第3話 船乗りの職業

 ライルは岸壁を探し走り続けても見つけきれないので、トボトボト歩いていた。




 水平線には小さい客船みたいなのがここから見えている。




「あの客船は小さいが近くまで行くとこの前の大型客船位の大きさがあるのだろうか」




 持ってきた望遠鏡を水平線に浮かぶ客船の方角へ覗いてみた。




「あの船も外国船だな。ここの島には立ち寄らない船か」




 この時間帯は船の往来は極めて少なくて、他にも見るものがなくライルは望遠鏡を下ろした。


 するとすぐ近くの岸壁にあの女の子の姿があった。初めて見るように驚いた。




 黙ったままの彼女は海を見ていて髪は長く青いスカートを来ていて、小さめの白い靴は色白の肌に合い、すごく透明感があるような雰囲気を出していた。ここからただ茫然と見ているだけの自分の姿を想像すると俺はバカみたいな奴だと思った。




 海辺は風があり長い髪とスカートはなびき飛ばされそうになっている帽子を軽く手でおさえていた。




 ライルは今まですぐにでも声をかけようと思っていたがそれがどこかにいってしまっての嘘のように彼女の前で体が固まったままだった。




「なんて言えばいいんだ、だいたい俺はここまでなにしにきたんだ」




ここに来たものの、なにを話しすればいいのか分からなくなった。


 なんでここに要るの? とか何処から来たの? とか話していいのだろうかと思っているが前にはなかなか進まない。




 このままライルは彼女の近くにいてその方向を向いた状況なので通行人から見るととても変な光景だった。




 すると彼女が向こうを向いたまま言う。






「なに?」






「えっ?」






 急な問いかけに唖然としたライル。




「なに、なんの用?」




「あっごめん、なんか、見かけない人だなあと思って」




 ライルは意外にクールな彼女に衝撃を受けていた。




 それから時間が止まったように少し沈黙が続く。




「あまり私に近づかない方がいいわよ」




「えっ! どうして? 前もこの港で見かけたんだけどなんだか寂しそうな顔をしているし、何か考えて想いに耽っていたように見えたから」




 彼女の顔がこっちを向く。輪郭はシュッとしていてクールな顔をしている、青い目は消して笑っていない。




「私ってそう見えてんだ、私は昔からずっと一人なの、寂しくなんてないわ」






「ふーん」




 返す言葉をなかなか見つけきれない間、返す言葉を考えた。




「ねぇ、海をみているけど君も船が好きなの? 友達も船が好きなんだ」




「ううん、私は海は好きじゃない」




「そうなんだ、船は? 興味ない?」




「私はこの島に来て間もないからよく知らないの、毎日この場所にいるのは他がつまらな過ぎるから」




「僕が島を案内……」




 と言いかけた時雲行きが怪しくなって急に向こうから雨がカーテン状に迫って来るようにこっちに向かって来た。




「やばい、濡れちゃうよ、にわか雨が集中してきたんだ」




 すかさずライルは女の子の手を引っ張って雨の防げる屋根のある場所まで一緒に走った。








「うわー、だいぶ濡れたね」




「助かったわ、この島の雨はあんな降り方をするの? ビックリしたわ」




「島国だからね、山があって気圧の変化が激しいんだよ、ここに来てどの位?」




「そうね、3ヶ月位かな」




 雨宿りしている場所は港に並ぶ倉庫の一つで、そこが開いていたのでその場所を少し借りた。すると雨に濡れながらもう一人倉庫に入って来た。




「ビチャビチャだ」




「マーク、ずぶ濡れじゃないか」




 慌てて入ってきたのはマークだった。今日はパーカーと一緒ではない。




「ライル、丁度探していたんだよ、ひどいなこの雨。その子は友達か?」




「あっ、そうそう、女の子。いつも港にいる子だよ」




「いつも港にいるの? ライルの知り合いか? 見たことないな」




 ライルは自分だけがこの子を見ていた事に気づいた。




「さっき初めて会ったんだ、最近島に来たんだって、名前はえーと、まだ聞いていなかった」








「私の名前はタナー」




「ミン・タナー」




 やっと聞き取れる位の冷めた声で言う。




「タナーって言うんだ、なんだか見かけより大人びているな」




 タナーはそれには答えないで黙ったまま。




「マーク覚えているか、客船の監視棟に上った時に岸壁にいた女の子だ」




「そうだなー覚えているような、いないような」




 首を傾げているが思い出そうともしない。




「なあマーク、今度この島を案内しようよ」




「あー、そうだな、でも大丈夫なのか?」




 マークは何かを隠してそうな彼女を不安に思った




「なにが? 大丈夫かって?」




 何も感じてないライルが聞いた。




「じゃータナー、君はどこから来たんだ?」




 マークは疑うように言った。








「それは教えられない」




「今、何処に住んでいるの?」




 タナーが指さした。




「向こうの方」




「ふーん。」








「それじゃ両親は? 兄弟は? 親は何している人? タナーはいつもここで何をしているの?」




 マークは連続して質問した。




「ちょっと! 初対面の女性に色々聞くのは失礼じゃない、それにあなたに話すことは何もないわ」


「ちぇっ、ほらね」




「まあまあ、今日はこのぐらいに」




 ライルが気を使う。




「ただここに来て海をみているだけ、あとは何もないわ」




 ライルとマーク、そしてタナーはしゃべるのを止めて、そこの水たまりに屋根から落ちてくる滴がいくつも波紋を造っているのをずっと見ていた。












 やがて雨は止み海の方を見ると、雨雲の間から太陽の光が差し沖の一部分範囲の海を白く照らし始めた、遠くに浮かぶ船を照らす。




 倉庫から出て背伸びをした。




「晴れたねー」




「ね。私にあまり構わない方がいいわ、それだけは言っておく」




「そうなの? 僕はライルと言うんだ、こっちはマーク分からない事は何でも聞いて!」




 タナーは何も言わず、でも少し笑ったような気がした。




「ライル、わたしもう帰らないといけない」




 気づくと少しずつ日が落ちてきていた。




「わかった、それじゃまた今度ね!」




 ライル達はタナーと分かれて丘へ戻る。
















「あのタナーって子、何でいつも港にいるのだ?」




「何でだろうな。あっ、そういえばマーク、俺に用事があったんじゃないのかい?」




「あー、そうだった忘れていた、」




 マークはライルの顔を見て言った。




「よく聞いて。ライルも巡視艇の訓練場に入る推薦状を貰ったんだよ!」




「えっ? どう言うこと?」




「俺が入る訓練場に、この間の客船船長との知り合いがいたらしく、ライルの話を聞いてとても興味深いと思ったらしくて、是非訓練場に来て欲しいと言うことだったんだ」




「そうなのか? でも俺は巡視艇には乗らないけどな」




「まあ、なかなか入れない訓練場だ、とりあえず行ってみる価値は有るとおもうよ」




「困ったな、パーカーはどうするんだよ」




「パーカーもっ、と言ったんだけど駄目だった」




 お使いを頼まれ買い物に出ていたパーカーがちょうど通りがかった二人を見つけていった。




「そうだよ、せっかくだから行ってみたらいいのに?」




「パーカー、いたのか」




「聞いていたのか、力になれなくてごめんパーカー」




 マークが気まずそうに言った




「なるのが難しいのは分かっているんだ、行かない理由なんてないよ。俺に遠慮するな」




 パーカーは全く気にしていないように言った。




「うーん、俺は何も考えていないし、親だって俺が船乗りになるとは考えて無いと思うし。もしなると言うと怒るだろう」




 ライルは出来るだけ入隊を断る方向へ持って行きたい。




「まあ入隊希望日まで時間がある大丈夫だよ、それまでゆっくり考えていてよ」




「うん、考えとくよ」




「巡視艇乗りか……」














 ライルは今日も港にいた。マークからいきなりの訓練場入隊の話、断る方向でいるが少しは気になっていて船を見に来ていた。


 もし船乗りになったとしたらと考えるためだったがそこには巡視艇は停泊してない場所だ。優柔不断な性格から入隊をしてもいいかなとどこかで思っている部分がある。




「今日も来ているのか小僧、お前毎日暇だなあ」




「ああっ。今日も暇です」




 ライルは自分に予定が無い事を認めた。将来の決まった進路が無い事を見られている気がした。


「君は毎日何をしているのか? この辺をぶらぶらして、毎日が無駄に過ぎていくばかりではないのか?」




「いや、そうなんだけど」




 ライルは老人には何も言い返すことが出来なかったし、それと言っても訓練場への推薦がある事も言えなかった。




「なあ少年今から漁に出るんだ、暇だと言ったな、一緒に来るか」




「えっいいんですか?」




「以外に素直じゃな」




「しっかり手伝います」




「手伝う? フン! 期待してねーよ」




 船には興味無いライルは全くその展開になるとは思わなかったけど取りあえずどんなものか、おじいさんの船に乗って見ようと思った。すぐに船に乗り込んだ。




 10人も乗れない位の船に乗ると思った以上に揺れてバランスを失い普通に立てない。




「よし、早速釜に石炭をクベて蒸気をたてろ」




「はい」




 返事はしたがそこにある石炭をすくうスコップを見つけきれない。




「そこにある、そこだ」




 石炭の山の上にあるのが全く目につかなかった。すぐにスコップを掴み石炭を釜に入れる。


 石炭は予想していたよりずっしり重く腰を入れないとスコップが安定して持つ事が出来ない。


 釜に入れると次は量が多すぎたのか火がくすぶってしまったのでフイゴで空気を送る。




「ゴッホ、ゴッホ!」




 釜から煙が出るばかりで、むせで炎が見えない。煙突からは黒い煙が出ていた。




 汗だくになりながらフイゴを動かし、やがてじわじわと炎が出てきた。




「よしいいぞ、出向する」




 おじいさんは蒸気パイプのバルブを緩め動力をスクリュウに繋いだ。振動で古くなったマストがブレていた。船は滑るように少しずつ水面を移動していた。




 けっこう進んだと思ったがまだ港すら出ていない。煙突から煙がもくもく出ているがなかなかスピードが出ない。また石炭を足したがそのスピードが精一杯だった。




 その船は時間を掛けて港を出た。




 向こうの岸壁にタナーの姿を見つけるが、こちらには気づいていない、いつもの場所でまた海を見ていた。




 ゆっくり進む船の上のライルは港を生まれて一度も出たことなかった事を周りの景色から教えられ気づく。




「わー、なんかすごい」




「どうした、何を驚いている?」




「こんな気持ち、新鮮で表現出来ない」




 海から見るコンプリトルの情景も新鮮で新しかったが、おじいさんの船は木造船で波のタイミングにあわせて板張りからキシむ音がして、それに水面がすぐ足元の高さに来ているため、水面に立っているような不思議であり、不安な気持ちでもある事を経験したことが無かった。




「突然だがおまえ、ライルとか言う名前だったな。俺はポブだ、ポブと呼んでいいぞ、覚えていてくれ。それとまた石炭くべる手が止まっているぞ!」




「はい、」




「それがひと段落したら、帆を下ろすんだ。お前達が掃除して整理した後に新調したのだ、ライルお前ならやり方がわかるだろう」




 ライルは思いの外、忙しい船の作業に慌てている。




 今日の海は穏やかだが日差しは強く、海からの照り返しもあってとても暑い。


 だんだんと汗も吹き出てきた。




「こんな作業、いつもこの老人一人でやってるのか? すごいな」




 石炭を入れ続け、だいぶ沖に出てきたと思うが、その位時間も立っている。




「よしこの辺だな、赤い布の目印だ探してくれ、海の上に少しだけ出ているよ」




 仕掛けている罠が予め幾つも沈めてあり、その罠が自分の網だと分かるため色の付いた布を浮かべてある。




「どんな布ですか、わからない」




「それだ、そこに浮いているだろ。こうやって上げるのだほら」




 水面に反射して見えなかったが、そばまで行くと確かに赤い布が浮いていて、ポブが水面に手を浸け船の旗と同じ模様の赤い布の付いたロープを、ライルも一緒に引っ張り上げる。




 ポブとライルがロープを引っ張ると仕掛けてある網の位置まで船が引っ張られていく。




「よし、本体が見えた。一気に引き上げるぞ」




「はい」




 二人は一気に大きな網篭を船の上に上げた。篭には魚がたくさん掛かっていたがライルは不思議に思った。




「ん? イカ釣り漁船なのにとれたのはイカでは無いんだな」




「ははっ、これは昼間の漁だよ、イカは夜に出る、その方が採れやすいんだ」




 ポブは手を休めずその網をひっくり返した。








「あー、たったこれっぽっちか」




 ポブは残念そうに言う。それを唖然とライルがみている。




「沢山とれているのに」




「この魚はだめだ、これも、これもこれも」




 ポブは魚を海へポンポン戻している。




「この中で売れるものは極少量なのだよ」




 ポブはライルに収穫したうちの少なくなった魚を内側の水槽に入れるように言った。相変わらず慣れない手つきのライルは腰に力が入っていない。








「そら、もう一つ上げるぞ」




 ライルとポブはいくつもの網篭を上げたが獲物になるようなものは少なかった。合計で20の網篭は上げただろう、仕掛けてある物をすべて終えて一休みした。










「ライル食うか?」




「はい」




 ポブはあんこ入りの大きなパンを一つ投げ、それを海の上で美味しそうに食べるライル。船は波で揺れていて汐の匂いがする。






 また捕った獲物は水槽の中で元気に泳いでいるのを覗き、清々しい気持ちになって空を見上げると鳥が高くとんでいた。




「ライル、おまえは何かになりたいとかなにをしたいとかあるのか?」




「いえ、今はなにも無いんですけど。両親が船の修理工場をしていて、それを次がないといけないんです」




「そうなのか、しかしライル、お前は何か考えを他にもっているのではないのか?」




「そうですね、やっぱりこれから先、やっていきたい事がどんどん出てくるかも知れません」




「この国コンプリトルは小さな国だ、外の国や外の世界を考えた事があるか?」




 ライルはポムのいきなりの話しに聞き入る。










「わかんないです!」










 ポブが空を見上げ指を頂点へ向ける。




 ライルも上を見上げる。




「お前が見ている空、そして飛んでいる鳥、あれが何の鳥か分かるか?」




「あっ、何という」




 ライルは飛行機に興味はあるが鳥の名前さえ知らない。




「ふっ、ふっ、ふっ。」




「なんですか?」










「あれは鳥ではないよ、ある組織が飛ばしている飛行機という機械だよ」




「えっ? 飛行機? どこから飛ばしているのですか」




 ライルは船から体をのり出した。




「ここからは小さく見えるが、とても高い所を飛行している。もう人が乗って動力装置を使って操縦しているのだよ。他の国から飛び立って来たはずだ」








 ライルは他の国に比べて文明発達の違いに置いてきぼりな気持ちになった。




「どこの国の飛行機ですか? その国は近代的な所でしょうね」




「言ってもライルも知らない国だ、確かに近代的ではあるがな」




 頭の中に色々な想像がかけめぐりだしたライルは今までとは違い世界の見方が変わり、心は少しずつ変化していった。




「なんでおじさんはいろんな事を知っているのですか?」




「なら逆に言おう、君は何も知らな過ぎなんだ」








 ライルは言葉を返さないまま一人でつぶやいた。




「そうだ、僕の考えは小さく世界はもっと広いんだ、もっと先を目差さないといけないんだ」




 ライルの気持ちは少しずつ動いていた。










 先日の事を思い出していた。




 漁船のポブのおじいさんに乗せてもらった時の感覚がまだ残ってあり、今までただの魚取りをしている老いた老人と思っていたのにそれは違っていて、またいろんな事を知っているので普通のおじいさんだと今では考えられないのだ。


 そこで自分も何かしなきゃと思ってきていた。




 コンプリトルの港町から少し上がった所にマークの家があり、そこはパン屋をしている。




 パン屋の名前はポルト。


 その店の周辺は石畳のある路地が続き人の行き交いも多い。


 煉瓦造りの釜用煙突を備えたパン屋は、そんな場所に店を構えているため連日多くの人で繁盛していた。




 路地から一際目立つ看板は鋳物で出来ていて、錆びたプレートを風が動かし、店の名前の入った大きな窓硝子がはまった木の扉を開けるとドアベルがカランコロンと鳴り、同時に中からパンの焼ける香ばしい匂いがした。


 店内にも既にお客さんが何人もいるので、ベルを鳴らして入ってきたライルにマークの母が気づき声をかけるが、顔を伺う事が出来ない位忙しそうにしていた。




 ライルがいるのに気がついたマークが奥から出てきた。




「中は狭いから外に出よう」








 二人は外に出て階段を下りながら話す。




「パン屋さん、相変わらず忙しそうだな」




「おかげさまで母も親父も朝からずっとこの状態だ、最近さらにお客さん増えたみたいなんだ」




「うちの親の工場と比べると華やかで活気があるよな」




「そうか? ライルの所も忙しそうじゃないか」




「まあ、工場も大変だろうな。俺はいずれ工場を継いで行く事になってあるが最近になってやっぱり訓練場への入隊を希望しようかと思っている」




 マークが歩くのを一端止めた。








「おっ! ついにやる気になったか?」




「いや、そういう訳ではないんだけど」




「じゃ、どういう訳なんだよハッキリしないなあ」




「マーク、この間の漁船のおじいさん、覚えているか?」




「叱られた時のあのじいさん?」




「ああ、イタズラしてみんなで掃除させられたよな」




「また、叱られたか?」




「いや、その船に乗せて貰ったんだよ、その時は手伝いをしたんだけどな」




「手伝いをした? それで船の良さを知って巡視艇乗りを目差そうと思った?」




「う、うん。それがさ、あのおじいさんはただ者ではないみたいなんだ」




「というと?」




「今までいろんな国を旅して来たらしく沢山の事を知っていたよ、俺たちの知らない国とか、あと……」




 老人から受けた話しを全部説明しようとするがあまりにも内容が滑稽すぎて伝わりづらいので、また今度話すことにした。








「あー、そうだったのか、結局楽しかったんだろ?」




「まぁな、でもまだ迷っている」




「ライルん家の工場の事か?」




「うん、それもあるし船乗りを俺が目差す事を知ったら父親は猛反対するだろうし、俺自体の気持ちも中途半端だからなあ」




「大丈夫だよ、いろんな事をしているうちにライルの気持ちもいずれ変わっていくさ。しかしライルの親父さん説得するのは至難の業だな」




 いつのまにか海辺まで歩いてきた二人、マークは軽くライルの肩を叩いた。




「マーク、もう少し考えておくよ」












 海の遠く遠く。遙か地平線を見るような気持ちだった。




「考える、考える、考える、考えてばかり。もう訓練場の人がライルに目を付けているのだ、それだけライルは知識をもっているじゃないのか?」




「だから困るんだよ、何か他に意味があったりするのじゃ無いのか?」




「それはないと思うけど、考えすぎだ」




 マークは苦笑いをした。




「わかった、それじゃこうしよう。パーカーも一緒に入隊出来るようなら俺も入るから」




「ライル、それは前にも話したように無理だって言っただろ」




 ライルは黙ってマークの顔を見た。




「わかったよ、もう一度言ってみるよ。そしたらライルも入るんだよな。その条件を伝えて見るよ」




 マークは急いで家に帰って行った。




 ライルは今言った言葉に少し後悔した。まだ両親にもいってない事を思いだし、勝手に自分で決めてしまった事を、それに先の事も不安だった。










「いいわね!」


 いきなり女の子の声にライルがキョロキョロするとタナーが後ろに立っていた。


 今日は岸壁で海を眺めているいつもの場所でなく、表情まで違って見える。


 さらに今日の服装は肩が出ている黄色がかったワンピース。頭に麦藁帽子を小さくしたようなデザインの物がのっている。ライルはそんな帽子を見たことが無く表現で表せなかった。




「タナー」




 ライルが深呼吸するように名前を言った。




「あなたはいろんな人に頼られているのね、羨ましいわ」




「そ、そうかな、少し違うんだけど」




「私にはそう見えたよ」




「まっ、そうだとしても今は自分の事でいっぱいなんだ、他の人の事まで考えている余裕が自分には無いんだ」




「フフッ!」




 ライルが頭をかきながら、困った仕草をみてタナーが笑みを浮かべた。




「笑うんだ」








「私だって笑うわよ。冷酷な女だとでも思ったわけ?」




 ライルはやっぱりこの人怖いと思った。




「腹減ってないか? 俺は少し減ってきたよ」




「そういえば私もお腹すいてきた」




「よし、それじゃついてきて!」




 ライルは港にある父親の御用達の食堂に向かった。












 そこは船乗り達の為にある食堂で、朝からはいつも混雑して、とても忙しい店だが昼からは人も少なくライルの父親などが陸で働く者達が来客する。




 ライルもその店の店主とは顔見知りで、そこの店に行くとライルや他の子供らはいつでも飯を出してもらえる。メニューとして出してくれる訳ではないが、それらはお金を取っていなくそこは店主の志だった。




 その食堂は岸壁の倉庫街に並んでいるので倉庫か店かはわかりにくい。




「やぁ! また来たよ、おばちゃん」




「おう、また腹減ってうろうろしてんのか?」




「腹は減っているけどうろうろはしてないよ、今日はここが目的として来たんだよ」




「今日はきちんとお金払って食べるんだ。だから大人用を注文するよ」




「へぇ、金もってきてんの? すごいじゃん」




「もう子供扱いしないでくれ」




「はっ、はっ、笑わせるねえ、あら? 後ろの娘も一緒なのか? なるほど、ライルがそうなる訳だ」




「なんか、いつもケチみたいじゃないか、何か頼むよ」




「わかった、わかった。それではメニューはこっちで良いのを決めるから」




 店のおばちゃんはうるさく喋ると裏にさがって行った。




「ライルはこの島の人とほとんど知り合いなの?」




「そうではないけど、昔から住んでいる場所だからね、それにこの島も広いように見えて狭いんだよ」


「私の国も小さいけど近所の人とお互いには干渉しないのよ」




「えっ、病気とか事故とか一人だけでは出来ない問題が起きたらどうするの?」




「それらの問題も連絡をするとすぐに駆けつけてくる基幹が整っているから必要がないの」




「すごい国だな」












 早速店のおばちゃんが料理を運んでくる。




「おまちどう!」




 二人で話していると食事が来るのが速かった、料理はいつもライルが貰っている握り飯とは違い。ごちそうだった。




「この港でとれるクルー貝だよ、食べたことないだろ、さあ食べてくれ」




「おばちゃん、あんまり高いものは払えないよ」




「お前から金をとれるわけねーだろ、さっさと食ってけ!」




「えっ。いいの? ありがとう」




「私もっているわよ」




「あの人はそういう人なんだよ」




 ライルはおばちゃんの気持ちを受け取るのが早かった。




「この貝おいしいよ!」




「ほんとだうまい」




「タナーの国にはこれは無かったの?」




「私の住むところは海がこの島のように綺麗じゃなく汚れているから遠くまで漁に出ないと採る事が出来ないの、それに遠い海から運んでいると運ぶ間に腐ってしまうからね。魚介類なんて滅多に食べられないのよ。ましては貝なんてほとんど食べたことが無いの」




「俺からすると汚れた海の世界なんて考えられない」




「ここに来るまでこんな綺麗な海、見たこと無かった。船も港も。すべてがお話に出てくる本の中の世界みたいだったわ」




「タナーも本は読むんだね、友達のパーカーもマークもちっとも本を見ようともしないんだ」




「本は沢山読まされたわ」




「俺が読む本はほとんど資料の物なんだけどね、飛行機って言う物の本が多いよ」




「えらい物に興味を持つわね」












 ライルトタナーは食堂を出て外の潮風にあたる。




「おばさんありがとう」




「ごちそうさまでした」




「また、いつでも来いよ」




 この島ではここの港は一番人が集まる所で昔から船の行き来の中継点になっていて、それでコンプリトルは栄えるようになった事はタナーも分かって来た。




「沢山の人が海の仕事に関わっているのね」




「そうそう、ここではみんな海に憧れていて船乗りを目指す者ばかり、俺も周りの力に負けて、そうなりつつあるけどね」




「ライルは他に何かなりたい物があったの?」




「なりたいものとかではないけど、飛行機と言うのを研究したくて、どうしても自分で作りたくて、でもそれを作っては失敗するのを繰り返しているが、やがて飛べるように完成させたいんだ、大空に羽ばたく物を。でも他の国ではもう既に良い物が完成しているみたいなんだ」




「私、飛行機は知っているわ、本で読んでるから分かるの」




「知っているの? そうなら話しがわかるんだね、でも現実には食べていける仕事として考えを持たないといけないと思っているけど……」




「でもそれも素敵だと思うよ、夢は現実にあるものだけではないからね、その作っているライル、飛行機って見れるの?」




「ああ見れるよ。いや駄目だ、この間マーク達に衝突して壊れたんだった」




 二人は歩きながら話しをしているうちに、港から離れてきた。山手の方は煉瓦作りの建物が並んでいる。








「壊れていてもその飛行機、見たいな」




「壊れている物を?」




「うん」




「わかった、家の納屋まで行こう」




 二人はその路地を上っていく。












「おやライル、今日はデートかい?」




「やあ、おばあちゃん、体の具合はどう?」




「今日は天気がいいから、だいぶ調子よくて、外を散歩しているんだよ」




 この辺は坂が急な所が多い割には年寄りの人が多い。




「この町のほとんどの建物は煉瓦を積み立てて作っている物が多く山からは粘土質の泥が沢山あり、煉瓦作り職人が釜で焼き上げて作っている」




「煉瓦職人? 海に関わっていない職業もあるのね」




「そりゃー船乗りばかりではないからね」




「マークの所だって家はパン屋をしている、けっこうおいしいんだよ」




「ふうーん」












「ほらあそこを見て!」




 ライルが自分の父親の船修理工場を指して言う。




「俺の父親も海には出ない、船には携わっているが陸で修理工場をしているだけだよ、もっとも俺が海に出ることすら反対だろうけど」




「大きな工場ね」




「やばい、父親が出てきた、また色々言われるよ。タナー早くこっちへ」




 ライルとタナーは上の方へかけ登り自宅の納屋を案内して、ライルは自分家の納屋の扉を開く。












「これなんだ」




 ライルは先日壊した改造された自転車を見せた。




「すごい機械だね、でも飛行機の形が全く分からない程だね」




「この間、実験飛行でこうなったんだ」




 ライルは苦笑いしながら白い紙にデッサンされたのをタナーに見せる、それは自転車を使った羽ばたく飛行機のイメージ画像が描かれていて、その姿は空を羽ばたいている絵だ。




「こうなる予定だった」




 納屋の中には鳥をかたどった飛行機思える小さな模型が飾ってあって、それにタナーが気づくと言った。




「ライル、これも飛行機なの?」




「そうだよ、実際に飛べるんだよ」




ライルはその模型を丘の上から投げるとスーッと飛び上がり、海から吹き上げて来る風をつかまえて上へ上へ浮き上がっていった。




「ほら、これはうまく飛べるんだけど」




「すごい、出来ているじゃない!」




「へへっ」




 かなり上へと浮き上がっていったライルの模型を二人が見ていると、海からの風でタナーの帽子も上へと飛ばされた。




「あっ、まてー」




 二人は丘の上へと飛ばされていくタナーの帽子を追っかける。




 さらに上へと追いかけて行くといつも仰向けに寝ころがっている場所まで来てしまった。やっと帽子は落ち着いてそこにあった。




「はあ、はあ、はあ、やっと取れた」




「はっ、はっ、まってー」




 タナーも息を切らせての上ってきた。




「ありがとう」




「この帽子の形が一番飛ぶんだな」




 ライルは冗談のように言った。












 タナーは海の方を向いた。




「わあー、ここからだと海がよく見えるんだね」




「そうさ、ここはコンプリトルの港が一望出きるんだ」




「俺はこの眺めが好きで、いつもここの丘から海や空を見ているんだ」




「気持ちよさそうね」




「ここからの景色はコンプリトルで一番の所さ」




「ライル!」




 小さい声で言うタナーの声は風の音で聞こえない。




「ねえ、ライル! 一つ言っておきたいことがあるの」




「なに、」




「ライルだから言うけど私の国ではもう人が乗る飛行機が出来て、実現されているの」




「えっ?」




「これは国の秘密だから言ってはいけない決まりがあるの、それに私も実際は見たことがなく資料で見た事あるだけ」




「そうなのか、俺は何ちっぽけな実験などをやっているんだ。やっぱり世界は広いな」




 ライルはこの間ポブじいさんが言っていた飛行機の事を思い出し、空を見上げ鳥を見つけようとするが鳥はいない。




「タナー、それはコンプリトルの上空も飛行するときもあるか?」




「分からない、でもありえない事もないかも」




「タナー、その国の秘密、言って良かったの?」




「いいの、ライルがそこまで飛行機の事を言って私は何も知らないふりをしたまま話しを聞くなんて出来ない」




「言ってくれてありがとう。俺はこの島の事は何でも知っているが、その他の世界の事は何も知らない、俺は外の世界に出ると無力だ」




「今はそうかも知れないけど、これからは違うわ」




 ライルとタナーの目は丘の上から海の向こうを同じように見ていた。














 丘の下から声が聞こえた。




「おーい、ライルここにいたか、探したぞ!」




 マークは息をきらせながら丘の上へ上ってきた。




「おっ、タナーだったっけ、ライルと遊んでいるのか?」




「慌ててどうした、マーク」




「ライル、ライル、パーカーも入隊許可が出たぞ!」




「本当に許可が出たのか! まさかだな、信じられない」




 意外に結果が早かったのでライルはびっくりしていた。



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