-03.カアサンズ結成

 俺たちはそのまま、夕食を食べに出かけた。

 今日から日曜日までは、全員で合宿だ。

 それぞれが試したいことや、話したいことをこの際いろいろと話し合おうということになっている。

 ご飯に出るタイミングで、妹の美香から電話があった。

 泊まり込みするという話を今聞いたらしく、私も仲間に入れろという。

 みんなに許可を取ってから、妹と母さんが車で駅前のチャイニーズレストランまでやってきた。美香はお泊りセットとしてかばんを持ってきている。

 かあさんにもみんなを紹介し、みんなでご飯を食べた。


 どうせならと思い、夕食後母さんに俺だけ乗せてもらって、郊外のホームセンターに連れて行ってもらい、マンションで使うやかんや鍋、フライパン、寝袋などを大量に購入した。こういう風になるとは思わなかったからね。

 俺と母さんは買い物を済ませた後、スーパーマーケットにも寄った。

 ここではレトルト食品や米、各種ジュース、食器、飲料水なども買い込んだ。

 大量の商品を車に運ぶふりをして、アイテムボックスに収納していった。


「社長は大変だね。」

 と母さんにからかわれた。

「大変だけど、それもまたいいんだよ。」

 と返しておいた。


 今日は母さんも泊まり込みに参加するようだ。

 年ごろの子供さんが多いからね。一応監視の意味も込めているんだろう。

 車の中には母さんの着替えなどが入ったバッグもあった。


 俺たちは会社に戻ってきて、それぞれ話している中悪いけどさっきまでの続きをすることにした。

「みんな申し訳ないけど俺の以心伝心とラーニングの実証にもう少し付き合ってね。次は並行してそれぞれの人に別の知識をラーニングさせられるかどうかを試してみたいんだ。母さんと美香は護身術からね。そのあとには中学生から高校生までの教科書全部を学んでもらうね。みんなにはそれぞれ専門分野の経理や経営、営業などのビジネス書をいくつか学んでもらおうと考えています。じゃあ、みんな横になってね。」

 美香と母さんは初めてなので、戸惑いながらも横になってくれた。

 さて、できるかな。

 美香と母さんからまず杖術、合気道、太極拳を頭の中でセットする。みんなには、営業、経理、経営などのビジネス書を何冊かセットする。そして同時にスタートさせた。

 開始早々は少し頭が重く感じたが、すぐに大丈夫になって、そのままラーニングが発動していった。


 成功しているようだな。


 俺はもう一つ、俺自身が、この状態のまま別の作業ができるか試してみた。

 すでにアイテムボックスに入れてラーニング済みの書籍のリスト化だ。

 ノートPCを取り出して、頭の中のリストを次々に打ち込んでいった。

 この表をもとに、みんなにラーニングしたい項目を選んでもらおうと考えているのだ。

 1時間が過ぎ、母さんと美香が復帰した。


 聞いてみると頭の中に面白いように知識が入り込んできて身体をどう動かせばいいのかわかってくるらしい。次に続けて中学生から高校生までの教科書を学んでもらう。これは母さんのように大人になっても効果があるか知ってみたいのだ。

 母さんと美香はまた寝転んで再びラーニングを開始した。

 それから一時間後、俺がリストの整理が終わったころに全員が復帰してきた。


 俺が想像したとおり、ラーニング中は思考速度が少し遅くなり、けだるい感じがするようだ。何らかの負荷が身体と頭にかかってるんだろうね。

 俺はちょうどリスト化した書籍タイトルをみんなに配って、自分が学びたい項目に〇をつけて行ってもらった。

 今日は一晩ラーニングをして過ごす予定だ。

 俺も、みんなもかなりお腹が空いていた。やはりエネルギーを消耗するんだろうか?

 母さん主導で夜食を作り始めた。

 俺は買いこんできた食材を次々に言われるままに出していった。

 アイテムボックスに入っている限り劣化はないからね。牛乳や卵なんてのも消費期限を気にしなくていいからすごく便利だ。

 やがて、ハンバーグ定食と言えるような夜食ができてきた。

 みんな喜んで会議机で並んで食べた。

 うん、やはり母さんの作ったご飯はおいしいや。


 母さんはご飯を食べた後、それぞれの家に電話をさせて、母さんが代わって挨拶をしてくれた。この合宿中は母さんが付き添って悪いことしてないか見張りますって面白そうに話していた。明日以降でこれる日にはそれぞれのお母さん方が、ここに来るようだ。

 うんうん。まだ俺たちは未成年者だからね。親の確認は必要だよな。

 みんなと美香と母さんはそれぞれ会社のも含めて携帯電話の番号を交換している。

 これもリスト化しておいた方がいいよな。

 かあさんが電話を終えて、俺に話しかけてきた。


「三好さんと井之口さんのお母さんも今日ここに来たいそうなので、歓迎しておいたわよ。あの二家庭は母子家庭みたいね。それでかなり心配しているようなの。」

「なるほどね。それは配慮が足りなかったね。ねぇ、かあさん。少し相談があるんだけど。」

 と俺はこの会社に大人がいないこと、昼間は学校で俺たちは動けないと俺たちだけでやることの限界を話した。

「でね、母さんやそれぞれのお母さん方にも会社に入ってもらえないかなと考えているんだ。もちろん給料は出すよ。そうだな、ひと月30万円ぐらいかな。下手にパートするよりは出せると思うんだ。今はまだ、呉服屋さんの補修だけだけど、1月で1,000万円程は売り上げがあるからね。俺たちも同じぐらいの給与にしようと思ってるんだ。それで20人でも600万円ほどだからね。俺たちにはそれ以外にも株の取り引きなんかの強みもあるしね。」

「やる。やるわ。いつもあなたたちのご飯作るだけなんで暇だったのよ。で、他にはどんなこと考えてるの?」

 俺がそれにこたえようとすると、チャイムが鳴り、三好さんと井之口さんのお母さんが来られたようで、二人にホールまで迎えに出ていった。

「ちょうどお母さん方も来たようなんで一緒に話すね。」

 すると美香が

「ねえ、私も仲間に入れてよ。私だけ仲間外れは嫌。」

 と言い出した。

「うん、いいよ。みんなにも確認とってからだけど美香にも頑張ってもらうか。」

「やったー!」

 とはしゃぎだした。


 またチャイムが鳴り、三好さんと井之口さんがそれぞれお母さんを伴って入ってきた。

 お母さん方はまさか最上階の部屋を使って会社をしているとは思っていなかったようで、ポカーンとしていた。

 俺は全員を前にしてお母さん方にも参加してもらおうと考えていることを話した。

 みんな賛同してくれた。ついでに美香が参加することの承認も取った。

 お母さん方を説得しないとね。

「初めまして、玉田紀夫と言います。この【マジカル・ワールド】の社長をしています。といっても登記が成立するのは2週間ほど先なんですが。」

 と頭を掻いた。

「今はリフォーム、リメイクを中心に商売を広げようと考えているんです。すでに呉竹呉服店さんから月に1,000万円分ほどの着物の補修、清掃を請け負っています。娘さんたちにも、業務の幅を広げるためのアイデアを出してもらったり、様々なことをお手伝いいただいています。見ての通り、未成年ばかりの会社なので、大人が必要だなと感じていたんです。先ほどうちのかあさんには参加してくれると承諾をもらいました。失礼ですが、今のお仕事にやりがいや満足は感じてますか?若造が偉そうに言ってごめんなさい。でもうちの会社に来ていただければとりあえず、月に30万円お出しします。それ以外にもうちの会社は株取引なんかもやっていくので、それを個人的に投資していただければ、あっという間に資産が作れると思います。これらのからくりにはいくつか秘密があるのですが、決して非合法なものではありません。僕個人の能力なんです。それをみんなでうまく使うことを考えて、みんなで幸せになれればと考えているんです。」

 と、ここで話を切った。それぞれのお母さんの横には娘さんが座っているが、お互いに話をしだした。


 秘密厳守を守っていただくようにお願いし、まず寝転んでもらってラーニングを体験してもらった。それぞれ娘さんには傍についていてもらった。中学校から高校までの教科書知識。これって大人になっても結構重要だと思うんだよね。それから護身術。杖術、合気道、太極拳。俺がこの3つを選んだのには理由がある。子供からお年寄りまで学習が可能で、慣れればなれるほど、強くなれるところが気に入っている。いわゆる功夫というのが鍛えられるそうだ。そのうち幻と言われている八極拳なんかも学んでみたい。


 2時間後。二人は復帰した。どうやら俺が言っていることが理解できてきたようだ。

 すると三好さんのお母さんが

「娘と働けるなんて、理想的です。ぜひここで働かせてください。実は今お弁当屋で働いているんですが、給料も安く、売り上げも落ち始めて、リストラに会いそうだったんです。頑張りますので是非お願いします。」

 すると井之口さんのお母さんも

「うちも母子家庭で、今までいくつもパートを掛け持ちしたりして、この子には寂しい思いばかりさせていたんで…。私ができることなら何でもしますので、ここで働かせて下さい。」

 と二人ともがうちの会社に来てくれることが決まった。


 みんなは拍手で迎え入れた。

 それぞれ子供から僕の秘密は話しておいてねと、以心伝心で三好さんと井之口さんに語り掛けた。

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