第15話 好感度が足りない?

 寮の裏手には大きな山が有り、ソコには滅多に人が近寄る事も無い。


 故にその付近でジークの魔力を感じてはいたが、それだけなら目くじら立てる程でも無いだろう……そう思っていたが、武器を持って行ったなら話は別だ。


 踏み慣らされていない獣道を歩きながら、うっそうと茂った草木をかき分けて歩いて行くと、開けた場所に出る。


「ッラァ」


 轟音と共に放たれる、3連撃。高速で振られた剣閃は空中に3本の軌跡を残す。


 同時に3撃放たれたのと見紛う攻撃は、奴がどれだけその連撃を繰り返し、技術を磨いて来たのかが良く分かった。


――パチパチパチ


 ゆっくりと、拍手しながら奴――ジークへと近づく。


「何の用だ?」


「どっかの馬鹿が部屋にも帰らず、自主練なんぞしてるから見に来ただけだ」


 そう言うとジークは、盛大な舌打ちを返してくる。


「テメェには関係ネェだろ」


「関係なかねぇだろ、いくら何でも入学して数日で同室が退学になるのは勘弁だぜ?」


 おどけながら俺が、ジークの剣を指さす。……指定された場所以外での武器の使用がダメな事を俺に教えたのは、他ならぬジークだ。


 必然、ジークがここで隠れて自主練をしている事や、今日の授業を抜け出した事も理由が有るのだろう。


「……俺は、誰よりも強くならなきゃいけねぇんだ。テメェよりもな」


 そう言って睨み付けて来るジークの眼は、普段の物よりも酷く余裕が無い様に見える。


 コイツにどんな事情があるのか、俺は知らない。何せコイツはこれだけ強いのに、ゲーム内ではまともに登場もしなかったキャラクターなのだから。


 いや、その表現は正しくないか。


 俺も暫くして思い出したのだが、物語冒頭の主人公が入学式に向かう途中、俺達がホテルに滞在していた街で、肩がぶつかった事を理由に、主人公に文句を言った不良が居た。


 ゲームで言えばチュートリアル的に始まったその戦闘は、不良が丸腰だった事も有り、武装した主人公に一方的に蹂躙され、不良は病院送りになると同時に退学になっている。


 この事件により同居人が居なくなった主人公は、その後自室へヒロインを部屋へ連れ込み放題になったが……恐らくこの退学になった不良こそが、ジークなのだろう。


 ゲーム内で出て来た主人公の部屋番と俺の部屋の番号が同一な時点で、もっと早くに感づくべきだったが。


「お前にどんな理由が有って強く成ろうとしてるのかは知らねぇ、だが退学になるのは辞めろ」


 ザッと空気を裂く音と共に、首元にジークの剣があてがわれる。


「何故テメェはそんなに、俺に干渉してくる」


 鋭い、有無を言わさぬ瞳がソコにはあった。


「俺は――」


 最初はコイツが気に入らなくて喧嘩して、しかし同時にコイツが根っからの悪人ではない事を知った。


 その後も衝突を繰り返しているが、俺はコイツがどうも嫌いに成れなかった……いて理由を上げるなら。


「俺はお前をダチだと思ってるからだよ」


 そう言うとジークは眼を丸くし、笑い出した。


「何笑ってんだよ」


 笑われて初めて自分がこっ恥ずかしい事を言ったことに気づき、思わず顔が熱く成って来る。


「オレとテメェが会ってまだ2日だぜ?」


「うっせえ、ダチになるのに時間とか関係ねぇんだよ」


「はぁ……テメェは、正真正銘のバカだな」


 そう言ったジークの顔は先ほどまでの鬼気迫る物ではなく、僅かに笑っていた。


「だがまぁ、俺もバカになるのも悪くねぇか」


 言葉と共に剣が仕舞われると、俺に向かって拳が突き出されたので、それに打ち合わせた。


 その後俺達は部屋に戻ったが、何故体育館を借りずに裏山なんかで訓練していたのかは、ついぞ教えてはくれなかった。


 まぁそれこそ、ゲーム的に言えばまだ好感度が足りないっていう事なのだろう。





 翌朝俺が起きると、丁度朝のランニングから帰ってシャワーを浴びたジークと顔を合わせた。


「お前、飯どうすんだ?」


 顔を洗った後、制服へと着替えながらそう問いかけると、ジークは嫌そうな顔をした。


「……これから食堂へ行くが?」


「じゃあ、一緒に行こうぜ」


 そう言うと奴は「ウゼェ」とだけ言って、サッサと歩いて行くのに、俺も急いでついて行く。


「そう邪険にすんなって、俺ら友達だろ?」


「……」


「無視すんなって」


 そんなやり取りをしている内に食堂前に到着し、腕時計型の端末を操作すると……ナナからメッセージが入った。


――もう皆席ついてるよ!


 そのメッセージを確認して食堂内を見回してみれば、皆が既に席についているのが見えたので、既に食券を購入し注文しているジークに問いかける。


「今日は皆と一緒でいいか?」


 そう問いかけるとジークがナナ達の方を見て、ため息ついた。


「何でテメェの女たちと一緒に、食わなきゃいけねぇんだよ」


「成程、女性に慣れてないから嫌と?」


「ちげぇよ……オレまで巻き込まれたくねぇだけだ」


 そんな意味深な言葉を残し、ジークが去って行く。


 それに対して俺が思わず首を傾げながら稲庭うどんを受け取り、皆の所へと向かう。


「あの人、例のジーク先輩だよね? 何で一緒に来なかったの?」


「いんや、分からん。何か巻き込まれたくないとか言ってたなぁ」


 そう言うと、ミヨコ姉とリーフィアは首を傾げ、ユフィとナナは何かを察したように苦笑いした。


「ユフィ、何でか分かったのか?」


 微妙な顔をしているユフィに聞いてみると、顎先で周囲を示した。


 それに釣られて周囲を見回して……俺は後悔した。


「えっ、何? 普通に怖いんだが」


「どうかしたの弟君? 熱でもあるの?」


 そう言いながらミヨコ姉が俺の額へと手を伸ばし――同時に、どこかからギリッと歯を食いしばる音が聞こえて来る。下手なホラーより怖い。


「あぁ、私のお姉さまが」


「皆のお姉ちゃん、ミヨコさんが……」


 怨念の様な、地を這うような声がしてくる……いや、ミヨコ姉は俺の姉だ、誰にも渡す気は無い。


「ん? 何やら楽しそうな事になってるわね?」


 周囲の状況を察したのだろう、リーフィアが辺りを見回してニヤリと笑うと……俺に抱き着いて来た。


「うおっ」


「ははっ、驚きすぎよ。セン」


 豊満な何かが胸元に当たる感触に思わず絶句していると、更に周囲から殺気の様なものを感じる気がする。


「アーッ、皇女殿下までもが毒牙に!」


「アイツマジで早く爆発しねぇかな」


 悲鳴の様な呪詛の様な何かが聞こえて来るのを無視しながら、うどんを啜り始めると、最も近くから怒気を放っているユフィから問いかけられる。


「そんなに鼻の下伸ばして、最低……」


「いや、鼻の下は伸ばしてないぞ?」


「一度鏡で見て来ると良い」


 頬を膨らませているのを髪で隠しながら、ユフィがそっぽを向く。


「お兄ちゃんモテモテだね」


 そんな風にナナが言ってきて、思わず頬をかく。


「モテモテとは違うと思うけどな」


 皆から好意は持たれるとは思うが、果たしてそれが恋愛感情かと言うと難しいだろう。


 リーフィアは単純に俺の事をおちょくっている様に見えるし、ミヨコ姉やナナはどちらかと言うと家族愛と言った方が強いだろう。


 ユフィに関しては……まぁ、否定も肯定も難しい。


「えーでもお兄ちゃん、意外ともう下級生の間でも話題になってるよ?」


「えっ、まじで?」


「うん、マジで」


 その言葉に俺は思わず嬉しくなってしまう……いやまぁ、此処に居る皆から好かれればいればいいと思ってはいるけど、やっぱり男の子としてね?


 そんな事を考えていると、突然肩をトントンと叩かれた。


 何かこの前のストーの時のシチュエーションに似てるなぁ何て思って振り返ると、ソコには20人以上の血涙を流したゴツイ男たちが列をなして立って、屋外を親指で指していた。


 更にその列は徐々に増えていってる。


「……スー」


 大きく息を吸い込む……皆が呆れた様な顔をしているのが見えたが、それを気にしている余裕はなさそうだ。


「……ハー」


 大きく息を吐き出し、椅子から立ち上がると――俺は、全力で食堂を駆け抜ける。


「「「待てやゴルァッ」」」


 そんな叫び声と、背後から迫りくる地鳴りの音を聞きながら、盛大な脱出撃を敢行した。


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