第3話 遺跡への突入と初戦闘

 準備を整えて早めの朝食を取り終えた俺達は、早速この都市に有る冒険者ギルドへと向かう事にした。


 理由は単純で、この世界では基本的に遺跡――ダンジョンに挑む時には、最寄の冒険者ギルドへ行程表を提出するのが慣例になっている。


 まぁ行程表と言っても、そこまで複雑なものではなく、何処に行っていつ帰って来るかだけでも問題ない簡素なものだ。


ただ、ギルドが公表しているデータによって、工程表の提出有無によって万一の時の救出確率が大幅に変わって来る事は実証されている。特にやましいこと等が無い限りは、提出するのが普通だ。


「あっ、この街のギルドはあそこだよね?」


 ナナが声を上げながら指さした先には、剣が交差する看板の出たひと際大きな建物があった。


「ああ、間違いないな。手続き周りは俺がやっておくから、皆は待っててくれ」


 そう言いながら軋みを上げる木製のドアを開けると、ギルド特有の匂い――酒と煙草と血と汗の匂いに、慣れていないリーフィアやシャーロットが顔を歪めるが、俺は気にする事無くギルド内を確認していく。


入ってすぐの大広間は100名以上が収納できる程大きな作りと成っており、夕方ごろにも成れば大勢の冒険者で賑わうのだろうが、今はまだ朝早いせいか掲示板前に数名冒険者が居るだけであり、後は4名の受付嬢がカウンターに立って居るのを確認できた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!」


 受付嬢の人たちによる、ハキハキとした声がギルド内に響き渡り、それに対して会釈を返しながら持参した工程表を取り出しながら、一人の受付嬢の前に立つ。


「おはようございます、工程表の提出に来たのですが」


「おはようございます。それでは冒険者票と工程表の中身をで確認しますので、渡していただいても良いですか?」


 そう言われたので、冒険者票――金属で出来たドッグタグの様な物を手渡しながら、規定の用紙に記載された工程表を提出すると、受付嬢が記載内容を確認していく。


「パーティは12人編成で、目的地は中心地の白城――予定としては本日の夕方7時に帰還ですか。お連れの方々のギルド登録は、こちらに記載されている内容に間違いないですか?」


「ええ、変更は無いです」


 そう言うと特に皆の分の冒険者票を確認されることも無く、記載した本紙とその写しに対して印鑑が押され、写しを手渡しされたところで手続きは完了だ。


「何かご不明な点等ございますか?」


「いえ、特にありません。対応ありがとうございます」


「こちらこそご利用頂きありがとうございました。」


そうして受付嬢に見送られながら皆を連れて外へ出ると、シャーロットが首を捻っている。


「どうかしたか? シャーロット」


「ギルドの手続きにはお金がかからないの?」


「そうだな、工程表の提出含め基本的にギルドに金を払うってケースは多くない。金を払うケースとしてあるのは、例えば工程表通りに知り合いが返ってこなかった為に、ギルドに依頼を出す場合とかだな」


 そう答えると、シャーロットは納得した顔になった。


「私からも一つ良いかしら……ギルドって、皆あんな匂いなの?」


 そうリーフィアが尋ねると、シャーロット以外の面々が思わず苦笑いする。


「凄く言いづらいんだけど……実は、アレでもまだましな方」


 そうユフィが困った様な顔で応えると、リーフィアとシャーロットが目を見開いていた。


 まぁ、下手すると1週間とかダンジョンにこもりっぱなしって事も有るから、その分匂いなんかは慣れるまではキツイかも知れない。


「セン、そろそろ遺跡に向かった方が良いと思う」


 そうユフィに促されて時間を見てみれば、丁度出発の予定時間が差し迫っていた。


「皆、改めて確認するが準備は出来てるな?」


 そう言ってそれぞれの顔を順々に確認していくと、真剣な面持ちで頷き返され、最後に近衛の代表であるゼネットが頷き返したのを見て、アルデラ遺跡の検問所へと歩みを進めた。





 検問所では事前に貰っていた許可証と、ギルドから渡された写しを提示すると、通過する事をあっさり許された。


そして一歩、遺跡へと足を踏み込んだところで――肌がひりつく様な感触を覚えた。


「……まさに、石の遺跡と言った風情ね」


 リーフィアがボソッと呟いた通り、辺りは石でできた崩れかけの建造物や壁に囲まれており、肌を刺す様な魔素さえなければ、一面の石畳も含め只の遺跡の様に見える。


「俺達は予定通りの陣形で隊列を組むぞ……近衛の人たちは、背後の守りをお願いします」


 そう言うと、皆が了解の声を上げてユフィの案内の元、他の冒険者と狩場が被らない様にしながら、移動を続けていく。


 すると、検問所を通ってから数十分が経ち、丘を越えて開けた場所に出た所で……ユフィが声を上げた。


「魔獣が3体、2時方向。接敵まで30秒」


 その声を聴いて、一気に緊張感が高まる。


 辺りに隠れたりやり過ごす場所も無いことから、前衛のリーフィアとシャーロットが俺の方を振り向いて来たので、敢えて笑顔で応える。


「2人は安心して、それぞれの担当する敵1体だけに集中してくれ。サポートや増援は俺達が全面的に引き受ける」


 そう言うと2人は頷き返し、各々大剣と扇を構えた所で――魔獣が現れた。


 思わず顔をしかめたくなる程の獣臭い匂いと、地を這うような唸り声を上げながら現れたのは、2mを超す巨体の狼が3体。


 奴らはギラついたその目でこちらの一団を睨みつけると、一定の距離を保ちながら様子を伺っている。


……俺達の様子から、人数不利と判断して即座に仕掛けて来ないその思考は、ゲームの中とは違い、奴らが確かに生きた獣だと実感させられる。


「リーフィア、シャーロット、ナナ、俺とミヨコ姉が奴らの足を止めるから、その隙にそれぞれの敵を頼んだ。ユフィはバックアップと周辺警戒を頼む」


 そう告げて全員の返事を確認すると、ミヨコ姉とタイミングを合わせて繰り出された俺のナイフと、ミヨコ姉の魔法の矢が魔獣達の退路を塞ぐ。


「はあぁあっ」


 三人が気勢を上げて魔獣に肉薄し、それぞれの敵へと武器を振るう様子を、後方から油断なく確認する。


 ――リーフィアの剣は正に豪快そのもの


 一度剣を振れば轟音と共に敵を巻き込み、触れた相手を致命の一撃の下、吹き飛ばしていく。


 ――シャーロットの攻撃は、表面上の性格とは異なり堅実だ


 扇と言う武器の特性上、至近距離での戦闘になるため、リーフィアの様な豪快さこそないが、培われた技術によって振るわれるソレは、的確に相手の……敵の肉体的弱点を突いて行き、時間経過と共に相手へのダメージを積み重ねていく。


――ナナに関しては、コレまでも何度か共に遺跡探索をしてきたが、今は更に磨きがかかっている


 槍衾やりぶすまと見紛う如き速度で残像を残し繰り出される連撃と、間に挟んだ薙ぎ払いにより相手の行動を制限する様は、圧巻の一言だ。


「増援が来た。10時方向、距離300、敵3」


「……私達も、負けてられないよね!」


 ユフィの指示の下ミヨコ姉が魔導書を開くと、風と水の魔法陣が空中に展開される。


「解放」


その言葉と共に、増援に来た狼達へと二色の光が降り注ぎ、石でできた大地諸共、敵を穿つ――が、ユフィが短く声を上げた。


「センッ」


「任せろ」


 ミヨコ姉の魔法を受けてなお一体が、シャーロットの方へと駆け出そうとし――奴が一歩を踏み出した時には、俺のナイフがその首を叩き落していた。


「ユフィ、周囲に敵は?」


「少なくとも私が認識できる範囲内には何も居なさそう」


 そうユフィが言った声が聞こえたのか、皆の張りつめていた空気が一気に弛緩する。


「皆お疲れ様。一応各自周囲を警戒しながら、事前に話した様に魔獣の胸元……心臓付近にある魔石の回収を頼む」


 そう告げると、皆からの元気のいい返事が返って来て――思わずホッと一息ついた。

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