国王陛下の回顧録
@alphadead
プロローグ
エーテ王国第45代国王陛下「ラーデル・カーク」
準王族序列第2位「ラーデル家」の長男として生まれ、28歳に当時王女殿下であった「ウィンストン・シェリー」女王陛下とご結婚なされた。しかし、それまでの間の過去を記した物が一切存在していないため、本当にラーデル・カークであるという疑問を呈していた国民が数多く存在しており、他国も例外ではなかった。当時王女殿下の最初の婚約者、いえ、非常に短命であった先代の第44代国王「ユンス・ヘンリー」という「暗黒時代」の再来の気配がなければ良しとされているからか、そんな疑問すら思うことがなくなり、ラーデル国王陛下の敷く善政と女王陛下の幸せそうなお姿を見かけること多くなったことも相まって国民の誰もが国王陛下に従順である。
とはいえ、国王陛下の若かりし頃のご活躍について知りたいということは国民の総意であり、たとえ田舎の平民であったとしても国王陛下への思いは変わらない。
ある日の昼すぎ
その思いが届いたのかは分からないけれど、地方の新聞記者兼作家である私「チェイス・マリー」が王室庁から取材許可を頂いて、首都「ブライス」にある国王女王両陛下のお住まいである「ブライス宮殿」の謁見の間ではなく、国王陛下の書斎に通された。
非常に異例なことであり、私は取材のことを忘れそうなほど緊張してしまったが、責めないで欲しい。些細な取材でも謁見の間以外の場所を許可されたことがないのだから。
それはさておき、通されて案内された椅子に座っていますが、謁見の間からは想像できないほど質素であったものの国王様の偉大な風格が損なわれておらず、学問へのあくなき探求心があることが伺える。そして、女王様を大切に思っていることも。
不躾ながら書斎を見回していると扉が開き、私を案内した者が入ってきて国王様が間もなく来られることを告げられ、襟を正して起立して頭を深々と下げた。
『客人の案内ありがとう。お茶を用意したら下がって』
「御意」
あれ、この声すごい聞き覚えがあるのだが、気のせいかな。
おっと、名乗るだけで私自身の細かい紹介を忘れてしまいました。
私はエーテ王国の首都郊外にあるウェリン州の小さな田舎に生まれ、結構とんでもない阿婆擦れでした。所謂不良だったわけであったけれども、高校に入って卒業の数か月前にバカをやらかして警察にしょっ引かれちゃいました。そして、軍か刑務所のどっちに入るかと聞かれて軍に入ることになった。そこで色々としごかれて無事に更生しましたよ。もちろん、入ってからやらかしてはいないよ。ホントダヨ。私は嘘なんてつかないよ。
はい、そこで要らぬことを考えた君は私のところに来なさい。みっちりと私の正直さについて教育してやる。
さて、脱線してしまいましたが、やんちゃしていた割に成績が良いおかげで当時は創設されて間もないの空軍の新設部隊「特別爆撃飛行隊」に機上無線士として配属されることになった。特別なんて名前は入っていたけれども、女性の社会進出の風潮をどうにか応えるために軍が渋々作った部隊で、扱いに困った阿婆擦れの溜まりにすぎなかった。当然出来た当初は任務なんてものはなく、演習なんかあるかすら怪しかった。
しかし、私が配属されて二か月後に飛行隊長として就任した「グレース・メイ」中佐によってまともな部隊へと成りあがった。男爵の娘であった隊長と何度も衝突案件があったにもかからわず、彼女の手腕で部隊は正常な形を成して阿婆擦れ部隊と呼ばれなくなりつつあった頃に第101爆撃飛行隊本部連絡官兼爆撃機操縦士として「ウェールズ・クリス」少尉という男が来た。彼が私に、いや、部隊にとっても衝撃的だった。男であったこともそうだが、平民と言っている割に所作とかが明らかに貴族かそれ以上のものがあったが、彼は一貫して貧しい平民であると言っていたことや、士官候補生学校では卒業次席となるほど成績優秀な新品少尉だったにもかからわず、ここに赴任したことが原因だった。
来たばかりの頃は色々と噂が飛び交い、ゲイだったとか、貴族の不倫相手の子どもとか、対戦相手国であったゲルマニア第二帝国の混血児だったという根も葉もないことが流れていた。
彼は隊長機の副操縦士となり、飛行隊長の補佐をしたりしていた。
操縦の腕は非常に優秀であり、私のミスすらフォローする出来る人だったり、決して私たちが女だからって見下したりはしなかった本当の紳士だったと私は胸を張っていえる。
本部と喧嘩してケガを負ったことは何度あったという話があっても否定して階段で転んだとかドアにぶつかったと言って誤魔化していた。
隊長が心配しても否定し、逆に心配かけさせてしまったことで謝るくらいだった。
そんなこともあって当初の噂は消えていき、私はなぜか彼に惹かれていった。顔はすごいイケメンというわけではないけれど、操縦している時や性格が格好良かった。
たぶん、私以外に隊長や「フランク・レイリ」整備長も彼のことが好きだったと思う。
戦争が終わった日に彼は私たちに黙って消えていた。
軍を辞めたことが分かったのは消えてから2日後だった。さらに1週間後に軍と王室庁によるクーデターが起きて、彼の消息を知ることが出来なくなった。
我々はクーデターに参加することはなかった。
なぜなら、「特別爆撃飛行隊」は解散していた。
飛行隊長は部隊を解散させたのが相当辛かったのか実家に逃げるようにして帰り、整備長は首都で就職したりと、みんなバラバラになってしまった。
しかし、みんな彼のことを忘れたわけではなかった。
だから私は地方の新聞記者兼作家になって、彼のことを探しているけれども音沙汰何一つない。
って、なんでこんな自己紹介から彼の話になったんだっけ?
国王様の声を聴いてそうなったとすれば、私は相当やられているみたいね。
『顔を上げてください、ウェリン新聞社の記者。いや、チェイス軍曹』
ビックリしてバッと顔を上げるとそこには国王の普段お召しになれていると噂されているスーツに身を包んでいるクリス少尉がいた。まさか国王なっていたとは思わなかったけれど、それを考える前に体が動いてしまった。
「このバカ貴族ゲイ少尉がぁ!どこに寝ぼけてやがった!!!」
と思いっきり罵って殴ってしまった。
『待て待て、私はゲイでないわぁ!』
かなり力強く殴ったはずなのに飄々としているこの野郎に腹立つ前にやってしまったことを冷静になってみると冷や汗が止まらなかった。
曲がりなりにも国王である彼を殴ってしまったという事実がどれほど不味いことかは想像するまでもなかった。
『黙って消えたことについては謝るが、その前にお茶を飲まないか。冷めたらおいしくなくなるから』
謝罪しようとしたら何もなかったことにしようとした彼の言葉に甘えて椅子に座ることにした。まあ、不敬罪で死にたくもないし、出された紅茶はおいしく頂かないとエーテ国民として末代の恥になっちゃうからね。話はじっくりとさせてもらうけども。
紅茶を一口含むと彼から話の火ぶたが切り落された。
『あなた、いや、みんなになにも言わずに消えたことは本当に申し訳ないと思っている。だが、これにはかなり深いわけがある。』
浮気がバレた男のようなセリフとともに頭を下げられてしまった。
なんか一つくらい文句を言おうと思ったが、さすがに国王になった彼相手にそれをする気も起きなかったし、姿そのものが本当に色々とあったことを物語っていた。
(これは相当な乱気流を覚悟しないといけないみたいね。)
そう覚悟していたと同時に私の初恋が終わった大きな悲しみと死ぬ前に彼にもう一度会えた僅かな喜びが胸の中で混ざってグチャグチャな醜いものが住んでしまった。
だから、殴ってしまった。本当は
そして彼が、いや国王が語る話は小説のような出来事以上で想像を絶するものだった。
だけど、その前に殴ってしまった時に私の案内した方の視線が怖かったことが記憶に刻まれていた。その視線の殺気で冷静になれたのは良かったが、彼女が手にしていた武器を見て腰を抜かしそうになり、漏らしそうになったのはここだけの秘密である。
普通に護衛用として45口径の拳銃を持つか、女が。
私も同じ女だが、あんな殺す気満々なものを持てる自信がねぇ。
対した女だよ、飛行隊長といい勝負するよ。
さて、ここからは話が長いから紅茶を一杯飲んでから続きを、、、
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