01.豪運【4/1】

 スマホにメールが届いたようだ。


 俺がポケットからスマホを取り出すと

「歩きスマホしてると事故にあうよ。」

 と予言のようにしおりが言ってきた。


 俺はちょっと引いて、でもそれもそうだなとポケットにスマホを落とした。

 それから俺は高校までしおりと話しながら登校した。


 途中、同じ中学だった奴らが合流するたびに

「あ、ふりかけコンビだ!」

 と指さされて、声を掛けられていた。

 そのたびにしおりは

「ふりかけ言うな!!」

 と怒っていた。

 もう俺はあきらめたよ。


「ところでのりたま。お前相変わらずゴマ塩と仲いいよな。この春休みの間にちょっとは進展したのかよ。」

 と俺の腐れ縁ナンバーツーが話しかけてきた。

「いや、全然。お前も知ってるだろ?俺は出会ったその瞬間に振られてるんだぜ。」

 そう。俺がしおりに速攻で振られたときにこの男もすぐそばにいて、逃げていくしおりを俺と同じように口をポカーンと開けて見送っていた男だ。

「あれはお前が悪いぞ。だって誰があんなにいきなり告白すると思う?逃げてったごま塩にもあきれたけど、出会った瞬間に好きだって告白するお前にもあきれたぞ。」

 とその場で唯一冷静であっただろう米田義男君がそう言って俺の肩をポンポンと叩いた。

 俺たちはじゃれあいながら高校の門をくぐった。これから3年間お世話になる学び舎だ。さて、俺は何組になったのかな?


 下足室の壁にクラス分けの紙が貼られていた。

 俺は自分の名前を探した。


 あった。


 俺は3組。しおりは1組。義男は2組か。

 きれいにばらけたな。


 まあ、それぞれ新しい人間関係を作るってことでいいんじゃね?

 …いや、実は思いのほかショックを受けてた。

 中学3年間いつも同じクラスだったから、無意識に高校でも同じクラスとばっか思ってた。

 それがこんなにショックだったとは。

 昼休みに机を寄せてわいわい騒ぎながら食べる弁当も、授業中何気ないときに目に入るしおりの横顔も、義男は…義男はまあいいか。

 そうか。俺はしおりと離れることがこんなにショックだったんだ。


「残念だな。三人ともバラバラになっちまったな。」

 と義男が俺の肩を叩いてそういった。

「あ…ああ。残念だな。」

 俺はそう返すのがやっとだった。動揺しているところを見られたらかっこ悪いしな。

「う~~ん。先生に言ったらクラス変えてくれないかな?」

 としおりがいう。

「いやいや、無茶言うなよ。案外同じ中学の、仲のいい奴らはバラバラにされてるのかもな。そうやって新しい人間関係で高校で新しい友達を作りなさいってことじゃねぇ?」

 と義男にしてはまともなことを言った。


 いや、決して義男がバカなわけじゃない。成績だってかなりいい。

 しかしこの男。空気を読まずに暴言を発することがよくあるのだ。

 俺は驚いた顔で義男を見た。こいつ、高校生になって進化しやがった。


 空気を読めないサルから、空気が読める猿に!


「お前、今頭ン中で俺のこと馬鹿にしてるだろ?なに目ぇキラキラして俺のこと見てんだよ。」

「いや~。義男様があまりにまともなこと言うんで、てっきり…」

「てっきりなんだよ。」

「てっきり義男じゃないのかと思って改めて見てたんだよ。」

「やっぱり馬鹿にしてるじゃねぇか。」

 俺たちはそんなたわいもないことを話しながら上履きに履き替えて、それぞれのクラスに向かった。

 しおりは元気がなさそうだけど、クラスに入る前に

「よし!」

 と気合を入れて握りこぶしを胸の前で作ってた。


 なんだ?あのいちいちかわいい生き物は…。


 俺も自分のクラスに行くとしよう。


 3組の教室の中に入ると、それぞれがもう集まって話をしている。

 黒板に席と名前が書いてあった。

 どれどれ…。

 俺は自分の名前を見つけた。一番後ろの一番奥?

 なんだ。特等席じゃないか。

 俺は気分よくクラスの一番奥の席に向かって座った。

 隣は男、前も男。


 なんてこった。

 高校生デビューのファーストコンタクトが空振りだと?

 俺は呆然と隣の男を見てると、その男は俺に気づいてあいさつしだした。

「初めまして。隣の席だね。よろしく。僕はつばさって言います。加藤翼。よろしく。」

 といって俺に握手を求めてきた。

「俺は玉田紀夫、よろしく。」

 と握手を交わした。


 こいつ、えらくすんなり初対面の俺に握手を求めやがった。

 俺はアメリカに単身赴任している父のところに母と妹と年に数度行っていた。

 このつばさってやつの握手スキルは、欧米人のそれだ。

 こいつ、よく見ると男前じゃないか。それになんかさわやかだ。

 俺は握手はしたものの格差を見せつけられた気がして、少しいじけた。

 俺は自分の席に座りなおした。


 あ、そういえばなんかメール来てたな。

 俺はポケットからスマホを取り出してメールのアプリを立ち上げた。


 あれ、このメールって昨日の夜中に来てたんだ。

 0時だったから俺はもう寝てて気づかなかったんだな。


 ん?じゃあ、なんで登校途中でバイブしたんだろう?

 俺は少し疑問を持ったが、届いていたメールのタイトルを見てさらに首をひねった?


「週刊スキルメール?」

 メルマガかなんかかな?

 俺はメールを開いて本文を読んだ。

「こんにちは。初めまして。運営事務局のキャサリンです。今日から一年間あなたに毎週スキルをお届けいたします。まず第1週目のスキルはこれだ!」

 と書いてあった。いや、突っ込みどころ満載だな。スルーするけど。

「01.【豪運(ごううん)】

 運気が上がる。賭け事で当たりやすくなる。感が冴える。


 さあ、このスキルを使って君もきょうからモテモテだね。

 このスキルメールは1年間毎週届くよ。

 毎週届くのでなるべくその週のうちに使いこなせるようになっておいてね。

 来週はどんなスキルかな?

 それでは来週をお楽しみに!」


 俺は少し呆けた。

 運営会社は…ヘブンドア?

 キャサリン?スキル?

 メールアドレスは…angeldust@heavendoor.world

 なんだこのドメインアドレス。

 .worldなんて見たことないぞ。


 そこへ若い女の人がクラスに入ってきた。

 どうやら担任の先生のようだ。

 俺は急いでポケットにスマホを入れた。

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