【承】ゴーゴー蟲娘

ラムジー・キャンベル著『妖虫』より抜粋


 シャンと呼ばれるその種族は、宇宙の最果ての星シャッガイで暮らしていた、昆虫のような姿をした知的生物である。シャッガイが滅びた後、彼らの一部は天王星に定着したが、何らかの理由からそのまた一部が地球に移り住んだ。

 彼らは地球人類から見れば寄生生物である。人間の脳に入り込み、記憶を読み取り、その行動を操る。彼らは夜間にしか行動する事ができないため、シャッガイに憑かれた人間は、事がままある。


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「きゃああああああああっ!!」

「うわあっ!?」


 朝目が覚めて、素っ裸で男と絡み合って寝ていたことに気付いた私は、悲鳴を上げてその場から飛び退いた。彼もひっくり返った。


 自分が何をして、その結果どうなり、そして今がある、一部始終覚えている。覚えてはいるのだが、何故だか分からないが感情がついていかなかった。ゆうべの自分は自分ではなかったみたいだ。


「どうしたの? 今さら照れくさくなった?」


 彼は微笑む。その微笑みの柔らかさが、また私にとっては気恥ずかしかった。


「しゃしゃしゃ、シャワー浴びてくるッ! それじゃ!」

「一緒に入っていい?」

「駄目!」

「りょーかい」


 さて。私は言葉通りにシャワーを浴びて、上から下まできっちり服を改め寝室に戻った。


「じゃ、僕もシャワー借りるね」

「は、はい。どうぞ」


 私は冷たい飲み物の用意などをして彼を待つ。なんだろう、この時間。その……別に、何か誰かに対して文句や不満があるわけではないんだけど。


 私は自分の頭の上のキノコ的な何かにかすかに手をやる。触れはしない。触れるのは、なんだかひどく恐ろしいのだ。どういう感情なのか、自分でもわからないのだけど。


 ところで、私がキノコ人間になった経緯らしきことの話をしよう。


 このD坂の上に、ずっと昔から人が住んでいない洋館があった。それが、取り壊されるという話を聞いた。それで、私は無謀にもその洋館に忍び込んで探検しようとした。らしい。今から一年くらい前。


 らしいというのは、覚えていないからだ。


「覚えていない? そんな大きなことを忘れてしまえるものなの?」


 寝室に戻ってきている彼が相槌を打つ。


「その洋館の中で、何かがあったんだろうけど。そのあと一か月くらいね、あたし、記憶喪失だったの」

「ほう」

「一か月くらいかけて、だいたいのことは思い出せたんだけど……そのとき洋館で何があったかだけは、どうしても思い出せなくて。洋館の取り壊し自体はちゃんと終わって、今はぴかぴかのマンションになってるし」

「手がかりなしか」

「ねぇ」


 私はおずおずと、彼にすがりついた。おずおずと、しかし自分から。


「ん?」

「あたしが上から下まで醜い化物に変わっちゃっても、それでもまた抱きしめてくれる?」

「ああ」

「嬉しい……ん……」


 キスを交わした。二度。三度。また熱く。


 今度は、一通り事が終わった後に飛び上がって驚いたりはしなくて済んだ。

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