2章
第1話 妹と幼馴染がいつの間にか大きくなってる件について
何処からか声が聞こえる気がする。それは懐かしい夢の様でいて、どこか違う様な不思議な感覚。
「……ちゃん、お兄ちゃん」
体を揺すられる様な感触に瞼を開けてみれば……そこには15歳にまで成長し、身長その他諸々が成長したナナがベッド脇に立って居た。
「……夢か」
未だ幼くて、俺の後ろについて回っていたナナが、こんなに大きくなっている訳が無いと、再び布団にもぐった。
「夢か……じゃないよ、お姉ちゃんが居なくなってから、本っ当にお兄ちゃんだらしなくなったよね!」
そう言われて耳を塞いでいると、隊長に就任したことで個室となった俺の部屋の扉が勝手に開かれ、同時に呆れる様な声が聞こえた。
「はぁ、もうその年でナナちゃんに起こされるのは、辞めた方が良いですよ?セン」
そんなユフィの声にしょうがなく体を起こしてみれば、腰ほどまで髪を伸ばし、騎士団の制服を着たユフィが立って居た。――なお、何処とは言わないが一部は余り大きくなっていない、っと睨まれた。
「おはよう、ユフィ」
「おはようございます。はぁ……これが私たちの隊長だと思うと、頭が痛くなってきますね」
それだけ言うとユフィはその銀色の髪をはためかせながら、部屋から出て行った。同時にナナが俺の方へと、顔を近づけて来る。
「目、覚めた?」
ナナが俺の両頬をつねりながら、聞いてくる。
「ふぁめたから、ふぁめてくれ」
そう言うと、ナナが手を放してくれる。……てか、最近兄への扱いが雑な気がするが気のせいか?妹よ。
「全くもう、じゃあ私も先行ってるからね?早く準備して来るんだよ?」
そう言ってナナが部屋を出ていくのを見送ると、ベッドから起き上がって、制服に袖を通す。
昔は裾直ししないと着れる制服も無かったが、今では身長も175cmを超えたおかげで問題なく既製品を着れるようになった。
「今日も頼むぜ、相棒」
そう言いながら11の時から使い続けている宝玉付きのナイフを腰に差すと、廊下へ出た。
「よう、今日もまた嬢ちゃんたちに起こされていいご身分だな」
そう言ってからかってきたのは、最近しわが出来始め老けて来たジェイ。まぁ、前そのこと指摘したら、アイアンクロー食らったが。
「そう思うなら、副団長代理様もいい加減結婚するなりしろよ」
言葉を発すると同時、ジェイの拳が飛んできてソレを横っ飛びに躱す。
「あっぶねぇだろ、当たったらどうすんだ」
「ちっ、最近めっきりすばしっこく成りやがって」
悪態を吐きながらコンビネーションパンチしてくるジェイの拳を躱していると、部屋から廊下に出て来た隊員たちがはやし立て始める。
「やっちまえジェイ、非モテの根性見せつけろ!」
「ジェイ、我が隊の天使たちを独り占めする糞野郎をぶっ潰せ!」
「俺の味方は居ねぇのかよ!」
ジェイの拳を躱しながら叫んでみると、ジェイを含めた皆が首を傾げた。……なんだよ?
「コイツが有罪だと思う人挙手!」
そう言ってジェイが声を上げると同時、まだ部屋に居た連中まで扉から手を出して上げている。……その数、軽く20は超えている。
「という事だ、覚悟は出来てるな?」
そう声がかけられると同時、俺は全速力で廊下を駆け抜け……同時に、背後から大量の怒声が上がった。
◇
「そんな理由でお兄ちゃんは、朝からそんなにボロボロなの?」
朝食のオムレツを突きながらナナが呆れた様に、俺のヨレた制服を見て来る。同時に、隣に座っていたユフィが俺の方へと手を伸ばしてくる。
「そんな恰好では他の人に示しがつきませんよ、セン」
そう言ってユフィが、襟元を正してくれた……嬉しいんだが、ユフィさん俺達の話聞いてました?
――ギランッ
そんな音が聞こえるぐらいに、離れた場所で朝食を取っていた男隊員達からガンを飛ばされる。そしてそれに気づいたナナが、曖昧な笑いをしていた。
「そ、そう言えば、今日私たちに大事な話が有るって団長が言ってたよ!」
話を逸らす様にナナがそう言って来て、俺も昨日団長から話が有ると言われたのを思い出す。
「ユフィは何か話聞いてるか?」
「いいえ、聞いてません」
そう言いながらユフィが横に首を振った拍子に、桃色の髪飾りが揺れるのが見えて、思わず口の端が上がってしまう。
「何ですか?」
「いんや、何でもない。皿まとめて片付けて来るよ」
ジト目のユフィからの視線を躱す様にそう言うと、3人分の皿を持って返却口へと持って行った。
「相変わらず、アンタたちは仲いいね」
そんな事を食堂のおばちゃんに言われて思わず背筋が痒くなりながら、「どうも」とだけ言って2人の所へと戻った。
「そいじゃ、団長の所行きますかね」
俺が尋ねたのに対し2人が頷くのを確認すると、食堂を出て団長の執務室へ向かう。
――コン、コン、コン
「誰だー?」
ノックをすると、いつも通り間延びした団長の声が聞こえて来る。
「センとユフィ、ナナです」
「ああ、センたちか。入ってくれ」
そう言われて扉を開けると、いつも通りの書類の山に囲まれて、団長が座って事務作業していた。……いや、以前より書類の数が増えている気がする。
「昨日何か話が有るって、聞いてたから来たんですが、出直した方が良いですか?」
忙しなく腕を動かす団長を見て思わず問いかけるが、団長は腕を動かしながらも首を横に振る。
「いんや、良い。お前らに来てもらったのは、ミヨコとも関係するんだが……」
そう言って、俺に一枚の紙とパンフレットを渡してくる。
「えーっと、ミレーヌ王立魔法学院入学届?」
「こっちがユフィので、こっちがナナのだな」
そう言ってユフィに俺と同様の紙を渡し、ナナには転入届の紙を渡した。……って事は?
「お前らには王立魔法学院に行ってもらう、まぁお前らの知っての通り、ミヨコが去年入学してるから分からない事あれば、そっちに聞いてくれ」
「いいや、今の時期俺達が抜けるのは厳しいんじゃないですか?」
思わず俺は団長にそう問いかける。5年前は入団したてだった俺達も、今では騎士団きっての武闘派に成っている。それに……。
「まだべノン姐さんも産休から戻って来てないんですし」
そう言って俺は、団長の薬指に嵌った指輪を見る。
「いや、俺だってお前らを学園に何て出したくねぇよ?去年ミヨコを出したのだって相当渋ったんだから……だけどよ、これ見ろ」
持ち出し不可とデカデカとハンコが押された1枚の紙を団長が見せてきて、それを手に取ってみる。
「えーっと、隣国ベンデンバーグ皇国の第一皇女入学に伴う護衛依頼?」
「あぁ、一昨年辺りから話は上がっていたから、事前に学院についてミヨコに探らせていたが、いよいよもってご入学って話になってな。実力的にも年齢的にも適任がお前ら以外いないってんで、お鉢が回って来たわけだ」
そう言ってる間にも団長はため息を吐きながら、書類を整理していく。
「私たちにもこれ渡したって事は……3人で入学って事なんですよね?」
何処か嬉しそうな顔をして尋ねるナナに団長が頷くと、ナナは小さく「やった」と言ってガッツポーズをする。
「ミレーヌ王立魔法学院と言えば、国内屈指の名門校ですが、我々は入学試験などあるのでしょうか?もう入学式まで時期も無いと思われますが」
ユフィがそう尋ねるのを聞いて、俺も思わず考える。もう既に3月を2週過ぎた時点なのに、これから入学試験などあり得るのだろうか?
「それについては心配無用だ、俺の名前で推薦状書いたら、3人とも無試験でいいと言われた……寧ろ俺とミヨコの身内だと言ったら歓迎されたぜ」
悪戯っぽく笑う団長に、俺は思わずため息を吐く。
去年ミヨコ姉が入学するにあたり、俺達兄妹は団長の養子としてアステリオスの名前を継いだため、戸籍上は身内となった。なおユフィはシスター……マーサ・カレリンの養子であるため、ユフィ・カレリンと書類に記載されている。
「はぁ……まぁミヨコ姉とこれから一緒に居られるって言うなら、文句は無いですけどね」
そう言いながらも俺は、今後面倒なことに成る気配をヒシヒシと感じていた……なんせ、ミレーヌ王立魔法学院と言えば、ゲームの舞台となった場所なのだから。
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