1話その3
「くっ!なんだあのモンスターは!?キングカントリーにもあんなモンスターはいなかったぞ!」
マンションから夜道の路上に落とされた女騎士は、突如現れた蝙蝠のモンスターに驚きを隠せなかった。
まああんな到底人とは思えない化け物を見れば誰だって驚くに違いない。
そんな彼女の目の前に例の蝙蝠の怪物がマンションから華麗に飛び降りて着地した。
「さてと、痴漢より酷いことするからクッコロって叫んで近所迷惑になるなよ!」
蝙蝠の怪物が女騎士を指差しながら冗談混じりの台詞を言うと、彼女の方へと向かっていった。
「貴様のようなモンスターに遅れをとる私ではない!」
女騎士は腰につけた鞘に入った剣を抜き、蝙蝠の怪物へと斬りかかった。
空気が切り裂かれているのを目視できるほど鮮やかな剣筋なのだが、蝙蝠の怪物はそれよりも鮮やかに紙一重でそれを避けると、そのまま女騎士の顔面を殴った。
女騎士は路上を転がり、うつ伏せの状態から立ち上がろうと前を向いた瞬間、生々しい足が目の前まで来ていることに気付き何もできないまま顔面を蹴り上げられた。
蝙蝠の怪物はI字状態の足をすかさず戻し、宙に浮く女騎士の胸を鷲掴みにしてこちらへと引き寄せた。
「ここまでフルボッコにして悪いけど、お前の好きorより強い奴は今この世界に来てるか?」
「もう勝った気でいるのか?まだ私の体力は残っているぞ!」
「言う気無いのね、それじゃあ…殺す」
吐くくらいなら殺せと言わんばかりのクッコロフェイスになる女騎士から情報提供は無理だと判断した蝙蝠の怪物の言葉には冷たい殺気を込められていた。
すると蝙蝠の怪物の胸を鷲掴みしている手が禍々しい紫色に輝き始めた。
「まあいつも通りのテンプレで…さようならっと…」
紫色の輝きは何秒も続いた。が、特に何も起こらなかった。
「ん?え?結構経ったよな!?何にも無いの!?」
「離せモンスター!」
何も異変が無いことに困惑する蝙蝠の怪物の体を女騎士は蹴ったが、蝙蝠の怪物はびくともしなかった。
「え、無茶苦茶元気じゃん…ていうか結構おかしいよな…」
「何を訳の分からんことを!離せ!」
「あーもうわかったよ!とりあえず考えたいから黙れ!」
何度も蹴ってくる女騎士に嫌気が刺した蝙蝠の怪物は、胸を握り潰すように力を込めながら路上へと投げ捨てた。
またもや女騎士は路上を転がって行ったが、今度はすぐに立ち上がった。
「いやー理想より小さいけど良きおっぱい、じゃなくて、俺顔面二回はしばいたよな…?」
蝙蝠の怪物は女騎士を見ながら首を傾げていた。
このモンスターは見た目通りの非人道的攻撃をあろうことか顔が命の女性に行った。
しかし、女騎士の顔には傷一つつかないどころか、血の一滴も出ていなかった。
そして思い返してみると、最初に髪を掴んで投げ飛ばした時も、髪の毛が一本たりとも抜けていなかったのだ。
そして異世界人だろうとなんだろうと生物なら必ず聞く能力が全く効き目が無いのだ。
能力及び物理攻撃無効、異世界人でこの強さなら、異世界転生者は一撃で星を砕けるみたいなチート能力とかを持っているに違いないと思うと、不安でしょうがない。
唯一の救いは、女騎士の攻撃はこれまで戦ってきた異世界転生者に比べると何もかもが劣っているため、無効能力の秘密を調べながら戦うには丁度よかった。
蝙蝠の怪物は深々と考えていると女騎士の周りに大量の光の剣が浮いていた。
「ゆけ!セイクリッドアローズ!」
女騎士はかっこいい技名とともに手を振りかざすと、大量の光の剣は蝙蝠の怪物へと襲いかかった。
「それアローじゃなくてソードだろ」
蝙蝠の怪物は技名に文句を言いながら女騎士の方へと走っていった。
襲いくる大量の光の剣を蝙蝠の怪物は姿勢を低くしたり、その上をジャンプしたり、僅かな隙間に入るように体を動かしたりして全ての剣を避けながら女騎士へと近づいた。
「何!?」
全ての剣を避けられ女騎士が驚いた瞬間、蝙蝠の怪物は彼女の首に強烈なチョップを入れた。
チョップで怯んだと同時に左手で肩を持ち固定させると、何度も女騎士の腹部を右手で殴った。
そしてある程度殴り終えると、ふらふらになる女騎士の顔面に強烈な横蹴りを入れた。
「絶対彩愛に文句言われそうなくらいドメスティックなことしたけど、流石にこれで無傷はやったか案件だろ…」
蝙蝠の怪物は愚痴言いながら剣を杖代わりに立ち上がる女騎士を見ていた。
そして蝙蝠の怪物の祈りが届かなかったのか、女騎士の体には傷一つついていなかった。
ちなみに「やったか案件」とは、攻撃を与えた者が「やったか!」と言うと大抵生きていることからつけた造語である。
簡単に言うと自分の攻撃全然効いていない宣言である。
「嘘だろ…これ結構ヤバいよな…」
蝙蝠の怪物は認めたくない現実に焦りを見せ始めた。
これだけの攻撃をして無傷なのは最早人間ではない。まあ異世界人の時点で人間ではないのだが、それでも生物としておかしすぎる。
それでも戦わないと被害者が出てしまうので頑張るのだが、正直希望の欠片も無い。
一先ず魔法による広範囲攻撃による町の被害を減らすため河川敷へと誘導するが、それでも倒すことはこのままでは無理だろう。
「今回の相手、どれだけ理不尽なチート能力であっても、そのトリックを見破れなきゃ俺達の負けだな、こりゃ」
蝙蝠の怪物は心の中の不安を口にして吐き出すと、女騎士へと立ち向かっていった。
「待、待ってくれよ!俺が何をしたって言うんだよ!」
痩せた体型の一人の男が肩から血を出しながらも必死に目の前の者を追い払おうとしていた。
「自分の罪すら思い出せないなんて、やっぱり勉強なんてしても意味がないことが証明されたな」
男の前にいたのは血のついた剣を持っている神々しさを感じる白い鎧にガッチリとした体、そしてたくましく整った容姿のまさに勇者と呼べる姿の男だった。
「じゃあな
勇者はニヤッと微笑みながら剣を振り上げると痩せ体型の男の体を真っ二つにした。
「フッ…これでまた一人世界から悪は消えた…な」
返り血を浴びながらも清々しい表情の勇者であったが、遠方から激しい爆発音と地面で白い花火が爆発したような光が見えた。
「あれはソフィアのセイントシャイン…!?古沢の自宅と全然違うとこだぞ、どういうことだ…?」
勇者はその光を見て動揺していた。
嫌な予感がした勇者はマンションの外へ出ると、光が起きた場所へと急いで向かって行った。
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