第26話 クラス対抗試合の終幕 ~騒々しい夜は終わらない~
『勝利の女神は一体どちらに……っと、何やら動いている影が』
俺は半ばから折れたナイフを腰に仕舞い、膝立ちのままだった姿勢から立ち上がる。
『あの動いてるのはセン選手……という事は』
実況の声がすると共に徐々に煙が晴れていき……地面に倒れ伏したレーナ先輩が、観客の視界に現れる。
『勝ったのは、セン・アステリオス選手だーーーっ』
実況の叫びと共に、喜びと悲しみの入り乱れた歓声が、会場中から上がった。
視線を上げてミヨコ姉達のほうを見れば、手を握り合い、抱き合いながら喜んでくれている……その姿を見て、改めて勝てて良かったと思った。
同時に視界の端で医療班が、レーナ先輩の救護に駆けつけて来るのが見えた。
「よくやったわね、セン」
声のした方へと振り返って見れば、医療班と共に試合会場に入って来たと思しき、リーフィアに労われる。
「あぁ、サンキュ」
そう言って手を掲げると、リーフィアとハイタッチする。
その様子を見て、カメラマンたちが一斉にフラッシュをたいた。
『では勝利者インタビューをして貰いましょう、インタビューアーのネカネちゃん。お願い!』
「はーい。丁度今、セン・アステリオス選手の近くまでやって来ましたよー。セン選手、今の心境をお願いします!」
すぐそばまで寄って来た、猫耳を頭に生やした獣人の女性からマイクを向けられる。
「あー、正直ギリギリ勝てて良かったとホッとしている所です」
そう回答すると、会場のそこかしこから笑いが漏れる。
「あのレーナ選手から勝ったというのに、随分と謙虚ですね」
「そうですね、先輩は私が戦った中でも指折りの猛者だったので、謙虚に成るのも当然かなと」
「おー、現役の英雄にそこまで言わせるとは、やっぱりレーナ選手は凄い人ですねっ」
インタビューアーがそう言うと、チラホラと先輩の健闘を称える拍手が上がり始め、俺も一緒になって拍手している内に、いつしか会場中の人がレーナ先輩を称えていた。
……すると、それまで倒れていたレーナ先輩が震えながらも立ち上がる。
「っつ、私も、コメントを良いかな?」
『っ、どうぞどうぞ』
インタビューアーがマイクを渡すと、レーナ先輩は咳払いを一つした。
「まず初めに、私を応援してくれていた人たちには本当に、申し訳なかった。ごめん」
言葉と共にレーナ先輩が頭を下げると、会場のそこかしこで「先輩、頭上げてください!」と言う声が聞こえた。
「ただ私個人としては……今回の試合はとても有意義なものに成ったよ。やはり、世界は広かったようだ」
そんな風にはかなげに言うレーナ先輩へ近づくと、俺は首を振った。
「先輩は十分に強い人です。ただ俺は良い師匠や仲間……そして最強の騎士に色々なモノを教わってきたから、勝てただけです」
感謝を胸にしながら視線を上げてみれば、会場の最上段で手を振ってるジェイや、レインさん含めた騎士団の先輩方が見え、少し下を見てみればナナ、ミヨコ姉、ユフィ、シャーロット、ジーク、更に他の同級生達も視界に入る。
「そう……か、なら私がこの学校で過ごした6年間も無駄ではなかったのかな?」
「ええ、胸を張ってください。……それと、もし就職に困ったら、いつでも天空騎士団は先輩をお待ちしていますよ」
冗談交じりにそう言うと、レーナ先輩が目元の涙を拭った後、笑ったのを見て――改めて会場は優しい拍手に包まれた。
◇
その後も少し続いたインタビューを軽く受け流し、コレで長かったクラス対抗試合も終わって帰れる……そう思った所で、ティガース達に捕まってしまう。
そして訳も分からぬまま食堂へと連行された俺を待っていたのは、クラスメイト達による弾けるクラッカーの音の雨だった。
「セン、エキシビションマッチ勝利おめでとー!!」
「あ、あぁ。ありがとう」
そうかんしゃしながら、飾り付けられた食堂を見回していると、壁に掲げられた横断幕が目に留まる。
「おい、あの横断幕、「エキシビションマッチ祝勝会」の祝勝の部分だけ、上から布が張り付けられてるような気がするんだが?」
そう言いながら横断幕へと近づいて行き、下から覗きこんでみると、風にはためいた拍子で布が捲れ上がり、『祝勝会』の下にある『残念会』の文字が見えた。
黙って俺がクラスメイト達を睨みつけると、一斉に頭を下げて来た。
「「すいませんでしたー、まさか勝つとは思ってませんでした!!」」
そんな風に声を揃えて言われ、俺は思わず頭を抱える。
こいつ等、俺の事舐めすぎじゃなかろうか?
「まぁまぁ弟君、そんなに怒らないで上げてよ。私たちも、もしかしたら……って思ってたんだから」
「そうだよお兄ちゃん、試合中結構危ない所も有ったんだし!」
そんな風にミヨコ姉とナナに宥められて、大きくため息を吐く。
「まぁ確かにそうだな。所で、2人は何でいるんだ?」
「私が呼んだから。どうせなら、皆で祝った方がいいでしょ?」
俺が疑問に思っていると、ユフィが答えてくれた。
「んだな……そう言えばジークとリーフィアは?」
「ジークは寮に戻るって言ってた。リーフィア様は……どこだろう?」
ユフィも疑問に思ったのか辺りを見回すが、この部屋にはいない。
リーフィアは騒がしいの好きだから、こういうのは参加するタイプだと思ってたんだが……。
そんな事を考えていると、ティガースが寄って来る。
「そろそろ祝勝会、始めんで」
「ああ、悪い悪い」
謝りながら長机の中心、左右をナナとミヨコ姉に挟まれた席に行くと、ジュースの入ったコップを渡される。
「なんか面白い一言頼むでー」
「無茶ぶりすんなよ、オホンッ」
軽く、咳ばらいを一つする。
「今回は俺の為にこんな催しを開いてくれてありがとう、参加者を見て見れば同じクラスの奴だけじゃなく、男子寮の一部先輩や、クラス委員長として関わった人もいるみたいで……「話長いわっ!今何時やと思ってるんや」」
そう言いながらティガースが、22時を回った時計を指さすと皆が笑った。
いや、俺は真面目に話をしようとだな……そう言おうとしたところで、ティガースに話を持ってかれる。
「もうセンはんには任せとけんわ――皆グラス掲げて……よしよし。それでは、センはんのエキシビションマッチ勝利を祝して……かんぱーい!!」
「かんぱーい」
ティガースの音頭で、勢いよく部屋中でグラスが打ち合わせられる――俺は一人、グラスを手に持ったまま暫く立ち尽くす。……えー。
「ほら、お兄ちゃん」
そう言ってナナがグラスを掲げて来たので、座りながら軽く打ち鳴らすと、ミヨコ姉が立ち上がって俺達の方に来てグラスを合わせ微笑んだ。
「改めて、お兄ちゃんおめでと!」
「弟君、おつかれさま」
「ありがとう、2人とも」
2人の笑顔に癒されながら、テーブルに並べられた料理を取り分けていると、近くに寄って来る影が有った。
「そのぉ……なんていうか」
「なんか用か? シャーロット」
何時にもましてモジモジとしながら、顔を赤らめるシャーロットに問いかけると、キッと睨まれる。
「ア、アンタにしてはまぁまぁ頑張ったんじゃない?」
「お前は何処から目線で話してんだよ」
思わずため息つきながらそう言うと、シャーロットが目を見開く。
「なっ、私が折角褒めてあげたのに!」
「はいはい、悪かったな……取り敢えず、ありがとうな」
そう言ってグラスを掲げると、シャーロットは渋った後に軽くグラスを打ち鳴らし、そのまま自分の席へと戻って行った。
「かーっ、モテる男はつらいって奴かいな?本当やってられんよな、ショータ?」
「まぁ、セン君がモテるのは今に始まった事じゃないけどね」
そんな風に近づいて来たのは、さっき俺の挨拶を中断したティガースと、若干複雑な顔をしたショータだった。……ってか、シャーロットからは少なくともモテててねぇぞ。
「ティガース、お前良くもさっきは話中断してくれたな」
「いや、アレは中断するやろ。多分皆ワイがファインプレイしたと思っとるで?」
そう言いながらティガースが周りを見ると、皆頷いていた……マジか。
「そない落ち込むなって、そんな風にダメな所が有るから、センはんは皆から好かれてるんやから」
「そうだよ、セン君がもし完璧だったら、僕とても近寄れないよ」
「お前らソレ、褒めてんのか?」
頬を引きつらせながら聞き返していると、何やら出入口の方が騒がしくなっているのが見て取れた。
「アレは、リーフィア様だよね?」
ナナがそう言って首を傾げているのを視界に収めながら、改めて扉の方を見ていると――チャールズ皇子が居るのが見えた。
「あっ、センさん。やっぱり此処に居たんですね! もう探しましたよ、折角色々聞きたいことが有ったのに……」
そんな風に大声を上げながら近づいて来るチャールズ皇子に、一部を除いた皆がギョッとしているのを見ながら、思わず大きなため息を吐く。
もう暫く、騒がしい夜は続きそうだ。
――――――――――――――――――――
ここまで読んで頂きありがとうございます。
本ページにて、第2章に関しては終了です。
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