3章
第1話 連休の予定は未定です
1学期のメインイベントであるクラス対抗試合も何とか終わり、後のイベント事は残すところ期末試験のみとなった。
そんな退屈でありながらも、平凡な日々を過ごしていた連休前の平日、雷魔法入門の授業中でのこと。
「センはんはこの連休、帰省したりするんか?」
俺に模擬戦で負けて荒れているシャーロットが、他の班員たちを蹂躙しているのを眺めながら、ティガースがそんな事を聞いてくる。
センのバカ、アホッ、少しは手加減しなさいよ! とか聞こえてくるのは気のせいと言う事にしよう。
――ていうか、お前の方が加減しろよ
「帰省なぁ……俺達の場合は、騎士団の人間の一部とはクラス対抗試合の時会ったし、リーフィアも皇国に帰る気が無いみたいだから、連休中は寮にいるかな。ティガースは?」
「んー、ワイはショータの実家にでも行こうかと考えてるわ」
「なるほどなぁ、まぁ俺は何にせよしばらくはのんびりしたい」
そんな事を話していると、ひときわ大きな雷が練習場に落ちた。
「……ふぅ、スッキリした。それでアンタたち、男二人で何の話をしてるのよ?」
妙に清々しい声が聞こえたのでそちらを見てみれば、地面に倒れこんでアフロになってる班員達と、額の汗を拭うシャーロットがいた。
「毎度言ってるけど、少しは加減しろよ」
「あら、これでも手加減してるわよ? てか、アンタの方が私に加減しなさいよ……ってそんな事はともかく、今アンタたち連休中の予定について話してたわよね?」
――話の内容聞こえてんじゃねぇか
そう思ったが、面倒になるので黙っておく。
「せやな、ワイは……「アンタには聞いてないわ」」
速攻話を遮られたティガースは肩を落とした後、「あーあ、センはんのモテフェロモンがワイも欲しいわー」とか言いながら、別のペアとの模擬戦へと向かっていった。
「それで、アンタはどうすんのよ? 今度の連休」
頬を赤く染めて、そっぽを向きながらシャーロットが聞いてくる。
そんな様子の彼女を見たら普通の人間なら、俺に好意を抱いててるから予定を聞いている……そう思うだろう
――だが甘いなっ!
俺は知っている、ゲーム内の彼女の知識から主人公以外の事なんざ木偶ぐらいにしか思ってないってことをな!
――だから、俺の強い意志できっちり答えてやったぜ
「俺は、ミヨコ姉に膝枕されて過ごしたい! (俺は真面目に勉強と、修行をして過ごす予定だ)」
……あれ? 咄嗟に本音と建前が逆になったような。
「ふーん、ミヨコ先輩は確かに頼まれたら断れなそうな性格してるけど……アンタ、ああいう人が好みなの? てかそれ以前に、アンタ達は姉弟でしょ?」
「お前バカか? 優しいお姉ちゃんが嫌いな男がいるわけ無いだろ! いい加減にしろ!」
そう言って胸を張ると、ドン引かれる。
「はぁ……まぁいいわ、アンタ予定無いのよね? なら、帰省する私の護衛をやりなさい」
「お前話聞いてなかったのか? 俺はナナと買い物行ったり、ミヨコ姉をおちょくったり、読書してるユフィを眺めたり、リーフィアの護衛したりで忙しいんだ。お前に付き合ってる暇は1秒もない」
「いや、リーフィアの護衛が一番最後ってどうなのよ? まぁアンタの意見なんて関係ないから、ちゃんと準備しておくのよ」
そう言ってシャーロットが再び同級生イビリ――もとい、指導に戻っていった。
「いやいや、そもそもリーフィアの護衛やってる俺が、シャーロットの護衛になるなんて展開あるわけねぇだろ……」
◇
「はぁっ!? 2泊3日の間リーフィアの護衛をやりながら、シャーロットの護衛もやれだぁ!?」
いつも通り食堂に集まり、シャーロットから言われた事をリーフィアに尋ねると、肯定で返された。
「だから、アンタの意見なんて関係ないって言ったじゃない」
6人掛けのテーブルの正面に座ったシャーロットが、呆れたように言う。
「いやいや、常識的に考えて二人の護衛は無理あるだろ……現に似たような事をしたクラス対抗試合では過労で死にかけたし」
そう答えるが、リーフィアは譲らない。
「私の護衛は皆の他にも近衛を付けるから……それに、友人の家に行くなんて初めての経験だし……是が非でも行ってみたいわ!」
力強くリーフィアにそう言い切られ、思わず頭を抱える。
――こうなったリーフィアは、梃子でも動かないからなぁ
「……一応シャルは、騎士団にも既に依頼を出したみたいよ」
そう小声でユフィに言われて、更に頭を抱えた。
……てかユフィ、シャーロットのことシャルって愛称で呼ぶようになったのか。
そんな気づきを得ながら、皆との夕食を終えそれぞれの寮へと帰ると、騎士団から俺宛の手紙が届いている事を確認した。
内容を確認してみると確かに、シャーロットの護衛をする様にとの指示があった他、シャーロットの家とのパイプを繋いでおくようにとも書いてあった。
だが、手紙の中にどうしても理解できない点があり、モヤモヤとする。
「……しゃあない、連絡とってみるか」
そう言いながらシャーロットへメッセージを送り、ロビーに呼び出した。
「一体、何の用なの?」
「用件は……散歩しながら話そうぜ?」
外を指さしながら言うと、シャーロットは黙って頷いた。
「あー、もう夜だってのに段々熱くなってきたな」
ロビーを抜けて外に出ると、ムワッとした空気が肌を撫でる。
夏の到来が近づいているのを感じた。
「帰省するのにわたわざ護衛を付けるなんて、何かトラブルでもあったのか?」
そう言いながら理由を考えるが、現状皆目見当もつかない。
まさかこの状況で、シャーロットが原作の様な事態になるとも思えないし……。
「……のよ」
「あん?」
小さな声でボソリと答えられたので、思わず聞き返すと、シャーロットが顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「友達が出来たから連れて行きたいって言ったら、アンタを護衛として連れて来いって言われたのよ!」
「……は?」
思わず暫く頭が思考を停止する。
何故、友達を呼ぶのに護衛を付けなきゃいけないんだ? ……その心情が伝わったのか、シャーロットが睨みつけてくる。
「私だって理由はわからないわよ……ただ、先日のクラス対抗試合を見て、お父様はいたくアンタを気に入ったみたいだったわ」
口を尖らせながらそう言うシャーロットに、思わず大きなため息を吐く。
確かに騎士団――団長から送られてきた手紙には、バカンスを楽しんできてくれ的な事が書かれていたが、まさかそんな理由で有るわけがない……絶対に裏が有るだろう。
「何よ?」
「いや、だってお前……護衛する理由が気に入ったからなんてそんな訳はないだろ」
「私だって同じ気持ちよ」
プイッとそっぽを向いたシャーロットに思わず苦笑いしながら、空にある月を見上げ……もう一度ため息を吐いた。
どうやらまた、面倒事が舞い込んでくるらしい。
◇
騎士団の手紙が届いてから3日が経過し、連休の朝を迎えた俺は部屋を出る前にジークに軽く挨拶して、寮を出た。
――ったくあのツンデレめ、病院の伯爵令嬢によろしくなって言ったら殴りかかってきやがった。
「あっ、お兄ちゃん! 思ったより早かったね」
「入学前なら、余裕で寝てたものね」
「今だって寝たくてたまらないよ……おはようナナ、ユフィ」
既に到着していた二人に挨拶しながら辺りを見回すが、他のメンツはまだ揃ってないらしい。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんこの格好どうかな?」
そう言いながらナナが、ドレスシャツに短パンという恰好の感想を聞いてくる。
「ああ、ナナっぽくてかわいいと思うよ」
「やたっ」
そんな風に小さくガッツポーズを取るナナを見てると、ゆったり目のワンピースを着たユフィが黙って近寄ってくる。
「ユフィはいつも通り、良く似合ってるよ。あと、この前贈った香水付けてくれてありがとう」
「気付いてたんだ……うん、嬉しい」
そう言って、ユフィがパッと花が咲いた様に笑った。
――俺の妹と幼馴染が可愛すぎる件について
「あっ、またセンが二人を誑かしてるわね」
「もう、弟君は目を離すと直ぐに女の子を誑かそうとするんだから!」
「はぁ……もうアンタのそれは病気みたいなもんよね」
後発組のリーフィア、ミヨコ姉、シャーロットに呆れられた事に、若干へこみながらも、皆で笑いながら学院近くにある駅へ向けて歩き出した。
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