を避けながら通路を通って行った。やがて道は崩れた瓦礫の山でふさがれていて確かにここ辺りにマークの店があったがそこにはパンの店は見あたらない。少しその辺りを見回して探し続けていると煉瓦の山でおおいかぶさったパン屋の看板を見つけた。




「マーク!」




 ライルは急いでその看板を掘り出して、手に取り確認した。確かにそれはマークのパン屋の名前であるポルトの文字とロゴマークが刻まれているもので、それは円の中心から折れ曲がっていて無惨な状態だった。




「マーク、何処に行ってしまったんだ、死んでしまったのか?」




 膝をついて落ち込んでいると後ろからマークが声をかけた。




「ライル、こっちだよ。おいで」




「生きていたのかマーク!」




「勝手に殺すなよ、ははっ」




「あの手紙にあったようにタナーの言う事は本当だったんだな、俺は何もしらなかったよ」




「急にタナーが来た時はビックリしたよ、その時の彼女はかなり焦っていた」




「俺はもう一度、タナーと会って話がしたかったんだ、色々と聞きたい事があったんだけどな、」




 ライルはマークに続いて瓦礫の隙間からマークの家へ入っていった。


 自宅の部屋ではマークのお母さんが迎えてくれた。




「ああライルは無事だったんだね。良かった、訓練は無事終わったの?」




「はい訓練は全て終わりました。でも訓練場の外がこんな事になっているなんて全く知りませんでした。こんな大変だったなんて」




「そうなのよ、ここもやられてしまったしお父さんの具合もああだしもうこの家はだめね」




 ライルはベッドに眠るマークの父親に目をやった。




「だいぶ悪いのかマーク」




「うん、ずっと寝ていてもうそこから動けない程だ」




「かなり酷いな、マークはこれからどうするつもりだ?」




 マークの心は沈んでいたけど表情では笑ってみせていた。




「まあどうにかしていくさ、なんとかなるものだろ」




「マークは相変わらず楽天家だな、俺には無い性格だよ。他に俺に出来る事があったら何でも言ってくれ、力になるから」




「ありがとうライル」




 ベッドで寝ていた父親がライルに気づき、こっちをみて微笑んでいた。




「しかしライル、お父さんの工場もやられたと聞いたよ」




「えっそうなのか? やばいな、すぐ帰って見るよ」




「聞いただけでまだ確信的な事じゃ無いからわからないよ」




「ありがとう、行ってみるよ」




 ライルは急いで父の工場を目指した。












 マークの家を出てから父の工場に向かう途中も港町が攻撃され、無惨な状態の建物が幾つも目に入ってきた。ライルは実家の工場がますます心配になってきた。


 また港の岸壁に浮かんでいる船をよく見ると襲撃された護衛鑑が停泊してあり、それはかなり損傷が激しく、動かせないままそこの場所に置いてあるのだろうという事が分かるくらい、攻撃のすごさを物語っていた。




 ライルの気持ちはだんだん落ち込んで行き、同時にまた心の深いところから怒りがわきだすのを感じていた。




「俺はどうすればいいんだ」




 ライルが工場へたどり着くと少しホッとした。工場は打撃を受けていたものの作業には差し支えない位の状況で、やられたのは主に古い方の建物の倉庫部分だった。




 それをよそに工場では相変わらず忙しそうにしていて、中の人は先日の襲撃があったのを感じさせない位働いている。




 ライルが工場に駆け寄ると工場の崩れた部分の瓦礫の中から何かを見つけ、ある大きな木箱が爆発の衝撃で壊れていて中身はそこら中に散乱していた。




 そこに厚い紙を巻いて括ってあるのを見つけると、その紙を拾い上げ括ってある紐を解き広げた、それは賞状みたいなもので、見るとそれは訓練終了書だった。


 ライルが今卒業してきた訓練場のものと同じで、終了書に書かれてある卒業生の名前を見て目を疑った。そこにはライルの父親の名前があった。




「信じられない、おやじもあそこに通っていたなんて。おやじも護衛鑑乗りを目指していたのだろうか?」




 また更にその辺をあさると木箱に入っていたであろうものが他にも散らばっていて、記念品だったのだろうか壊れて時間の止まったままの懐中時計もあった、それには当時の海軍の紋章が刻まれている。さらにのしかかった煉瓦をどかすと、なんと六分儀が出てきた。




「うわっすごいなこの六分儀。磨けばひかるんじゃないのか?」




 その六分儀はライルのと全く違う形をしていて大きく煤けているが磨けば金色の光沢が出てきそうなものだった。




 ライルは工場の油を少し借りてその六分儀の駆動部分に注した。




「これは今でも動くのか、すごいな」




 ライルはそこの工場の位置から海側にレンズを向け、レベルを合わせると港を見てみた。




「合っている、合っている、この機械は正確だ、それにカッコいい」




 ライルは六文儀をもったまま工場の中に入って父親へ会う。




「おおっライル戻ったのか。訓練場はどうだったか? 襲撃の影響はなかったのか?」




「う、うん。大丈夫だったよ、おやじは訓練場に行ったこと怒ってないの?」




「おまえ、船乗りを目指すのだろ? がんばれよ」




 父親はすんなりライルを応援する言葉があった。




「うん……、おやじはそれでいいの?」




「お母さんと話をしたのだ、そろそろ子離れしないとなって」




 ライルは少し寂しい気分になったし、工場を継がないといけなかった事から解放されると、何もが良く見えてくる。




「おやじ、一つ聞いていい? おやじもあそこに行っていたの?」




「うっ? なんでおまえが知っているのだ?」




「これ。崩れた倉庫の下敷きになっていたよ」




 手に持っている六分儀を父親に見せた。




「そんなものがまだ残っていたか、かつては俺もお前と同じ気持ちで友人につれられ、護衛鑑に乗るために訓練場で船乗りを目指していたよ」




「そうだったの、全く知らなかった」




「ずっとしまいっぱなしだったな、それ、その六分儀欲しいのだろ? やるよ。以前ライルが持っていたのは六分儀では無いよ、何の道具か分からないがそれが本当の六分儀だ」




「お父さんありがとう」




 ライルの気持ちは次第に前向きになってきて勇気が沸き上がるようなものを感じた。




「もう俺にはボーッとしている暇なんかないんだ」




 ライルはその時やっぱり護衛鑑に乗る事を決心した。














「みんな今日はよく集まってくれた! 俺から言っておきたいことがある」




「おいライル、みんな集まったと言ったって俺たちいつもの三人じゃねーか」




 ライル率いる三人はいつもいる丘の上で集まっていた。




「それで言いたい事ってなんだライル」




 マークは店番しないとならない事は無くなって来ているがパーカーは自分の勉強していたが、それを中断して来ていた。今日もコンプリトルは天気が良く暖かいが海から吹く風がとても強かった。




「俺は船乗りを目指すよ!」




「ついにやっとライルもその気になったか。訓練場に入った意味があったな」




「いやそういう訳じゃないしそれに飛行機の研究も諦めてないよ」




「理由は何にしてもライルは僕たちの分も一緒に目指していってくれよな」




「うんそうだよね。でも今回の話はそれではないんだ」




「なんだ? えっつ?」




 風が強すぎて二人には聞こえてこない。




「マークもパーカーも聞いたようにタナーの話しは本当のようだ、そうするとこのコンプリトルはいずれゴークの国に乗っ取られ支配されてしまう。ゴークの国は独裁国であり、島は今までのように平和に暮らすことが出来ないようになるだろう。しかしこのまま黙って見ていても何も始まらない。要するに俺たちみんなの力が必要なんだ」




「ん? 俺たちってどうすればいいんだ? 船には乗れないんだぞ」




 マークはライルへの協力の仕方が分からない。




「そうだよ、それにこの島の安全は警察や海軍で守っていて、島は僕たちだけでは何も出来ないよ」




 パーカーは至って慎重な性格だ。




「今まで海軍らは海賊や不審船などの船を完全に島へ立ち入ることさえさせなかったがこの間の襲撃でわかっただろ? 島の警察は沈黙し在籍している護衛艦の乗員は怯えて船乗りから去っていくものも少なくない。ゴークにはかなわないんだ」




「結局今までの巡視艇や護衛艦の乗員は見かけだけの為にその職業に就くものが多かったんだな」




「そうなんだよマーク。状況的にこういう状態が見えてくると意気地なしなものが浮き彫りになってくるな、しかしそれは一部だけの人であって乗組員は真剣なものばかりだ。俺たちはより多くの人を集め連携して知恵を出し合い、情報を持ち合って協力していかなければならない」




「とりあえず俺たちは陸で見張っているよ、後はライルが指示してくれ」




「そうだ、二人とも空を見てくれ、もっと高く上の方だ」




 急にライルが言うと丘に吹く風が強く、二人が上を見上げるとフラフラした。




「鳥か?」




「そう。あれが今まで鳥のように見えていたゴーク国の飛行機だ、常にこの島は航空機械などによって監視されている」




「そうなの、僕には鳥みたいに小さいから良く見えない」




「今日は陸の風が強く、その風の影響を受けないように高く飛んでいるみたいだ」




「すごいな、ライルの飛行機もあんな高く飛べたらね」




「なに暢気なこといっているんだ、それより一刻も早く他の仲間を集めなければならない」




「他の仲間って?」




「マークも知っているロージーもだよ、もう以前の奴ではない」




「あのロージーか?」




「そうだ、みんな仲間だよ」




「わかった。やってみようライル」




 ライルは三人を引き連れて港にある広場へ行くとそこにジェスがいた。




「マークとパーカー、俺がジェスを呼んだよ」




「おおっジェスも仲間なのか」




「僕は久しぶりに会うね、相変わらず冷静な顔しているよね」




「知っての通りジェスは以前からゴークの事について色々と調べている、僕らにとっては強い仲間だ」




 ジェスがみんなの前に出て三人の顔を見回した。




「僕もライルと一緒についていく事になった、みんなの力になれるようがんばるよ、よろしく」




 ジェスはゴークについて調べあげてきた事をゆっくり話し出す。




「ライルからも聞いたと思うけどゴークは人殺しなど躊躇しないで今まで行ってきた国だ、その国に立ち向かおうなんて自殺行為かもしれない。でも何もしなければこの島の住民は捕虜や奴隷にされてしまいこの島はいずれ破壊される」




「破壊? みんな捕まった後になんで破壊までしなければならないんだ?」




「占拠する為にわざわざ破壊していくのでなく、この島は、ある事に適した場所にあってその環境がこの島を実験地とするには都合がいいんだ」




「実験? 実験するため破壊していくのか? ぼくはジェスが何を言っているのか分からないよ」




 横からライルがフォローする。




「核の実験だよ」




「そう、ゴークは核爆弾の実験を行って密かに開発を進めようとしていて、他の国では広い土地があったとしてもその土壌に被害が出て、自国の存続に影響が出かねない。それに比べてコンプリトル島は周囲200キロメートルは海で囲まれていてこの島を利用すれば周りの国には影響無く実験が可能なんだ、破壊実験の計画にこの島は巻き込まれているんだよ」




 パーカーがよく分かってない顔で質問した。




「核爆弾って聞いたことないけどどういう兵器なの」




「残念ながらその中身の構造や内容までは調べる事が出来なく僕たちも全く想像出来ない」




「ゴーク国ってのは文明がだいぶコンプリトルと違うんだな」




「船や飛行機、また色々な未知数の道具を今まで発明してきてあると予想している、それに国のミッションによってそれぞれ決められた役割を与えられていて効率的に活動している。スパイもその役割の一つだしタナーもそうだっただろ」




「文明に関しては僕たちの国と格段の差があるね」




「しかしだパーカー、僕たちはこのままでは何もする事が出来ない。そうだよなライル」




「ああ。そうだ、その通りだ。やるか?」




「もう決めたのか?」




「ああ、決めたよ」




 マークとパーカーにライルは伝えた。




「二人とも、俺達は運良く最新型の護衛艦に乗る事が出来る立場にある。今まで船乗りになる事をいつも否定してきたけど今度の事をやるだけやってみようと思う」




「なんだか少し自慢に聞こえるな」




「本当うらやましいよ。でも怖くないのかい」




「うん、今はゴークへの恐怖感は無いけど後戻りするとすぐに恐怖にのまれそうだ」














 ライルとジェスは急いで訓練場に戻り、一度は断わった護衛鑑の乗組員にしてもらうように教官に会いに行った。




「なんだライルとジェス、忘れ物か?」




「いえ、違います。僕たちは……」




「うん? どうした」




「ライル、はっきり言おうよ」




「うん。教官! 僕たちを船に乗せて下さい」




「おおそうかついに護衛鑑に乗る気になったのだな。良かった。しかし乗員申請書を、もう軍の方へ提出しているからもう駄目なのだよ」




「えーっ駄目って、もう乗ることが出来ないのですか?」




「心配するな、またいつか乗れる日が来るよ、それまで気楽に待っていればいい」




「いや駄目なのです。どうしても乗りたいです乗れなければならないのです、待っていつまで待てばいいのですか?」




「急にライル達は勢い付いてきて態度が変わって来たものだな、だけど次は来年かなぁ」




 ライルはジェスと顔を見合わせた。




「これでは間に合わないよなジェス」




「うん、そうだよな」




 教官がライルとジェスの肩に手を伸ばした。




「おまえ達ひょっとしてこの間の敵国に君らだけで戦とうとしているつもりなのか、それは命がいくらあっても足らないぞ」




「教官、そうでもしないとこの島は誰が守るのですか?」




「はははっ、戦いは現役の乗員に任せておけばいい。ただ君たちはその手伝いをしてくれればいいのだよ。今の海軍は人員不足には違いないのだ」




「それでもいいです、力になりたいのです」




「わかった、そこまで言うならこの間来られたイーサ指揮官の所に行ってみろ、こちらからも連絡をしておくから」




 ライル達はすぐに、言われた海軍本部の場所に向かった。




 その海軍の建物は港町の東側に位置していて、訓練場の何倍もの大きさのある建物だし造りも全く違うが、建物の紋章は訓練場と殆どにている形のものがかけあげられていた。


 入り口は厳重に施錠されていて銃を装備した警備員の許可無しには入る事が出来ない。




 ライル達は恐る恐る建物の入り口に近づいた。二人はこんな腰の抜けたような状態なのに、遙かなる敵に立ち向かおうとしている事が信じられない。




「君たちは何の用で来たのかね?」




 案の定門の所で警備隊二人に止められた。




「イーサ指揮官に会いに来ました!」




「イーサ指揮官?」




 もう一人の警備が言う。




「この間指揮官に任命されたイーサだよ、知らないか?」「ああ、そうだったな、君らアポは取っているのか?」




「はい、連絡済みだという事です」




「よし、おまえ達そこで待て!」




 警備の一人が上の者を呼びにいこうとすると中から若い少年達が出てきた。




「ライルやっぱり来たのか。待っていたぞ、これで一緒にがんばれるなあ」




 訓練場で一緒だったロージー、それとピートとヒートもいてほとんどが今回訓練場を卒業した者たちばかりだった。




 警備員がロージーを見て言った。




「おまえ達、あの子等の知り合いなのか?」




「知り合いです。それも訓練場の同じ卒業生です」




「そうだったか、それでは一緒に中に入れ、ふざけたりするなよ」




 それを知ると警備員はすんなりライル達を中に入れてくれた。




「よかった、おまえが一緒だと俺も心強い」




 ロージーが嬉しそうに話た。




 そしてライルとジェスは官庁室に呼ばれた。




「君たち入れ!」




「はい!」




 ライルとジェスは勢い良く返事した。




「君たちがライル君とジェス君だね、訓練場から連絡を受けたが残念ながら乗員登用の期間が超過している為、今は乗組員になるのは無理だ。改めて次回の申請期間に申し出なさい」




 ライルは強気で申し出た。




「来年では間に合わないのです!」




「うん? 何の話だ」




「また、近いうちにゴークの奴らが必ず攻めて来ます」




「そうだろうな、しかし心配する事無い。そのときの為に今から対策本部を立ち上げ計画を練っているし、またこの戦いは長くなるだろう。その時の為に君たちは第二軍で改めて入ってきてくれれば助かるよ」




「僕たちはイーサ指揮官のもとで働きたいんです」




「それは本心なのか? まあいい、それでは一応官庁と話しをしてくるから待っていろ」




 ライルとジェスはそこでたったまま待つ。その廊下の向こうから戦いの準備をしているロージーらの話し声がかすかに聞こえる。




 かなりの時間が過ぎてイーサ指揮官がもどって来た。




「お前達、許可が下りたぞ、すぐ作業にはいる。君たちは遅れている分、他に時間をとっていき、皆に追いつく為合宿に入ってもらう、すぐに集合室に入れ」




「はい!」




 それから二人は一生懸命働いた。指揮官の言う事をきちんと守り船の構造装備について学びながら体力を付けていった。




 二人はゴークが再び攻めてくる日までじっくり話し合い、計画をたてていった。




 ある時パーカーがマークの店を訪れていた。




「何度みても酷い有様だな」




「そうだな、どこから手を付けていいのか分からないよ」




「店を直すなら僕も手伝うよ」




「ああ頼むよ。それはそうとライルが船に乗れるようになったんだってな、また合宿生活なんだってよ、大変だよな」




「そうなんだ、それでライルとは連絡取っているの?」




「訓練場とは違うから普通に取れるよ、それに短期間の合宿らしいし」




「ところで俺たちの計画は進んでいるの?」




「進んでいるみたいだけど実際はどういう計画なのかわからないし、ライルが何を考えているのかも分からない」




「そうだな、なんであんなに真剣なのか、ライルも変わったよね」




「変わったと言うより最近少し変だよな、あれだけ船乗りにはならないと言っていた奴が」




「そうだよね、でも元々変わっているからなぁ」




「はははっ! そうだったな」




「計画はジェスと念入りにたてているようだし、ゴーク国の侵略を本気で止めようとしているみたいだぞ」


「それはおおごとになるね、恐いよ、それに危険」




「俺たちは武器を持たないがそれはライルが確保するそうだ」




「武器を持つの? それで何をする? 人を撃つの?」




「銃は訓練場で練習しただろ、同じだよ」




「僕はまだやっていなかったよ、それにやり方は分かっても実際は違うしとんでもないことになるんじゃないの?」




「うん。先のことは誰にも分からないな」




 ライル達は海軍宿舎でロージー達と話しをした。




「ロージー話がある。ゴーク国の事なんだけど」




「ゴーク国か、心配する事ない。この護衛鑑だったらもう大丈夫だろう」




「しかし、奴らは色々な手で攻撃してきて、たぶん予想出来ない事が起きるだろうし俺たちだけでも予め計画をたてておこうよ、どう?」




「俺たちが戦略を練るのか? 俺たちだけで何が出来るよ、第一に俺たちは指揮官の命令を聞いて行動しなければならないしそういう立場にあるんだ。別に俺たちは何も考えなくていいよ」




「しかしだ、先は何があるか分からない。対策は必要だと思うが」




「お前は何か勘違いしていないか、俺らは大きな組織に所属していてその中で動いているんだぞ、お前が場を乱したら全体がまとまらないだろうが、なに考えているんだ!」




 意見がロージーに通用しない事にライルは歯がゆさを感じていた。












 ある日の朝、海軍の施設までライルの母親が訪れていた。




「何? お母さん、なにかあった?」




「がんばっているわね、少し痩せたのじゃない?」




 ライルは母親が来ているのが照れくさかった。




「全然変わってないよ、何か用事があったんじゃないの? それとも呼び出されたとか」




「何日か前にライルに手紙が来てたのだけれどライルは帰って来れないからって言って、お父さんがライルに持っていってやれと言うの、その手紙はとても重要なものの気がしたからね、これだわ。送り主はミン・タナー」




「タナー? タナーノ手紙なの?」




 ライルは慌てて母親の手から手紙を取り上げる。










=========


手紙を送るのはこれで最後になるわ、ゴーク国の襲撃の後今もライルが無事である事を祈っている。そしてあなたがこの手紙を読んでいる事を願っています、しかし次のコンプリトル島の攻撃する日時が決まったの。だからあなたも逃げて欲しい、私が言うのも何だけどコンプリトルはゴーク国にかなわない、出来るだけ逆わらずに死傷者を最小限に抑えるようにした方がいいわ、ライルからみんなに伝えて! 攻撃開始日時は4月24日10時45分、それに合わせて艦隊がそちらに行くはずです。あなたには何も無く無事でいることを願っています。


=========






 ライルは日付を見て驚いた。


「4月24日? それって明日じゃん!」














 ライルはゴーク国が攻めて来る予定の日時を上官やイーサ指揮官に伝え、その情報をもとにコンプリトル海軍は対策本部より護衛鑑や巡視艇を島の周りに配備するよう指示し、陸では警察機関が防衛網を張り、島の住人には避難指示が出た。




 イーサ指揮官がライルを呼び出した。




「ところでよくその情報がわかったな、何処からの情報なのか?」




「船乗りの知り合いがいて……」




「勿論お前が嘘を言っているとは思わないが敵国の情報は余程でない限り漏らさないだろう。それが明確に入ってくるとは、たいした者だ」




「はい、しかし私の情報は少なく細かい所までは分かりません、また情報が入って来ればその都度報告致します」




「君の情報でも我が軍の対策に大いに力になっている、何かあればよろしく頼むよ。因みに君たちは少し前からゴーク国の事を調べていると聞いているが」




「なぜそれを?」




「教官とよく飲むのでね」




「教官は僕たちの行動を知っていたのですか?」




「そうみたいだな、船乗りも捨てたものじゃないだろ」




「えっ? ……はい」




 ライル達は一度自宅に戻り親の顔を見る事を許可された。ついでにマークとパーカーに会ってタナーの手紙から攻撃の事を伝えた。状況を納得した二人はライルの指示を待つだけとなった。


 そして自宅に帰ると母親がいた。




「あら、もう帰って良かったの? 帰宅は来週だと思っていたけど」




「そうだったよ、でも今朝の手紙、持ってきてもらって良かったよ、あれには大事な情報が記載してあって明日の午前中にまた攻撃がある事が書かれてあったよ」




「攻撃? また誰か攻撃してくるの?」




「この間攻撃してきた船があっただろ、またあの船が攻めて来るんだよ」




「そうなの? それは大変だわね、ライルはどうするの」




「僕は海軍に戻らないといけなく船を出し、奴らと戦わなければならないんだ」




「それはライルでないと駄目なの? 他にも偉い人や優秀な人が沢山いるのじゃない?」




「そうだけど僕たちもそれについて行かないとならないし僕自身もやり遂げなければならないと思っている。逃げたくはないんだ」




「やっぱりあなたは男の子だわね、いいわ、がんばりなさい!」




 ライルのお母さんは落胆したようにもとれるような落ち着いた状態だったが、優しい笑顔でライルを見ていた。




「それですぐにでもおやじと避難しておくれよ、あまり時間がないんだ」




「ライルが言ったその事だったのね。それは聞いているわ、さっき町の放送で避難指示があったからね」




「指示の情報が早いな、いつもは俺の情報なんて聞きやしないがやっぱり緊急事態になるとこの島の連携はすごい」




「でもね、お父さんは仕事が忙しいからと言ってそのまま工場に居るというのよ、私だけ避難しておけだって」




「なにしてんだよまったく、ちょっとおやじの所へ行ってくる」




 母親はライルの後ろ姿を見送りながらつぶやいた。




「だいぶ大人になったわね……」




 ライルがコンプリトルの港を見下ろすと、道は既に避難する人で溢れ返っていて、それは女性も子供も同じように大事な家財道具も入っているのだろう、みんな重い荷物を背負って丘の上へ登って来る光景とすれ違った、もうこの島はさっきまでの平和だった状態と違い、人々の顔は不安で曇っていた。




 ライルは父親の工場に着くなり工場の中を通ると父親の所の仕事部屋へ入った。




「おやじ何やってんの、早く避難しないと!」




「バカ! こんな忙しい時にそそくさと避難出来るか」




「どうしてなんだ? みんな避難しているよ、早くしないとここもやられてしまうよ」




「俺はここで今までのように仕事を続けるよ、他の者には逃げるように言ってあるしその者らは既にここにはいないよ、ここにいる者は自分から残って作業を続ける事を希望しているよ。とは言っても殆どがここに残っているけどな」




「おやじ、みんな何故逃げないの?」




「ライル、お前軍艦に乗るのだろ? お前が避難しないで俺が避難出来る訳がない、お前が前向きに立ち向かうなら俺たちも同じだよ」




「俺たち?」




 気づくと工場の人たちは手を止め、みんなライルの方を見ていた、その中の人がライルに呼びかけた。




「ライル君、こんな若いのに、攻めて来る見知らぬ敵に立ち向かおうと思っているなんて簡単に出来ることじゃないよ、何か君をそうさせるものがあるのだろうけど君が逃げないと言う事は僕らも同じさ、僕らの街やこの島の未来を守ってくれ!」




 工場の人達は皆ライルを見て頷いていて、その言葉をかみしめるようにライルもうなずいた。




「わかりました」




 ライルはすぐに海軍基地に戻ってイーサ指揮官の指示によりすぐ護衛鑑の出向準備に取りかかった。




「最新型である本鑑は同じものがエルムとホープニ隻、ホープは港の湾内に配備、エルム本船は沖迄出て攻撃準備とする、他の稼働中の護衛艦は島の周りを取り囲み、我が軍から死角になる所には巡視艇を置く、残りの護衛艦は本艦の周りに集め艦隊を組む、敵はどれ程の規模か何処から攻めて来るのかは分からない。諸君覚悟はいいか?」




「はい!」




 乗組員全員の返事が響いた。




 辺りは暗くなってきたが乗組員達はまだ皆真剣な顔で作業を続けていた。




「ジェス、奴らは何処から攻めて来ると思う?」




「やっぱり幾つもの艦隊組んで来るかも、そして島全体を囲まれたりして」




「そうだよな、計り知れない数だろうからなあ」




 次にジェスがロージーに問う。




「ロージーはどう思う?」




「俺に聞くか? お前の方がわかるだろ。俺は相手がどんなに多くても全力で打ち止めすまでさ」


 ライルが語る。




「俺も色々と考えている、陸にもマークとパーカーがいる、最悪の事を考えると自分達が動いて行かなければならない、万が一その時が来たらがんばろう、ロージー」




「またライルの独りよがりが出たな、俺たちはとにかくやるしかないんだ」




「うん」

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