第22話 贈り物

 学院を出て街まで歩いて来たところで、ふと気になった事を、隣を歩くミヨコ姉に聞いてみる事にする。


「ミヨコ姉はもうアリアに何買うか、決めてるの?」


「私の場合は買うっていうよりも、ハンカチを作って贈ろうかなって思ってるかな。昨日ナナちゃんが使ってたのを欲しがっててたから」


「あー、確かにミヨコ姉の場合はその方が良いかもね。刺繍とかも入れるの?」


「うん。まぁ、時間も無いからそんなに凝ったのは作れないけどね」


 そう言ってはにかむミヨコ姉に、思わず癒される。


「センは何かプレゼント決めてんの?」


 ユフィに袖を引っ張りながらそう言われ、思わず鼻をかく。


「いや、それが全然……だから皆何にすんのかなって思って。ユフィはどうすんの?」


「私は昨日アリアが気に入ってる小説の続刊が出てるって教えたら、中々買いに行けないから欲しいって言われて、その小説とブックカバーかな」


「あー、ラブロマンス的な?」


 そう尋ねるとつねられた……まぁ、趣味はそれぞれだしな、本人が喜ぶ品が一番だろう。


「ちなみに、リーフィアはどうするんだ?」


 ふと、人から物を贈られる事が多そうなリーフィアに、そう尋ねる。


「私は皇国で贔屓にしてた服飾店の支店があるから、そこでひざ掛けを買おうと考えてるわ。昨日病院の温度が調整されてるせいで、アリア寒そうにしてたし」


「なるほどなー」


――皆色々考えてんだな……


 そんな事を思っている内に、一軒のガラス越しに色とりどりの菓子が陳列された店の前に付いた。


「あー、菓子とかも本人が好きなら良いよな」


「うん、アリアさんの好みはリサーチ済みだから、私のオススメのココにしようかなって……おじゃましまーす!」


 笑顔のナナが元気よく店内に入ると、カウンターに居た女性店員がコチラを向いた。

「あらナナちゃん、今日は随分と大勢で来たのね?」


「えへへ、お姉ちゃん達と退院祝いのプレゼントを買いに来たんだー」


 弾む声でそう返すと、ナナは事前に目星を付けていたのだろう可愛らしい箱に入ったクッキーを店員の下へ持っていく。


「シャーロットは、アリアに何渡すか決めてるのか?」


 店員と楽しげに会話しているナナを眺めながらそう聞くと、シャーロットは勿論と答えた。


「私はオススメの化粧水を渡すことにしたわ」


「お前まで決めてるのか……となると、俺は何を渡せばいいと思う?」


 そう尋ねると、ジト目で見られる。


「プレゼントって、相手の事を思って考える所からじゃないの?」


「いやまぁ、ごもっともなんだが、アリアが何を好きかってあんま聞かなかったしなぁ……」


 思わずそうぼやいていると、ナナの買い物が丁度終わったので、次に先頭を歩いて行くことに成ったシャーロットへついて行く。


「はぁ……アリアは歌うのが好きみたいよ?」


 ため息を吐きながらも、何だかんだでアドバイスくれるあたり、コイツもたいがい人のいい奴だ。


「歌……喉……紅茶とか、飴とか?」


「飴だとナナちゃんと甘いものっていう所で被ってしまうし、紅茶の方が良いんじゃないかしら?」


 隣に来たリーフィアにそう助言を受けて、紅茶にしようと考えるが……。


「この辺の紅茶の店って何処に有るんだ?」


「それなら、私が行く本屋の近くに専門店があるから、そこで探したら?」


「サンキュ、ユフィ!」


  思わず手を握って感謝すると、ユフィがはにかんだ。


「……二人とも、そんな所で止まってると通行人の邪魔よ」


 ドンドン先に進んでいたシャーロットにそう声をかけられ、周りを見てみれば大通りの真ん中で手を握り合ってる俺らを奇異の視線で見てるのに気づき、思わず駆け足で皆の所まで移動すると一軒の店が見えて来る。


「ここが私の目的地だけど……アンタも入る?」


 ニヤニヤしながらシャーロットが尋ねて来た店は、外観からしてファンシーであり、外から見える範囲だけでも男性お断りな雰囲気をヒシヒシと感じさせた。


「いいや、遠慮しとく。俺は外で待ってるから」


 そう言って店内に入って行く皆に手を振ると、ボーっと大通りを眺める。


 行きかう人々は学院都市である事と、学院生が皆試験休みに入った事もあって、殆どが学生だ。男同士で売店の食べ物を食べてる奴ら、女子同士で何やらはしゃいでる連中……カップルと思しき連中。


 そんな正に青春を謳歌してますと言う連中が殆どの中で、油で汚れた作業服を着ている見知ったドワーフに思わず声をかけた。


「よっ、ザンガ爺さん」


「むっ? 誰じゃ気安くワシの名前を呼んだのは……って、センか」


 険しい顔で振り返った爺さんが俺の事を見て、寄っていた眉を解いたが……怪訝な顔をした。


「お主そんな店の前で何をしておるんじゃ? まさか女装の趣味でもあるんか?」


 若干引き気味にザンガ爺に聞かれ、俺は勢いよく首を横に振った。


「ざけんなっ、人を待ってるだけだよ。ってそうそう、ザンガ爺には礼を言おうと思ってたんだ」


「礼じゃと?」


「ああ、実はな……」


 鉱山の民に会った事や、ザンガ爺の作ったナイフによって、パーヌと和解で来たこと等をかいつまんで説明する。


「成程、それでお主が儂の下の名前を知ってたわけじゃな……まぁ、その話なら聞いておる。鉱山の民の頭の内何人かが、重要な鉱物の在処を吐いた上で死んだこともな」


 そう言ったザンガ爺の瞳は、苛立ちに揺れていた。後から聞いた話だが、ドワーフにとって特に希少価値の高い鉱物は、神聖なモノとして考えられているらしいから、その苛立ちもやむを得ないのだろう。


「しかしそうなると、お主が”雷の勇士ライトニングブレイバー”って事かの?」


「……なんだ、そのこっ恥ずかしい名前は?」


 思わず頭を抱えたくなる様な名前に、問い返す。


「雷を背負い、仲間の為に一人残って数百の大軍と対峙した勇者……そうガドックに聞いておるんじゃが?」


「……あのオッサン、話盛りすぎだろ」


 確かに1人残って戦ったが、実質俺が相手したのは6人だけだし、後から来た軍勢を相手取ったのはミヨコ姉を始めとした皆だ。


……そう、ザンガ爺さんに説明したんだが、爺さんは肩をすくめただけだった。


「僅かでも事実が混じってるんじゃったら、鉱山の里の不安定な情勢を踏まえて考えればお主を祭り上げるのも無理は無かろう」


「うへぇ……閃光なんて二つ名でも持て余してるってのに」


「まぁ、そう悪い事ばかりでも無かろう。どうせお主らも、この夏休み中に学院の依頼で遺跡へ行くつもりじゃろ? それなら名前は売れてる方がお得じゃろ」


 そう言われて、ゲームでは学院の依頼を受ける為には一定の知名度が必要なのを思い出したが……そもそも英雄カード入りしてる時点で知名度はカンストしてる様なもんだし、学院長とも知り合いだから関係ないんだよなぁ。


「はぁ……取り敢えず俺はその名前が広まらない事を願うよ」


「それはどうかなるか分からんが、もし儂に何か依頼が有れば持って来ると良い。故郷の危機と息子の様な男を救ってもらったよしみだ、最優先で対応してやる」


「ありがとう、ザンガ爺。多分近々また寄らせてもらうよ」


「待っとるよ……そして感謝するぞい、セン」


 そう言って突き出された手を握り返して握手を交わすと、ザンガ爺は去って行った。


――まさか贈り物プレゼントを買いに来て、感謝の言葉を贈られるなんてな……


「ごめん、待たせたわね……って、自分の手を見てどうかしたの?」


 謝りながら出て来たシャーロットと、後からついて来た皆が怪訝な顔をしていたから、首を横に振る。


「そう? じゃあ次は、ユフィとアンタのプレゼントを買いに行きましょ」


「ああ」


 ややぶっきら棒に返しながらも、俺は自分の口角が上がっているのを感じていた。 

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