このバグは仕様ですか? ~ゲーム初心者の私が初回ガチャの特典【∞のスキル】で最強になっていた件について~

あざね

プロローグ 初心者、ガチャを引く。






「ええっと、これで良いんだよね……?」



 ――夜の九時を回った頃。

 私は一人、パソコンの前に腰かけていた。

 ヘッドギアという機器を頭に装着して、左右をきょろきょろ。妙な閉塞感に慣れないまま、ひとまずゲームを起動した。


 すると、視界が一気に開けていく。

 周囲には木々が生い茂り、鳥のさえずりも聞こえてきた。


 フルダイブ型のゲームだと聞いていたけれど、こんな感覚なのか……。



「変な感じだなぁ。本当の現実みたい……」



 私は思わずそう呟いた。

 そしてとりあえず、手足を動かしてみる。動作は正確――というか、むしろ気味が悪いと感じるほどに本物の手足のようだった。

 そうこうしていると、こんな声が聞こえてくる。



『ようこそ! クローバー・オンラインの世界へ! ――まずはキミの名前を教えてもらえるかな?』



 声のした方に目を向けると、そこには小さな妖精さんが浮かんでいた。

 愛らしい容姿をしているその子は、笑顔で私の名前を訊いてくる。



「あ、そっか。名前の登録、っと……」



 右往左往しつつ、私は目の前に現れた半透明のパネルに名前を入力した。すると妖精さんは、うんうんと頷いて笑う。

 そして、元気いっぱいにこう言った。



『分かった、マキナだね? 改めて、クローバー・オンラインへようこそ!』

「あ、本名で登録しちゃったけど大丈夫かな……」

『どうしたんだい? もしかして、名前の変更かな』

「い、いえ! 大丈夫だと思います!」

『分かったよ、それじゃ進めるね』



 そして不意に不安に駆られるが、勢いのまま進んでしまう。

 とりあえず友人の指示通り、最初のガチャを引くところまではやっておこう。そう思って私は、妖精さんに言われるまま、簡単なデータを入力していった。



「えっと、アバターは現実に即したものが用意されるんだよね。とりあえず住所とかは非公開にして、それから――」



 それらを終えると、いよいよガチャの画面が表示される。



『これから旅立つキミに、特別な力を一つ与えよう!』

「これが重要って言ってたけど、リセマラ……? も、できないんだよね。こんなところで運は使いたくないけど、変な能力も嫌だなぁ……」

『それじゃ、画面をタップしてね?』

「んー、まぁ。ミキがなんとかしてくれるよね……よしっ!」



 私は少し躊躇するが、覚悟を決めて画面をタップした。

 すると、何やら音楽が流れて――。



『ぱんぱかぱーん! おめでとう!』



 妖精さんは、嬉しそうに両手を上げる。

 そして初回ガチャの特典、その名前を読み上げた。



『キミに与えられたのは――EX級の【∞のスキル】だ!』

「いーえっく、す……? なんだぁ、SSRじゃないのかぁ……」



 大きくうな垂れて、私はそう口にする。

 ゲーム好きの友人――ミキ曰く、ゲームにおける最高レアはSSRとのこと。初回の特典でそれ以外を引くのは、0.001%未満だとか、なんとか。

 つまり私は初めてのゲームで、いきなり外れを引いたんだ。



「これじゃ、ミキの足手まといになっちゃうかなぁ」




 そう独り言ちながら、私はゲームからログアウトする。

 現実に戻ってきて、ヘッドギアを外してからベッドに横たわった。とりあえず明日、ミキに報告しよう。そう、思いつつ……。



 

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