第23話 終業式当日の朝は早い!

 皆で無事アリアへのプレゼントを買った後も、試験休み中にやる事はいくつか積み重なっていた。


 一つは遺跡探索における立ち入り許可証の入手。


 許可証自体は学院に届けを出し、冒険者組合との協議の下、問題が無ければ普通に発行される。


 ただ今回は幾ら本人が望んだとは言えリーフィアへの発行は揉めるかと思われたが……案外、すんなりと受け入れられた。


 理由の一つは、近衛が同伴する事が前提であった為だろう。そしてもう一つの理由は、学院長による鶴の一声が大きかったものと思われる。


――まぁ本人に何故リーフィアの許可証を出すことを支持したのか聞いても、はぐらかすばかりで何も答えなかったけどな


 何はともあれ無事に許可証を得た後に取り掛かったのが、皆の武器や装備の調達だが、

これも思いの外ザンガ爺のお陰で簡単に準備を整える事が出来た。


――まぁ装備を一新したのはシャーロット位だったけどな……


 最後にやったのが、皆からも希望が出ていた海水浴の場所決めだったが――これは、ヘイズ侯爵家所有のプライベートビーチを借りる事となった。


 最初は普通の海水浴場を体験してみたいとリーフィアが言っていたのだが、そんなもの認められるわけが無いだろう。


 無防備な恰好を大衆の前で肌を晒すことが如何に危険であるかを熱弁したところ、ユフィから白い目で見られはしたが、何とか勝ち得た理想郷である。


――誰にも邪魔させるわけには行かない!!


 結果、俺達6人と――終業式の2日前に退院する事が出来たアーリア、その付き添いとしてのジークを含めた計8人で海水浴に行くこととなった。


 そうして、皆でアリアの退院と、入寮の手伝いを行った翌々日――終業式の朝がやって来た。


「今日は通知表を渡されて、終業式に出るだけで終わりだよね?」

 

 いつもの皆とアリア、ジークの2人を合わせた8人で集まって、寮の食堂で朝食を取りながら、右隣に座ったミヨコ姉に問いかける。


「そうだね、他には特に何も無かったと思うよ」


 そうミヨコ姉が頷くと、左斜め前に座っていたアリアがため息を吐いた。


「はぁ、分かってはいた事だけど、寮に入ったと思ったらすぐに終業式って何だか凄く変な感じする」


「だから言っただろうが、夏休み中に入寮すればいいって」


 俺の左隣に座ったジークが呆れた様にそう言うと、ジークの正面に座ったアリアが頬を膨らませた。


「別に良いじゃん、皆が寮で楽しく過ごしてるの聞いたら、一刻も早く入寮したくなったんだもん!」


「まぁ、女子寮の寮長はまさかこの時期にアリアが戻って来ると思ってなかったみたいで、凄く驚いていたわね」


 クスクスと笑いながらリーフィアがそう言うと、口を尖らせていたアリアは、「えへへ」と笑いながら頭をかいた。


「アリアさんが戻って来た時にも、寮の皆で軽く入寮祝いとかしたけど、今日こそ皆で退院祝いするんですよね!!」


 勢い込んでナナがそう尋ねてきて、アリア含め皆が頷く。


 元々は、アリアが退院した日に退院祝いなどをしようって話だったのだが……終業式が近い事や、女子寮側で軽く祝いの場が設けられることが決まっていたため、アリア自身の希望で今日退院および入寮祝いと、終業式の打ち上げまとめてやる事になっていた。


――ただでさえ色々目白押しな夏休みだが、アリアのお陰で一層退屈しなさそうだな……


 そんなことを思った所でふと気になったので、アリアへ尋ねてみる。


「そう言えば、アリアの1学期の成績はどうなるんだ?」


「一応入院中にやってた課題と、夏休み中に何日かある特別補習の結果で、別途成績をつけるって言われたよ」


 そうアリアが応えると、シャーロットが疑問を口にした。


「そうなのね。もし海水浴に行く日付をずらした方が良ければ、お父様に言って別荘とビーチの使用日を変更するけど?」


「そこは大丈夫! 事前に貰った予定通りなら、補習の試験さえ合格できれば問題なく行ける予定だから。……試験に落ちた場合は、追試にぶつかりそうだけど!!」


 そんな風に元気よく応えるアリアを見て、隣に座るジークに思わず尋ねる


「それって、本当に大丈夫なのか?」


「まぁコイツなら大丈夫だろ、元々成績は割といい方だったしな」


「その上、ユフィちゃんにも勉強色々教えてもらってるしねー」


「別に私は大した事やってないけど……」


 そうユフィが応えると、アリアが車椅子ごと隣に座ったユフィの方へ向き、ガバッと抱き着いた。


「んー、素っ気ない態度のユフィも好き!」


 座っていてもやや身長差のあるせいで人形の様に扱われるユフィを見ていたシャーロットが、呆れた様なため息を吐いた。


「ちょっとアリア、密着しすぎてユフィが呼吸できなくなってるわよ」


「んー!」


 アリアの割と豊かな胸部に押しつぶされたユフィが苦情の声を上げ、バシバシとアリアの腕を叩いたところで解放された。


「ははは、ごめんごめん」


「……アリアの抱き着き癖は、直した方が良いと思う」


 笑って手を合わせるアリアに対し、ユフィが少し拗ねたような声を出したのを聞いて、ナナが首を傾げている。


「ユフィお姉ちゃん、どうかしたの?」


「別に、何でもないよ」


 純粋な眼差しでナナに問いかけられ、ユフィが慌てて手を振ったが……俺は知っている、ユフィの視線がナナの胸部に向かった時、少し悔しそうな顔をしていた事を。


「セン? 何か言いたいことでもあるの?」


「いえ、滅相もございません」


 ユフィから氷点下の視線を向けられ、俺は思わずそう回答した。





 皆より一足先に寮を出ると俺は、以前渡されたファイルを持って学院長室へと訪れていた。


「やっほ~セン君、最近調子はどう?」


「ぼちぼちですね。後、このファイル返しに来ました」


 そう言って学院長の名札が置かれた机の上に、ファイルを置く。


「別にこんなに早く返してくれなくても良かったのに~」


「どの道大体の情報は知ってましたからね、さっさと返そうと思っただけです」


「そっか~」


 俺の話に相槌を打った学院長は、ファイルを掴むと適当に机の引き出しに放り込んだ。


「それで、こんな朝早くからお姉さんの所へ来てどうかしたのかな?」


 首を傾げて尋ねて来た学院長に対し、思わずため息を吐く。


 パッと見何も考えていない様に見えて、その実瞳の奥には様々な権謀術数が宿っているのだから、やり難い事この上ない。


「まずリーフィアの立ち入り許可証の件、改めて口添えして貰って有難うございました」


 素直にそう頭を下げると、手をひらひらと振られる。


「気にしなくて良いよ~、私にも考えがあっただけだし。ただ、一応ちゃんと守ってあげてね? もしナニカあったら、騎士団の名前にも傷がつくから」


「言われなくても」


 俺が騎士団へ恩義を感じているのを知っていて言っているのだろうが……どの道そんな考えとは別に、俺はリーフィアを守ると心に決めている。


「許可証に関連して、この夏休み中に調査したい遺跡が有るんですが、良いですか?」


「遺跡の調査に関しては別に私を通さなくても……「アルデラ遺跡の調査をしたいんです」」


 アルデラ遺跡と俺が言った瞬間、学院長の眼が細まった。


「よくあの遺跡の名前を知ってたね?」


「たまたま古本屋に置いてあった本に書いてあったんですよ」


 ……これは完全に嘘だ、今はもう曖昧になってきつつあるゲームの時の知識で名前が――天使に関する話が出ていた為、調査しようと考えたのだ。


「そっか~、もしその本をまた見かけたら買って来てもらえる? お金は私が全額払うから」


「分かりました。それで、許可して貰えますか?」


 あくまで表情や声を普段通りにするよう意識しながら問いかけると、学院長は頷いた。


「全然良いよ~。明日以後学院の誰かに言ってくれれば、調査出来るようにしといたげる」


「ありがとうございます」


 そう感謝を述べると、俺は学院長に背を向けて扉へ向かって歩いて行くと、後ろから声をかけられた。


「セン君が頑張ってる姿も可愛いけど、嘘を吐くならもうちょっと自然体で居られる様に頑張りなね~」


 背中にかけられた間延びした声にやや苛立ちを覚えながらも、何も応える事無く部屋を出た。

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