ラ・カーム戦記

神名 信

序章

誕生

 中央大陸の東に位置する大国、ラ・カーム


 王都ラーの教会の前にはたくさんの人々が集まっている。


 王国歴八七五年五月七日


 そう、この日は王妃の出産予定日である。


 さらに、先の発表において王妃が双子を身ごもっているという情報があり王都は沸き立っていた。


 「双子とは珍しいわね」パン屋で買い物をしている主婦が店主にそう語る。


 「あなたなにも知らないのね」と店主


 「え?双子っていう発表じゃなかったかしら?」


 「王家に双子が生まれるっていうことは、王国の歴史の中でも初代王以外なかったの、そして、もしその双子が男の子と女の子なら、初代王にならってその二人を結婚させることで千年の繁栄がもたらされるっていう伝承があるのよ」


 「そうなの?でも、今でももう十分に繁栄しているわよ、この国は、私のところも子どもは二人いるけど、亭主の安月給でやっていけてるもの」


 「まあ、そうね」パン屋の店主はこれ以上言ってもしょうがないと思いそこまでにしておいた。



 実際八七五年現在王国には平和がもたらされていた。


 王国の中央山地からは金が産出され、そのために財政は豊かであったし、また税金も安い。


 税金の安い王国で暮らそうと他国からの移民も多く、また貿易商も王国を拠点として経済活動をしていた。


 南海岸にある港町ダ・ゴールには巨大商船が頻繁に出入りしていたし、王国で作られた貨幣である、王国銅貨、王国銀貨、王国金貨は大陸のどこの町でも使えるほどであった。


 しかし、このような繁栄も他国から見れば面白いものではなかった。


 特にラ・カーム王国の北に位置するイグニクェトゥアは、大陸に現存する国家としては最も歴史が長く、ラ・カームのある地方も千年以上前はイグニクェトゥアの支配地域であった。


 ラ・カームは建国以来イグニクェトゥアと戦い続けており、特に中央山地の金鉱を巡っては八七五年現在でも激しく対立している状態であった。

 

 五月七日の夕暮れも迫る時刻、教会の鐘が高い音で鳴り響いた。


 「おー」


 「わー」


 「これって女の子だってことだよね?」誰に聞くでもなく市民が確認するように話した。


 「鐘の音色が高ければ女、低ければ男、それは今まで通りだろう」


 「次が低ければ大変なことになる」


 「そうだな、千年に一度あるかの時に居合わせてるっていうことか」


 そして、歓声がやみおわらぬうちに先ほどとは違う低い音で教会の鐘が鳴り響いた。


 「ラ・カーム万歳」


 「万歳」


 「ラ・カームに千年の栄光あれ!」


 「万歳」


 「ラ・カームは一万年は持つさ!」


 教会前の広場に集まった一万人以上の市民は大歓声を上げている。

 

 王都警護隊も目は光らせているが、王都には何重もの魔法結界が貼られ、王宮は近衛団が護っており、集まった市民の動きにだけ注意していればよかった。

 

 しかし、その数分後、一回目の鐘の音と同じように高い音が鳴り響いた。


 「え・・・」

 

 「どういうこと?」


 「三つ子??」

 

 「三つ子なのか??」


 「女の子、男の子、女の子ってこと?」


 この場合についてはなんの情報もなかった王都の市民たちはびっくりしていたが、総じてお祝いムードに溢れていた。



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