4話その4
「休みたくても休めないそれがアルバイト。さあレッツ働きんぐナウ」
士は昨日の戦闘よりも、救助活動で疲れていたので、今日はアルバイトに行きたくなかった。
しかし最近は予定があり、全然出勤していないので最低限シフトを入れた分は出勤しないと悪いイメージを持たれてしまうのが世の摂理。
「でも切矢さんが異世界犯罪対策課の会議に来るのって久しぶりっすよね」
「店長にここ最近は余裕だからと言われ、追い出されてしまった」
「オウノーイッツァパワハラ〜」
宙の表情は珍しく落ち込んでいた。
「そういや切矢さん昨日はどうでした?」
「駆けつけた時には、町中のゲームセンターが破壊されていた。俺は起動力は榴咲達ほど無いから、人命救助に専念していたよ」
「相手が相手だから助けたとはいえ、俺らがニュースやネットでチヤホヤされても、死人は生き返らないからな〜死者四十六人全員異世界転生なんてしたらマジで最悪だ〜」
救助活動を行う、士と宙が化け物と化している姿は中世市だけでなく、大地都全域のニュース番組で報じられた。
見た目の評判は最悪だが、足りない人手を補う姿に人々は称賛を送った。
それでも破壊された施設と大量の死者は戻っては来ない。
これ以上の被害はなんとしても食い止めなくてはならない、ふざけた言動といつもと変わらない表情をする二人だが、その眼差しだけは真剣なものであった。
「なんとなくっすけど、転生者の狙いはアニメとかゲームに関する施設と俺は考えています」
「転生後だが、荒々しいパリピと呼ばれる人種のような見た目だったな」
「個人情報探って襲撃予想するほど今回は余裕無いんで、残った二次元系施設の監視強化と、怪しいパリピを見つけ次第ぶっ飛ばすのでいきましょう」
「わかった」
宙が承諾すると士は携帯を操作し、異世界犯罪対策課の権力の象徴であるエデンコーポレーションの社長へとメールを送った。
「そういや切矢さんは転生者と戦ったんでしたよね」
「あぁ、転生者の能力は手の平を開閉すると爆発を起こす能力とみて間違いない筈だ」
「爆発ね〜どうせならリア充狙えよ」
士のような非リア充はいっつもこんな事を考えている。だから非リアのままなんだね。
「威力は一撃で致命傷を負う程では無いが、簡単な動作による連射性能と目に入った座標を爆破して、障害物などが意味をなさないようにするのが厄介だったな」
「手を切り落とすのが正解だろうけど、どうやって近づくかだよな〜」
「今回の転生者は俺が倒すよ」
「え?なんか秘策でも?」
「気合いでなんとかする」
「根性論っすか…それ絶対失敗するやつじゃ…」
「俺の気合いは凄いぞ」
何処か自慢げに言う宙に士は呆れていた。
「じゃあ俺は今回バックアップしますんで、気合いでなんとかしてくださいな」
「任せろ」
自信満々の宙の姿が変なフラグにしか見えず、士は内心無茶苦茶信用していなかった。
「とりあえず会議はこれで終わりにして、社長の連絡待ちましょう」
「そういえば榴咲、昨日のネットニュースを見ていたら懐かしいやつが話題になっていてな、[大地都の正義の味方牛男]、あの時は考えもしなかったが、こいつは俺達と同類じゃないのか?」
宙から牛男という言葉が聞こえると士の顔は殺気がこもった冷たい表情になった。
「彩愛のあの姿は論外として、俺らと同類で牛となれば、多分そいつはエレシュキガルっていう神様に生き返らせてもらったと思いますわ」
「それでこいつは今何処にいるんだ?俺達の味方になってくれるかも…」
「殺しましたよ切矢さんと会う大分前に」
士が平然と言った言葉に宙は耳を疑うように目を見開いて驚いた。
「何故殺した?」
「ある日そいつは俺らが絶対に超えちゃいけない一線を超えたんすよ」
「まさか…」
「普通の事故とかから人を救うだけなら多少は目を瞑ってたんすよ。でもこいつは意図的に人間を殺した。だから同じ化け物として殺したんすよ」
士はいつもと比べれば驚きを隠せない宙に冷たく話しを続けた。
「殺した異世界転生者の中には、息子が戻って来たとか言ってはしゃいでる親もいましたよ。邪魔で邪魔でしょうがないし、転生者を殺したら息子を殺したでとっくに死んでるくせに文句言ってくるし本当に鬱陶しい存在ですよ。それでも…どんだけ邪魔だろうと屑だろうと人間をこの力で蹂躙したらそれは異世界転生者と同じっすよ。まあ大抵のやつが本気の殺し合いなんてやったこと無いんでこっちが一方的にやってるように見られますけどね」
「だが異世界人と違い牛男はこの世界で今まで生きていた人間だったのだろう?抵抗は無かったのか?」
「…そりゃあありましたけど、見た目化け物だし、力に溺れた目してたんで、あれはもう異世界転生者と何ら変わりはなかったっすよ」
宙の質問に士は切なそうに答えた。
「さて!俺達はそうならないよう頑張りますか!」
士は明るく気持ちを切り替えると会議室から元気よく出て行った。
その姿が宙には何処か辛そうに見えた。
「いや〜スカッとしたわ〜やっぱりオタクの店とかゲーセンとか潰しても迷惑どころか世の中のためになるな!」
とある異世界の広い部屋で、荒々しい見た目の男が嬉しそうに笑っていた。
「しかし…いくらオタクという邪教徒が集う施設とはいえ、人命に関わるほどの被害を出すのはやりすぎでは…」
「あ?お前オタク共に同情すんなら爆発させんぞ?」
「い、いえそんなことは…」
眼鏡をかけた賢そうな女性の態度が反抗的に思え、荒々しい見た目の男は苛立ちを見せながら彼女を脅した。
「だよなぁ!それにいっつも妄想に浸るような気持ち悪い奴等なんて当然の犠牲だしいいんだよ!」
「しかし以前の遠征からキーニャとギーニャ、それにコージー殿が未だに帰還していないとなると、彼らは殺されたと考えるべきですかね」
「うーん、まあ俺一人でどうにかなるしいいか」
行方不明の仲間の事などどうでもいいかのように荒々しい見た目の男は答えた。
「確かにここに来る前も普通じゃないくせに俺にたてつくやつは虫みたいにいて、ちゃんと俺の指示に従うやつなんてあいつらぐらいだったけど、死んじまったらもうどうでもいいな」
「そういえば、あの世界に行けるようにしたという神の詳細は…」
「そんな自分のこと神っていうやつなんて大抵オタクだからほっとけ、あーオタク共のことを考えているとムカついてきたし、ちょっと正義執行するか!」
荒々しい見た目の男はクローゼットの戸を開けると、そこには暗い色が混じり合った渦がウニョウニョと生きているかのように渦巻いていた。
「じゃあちょっと行ってくるわ!あー!どっか行った三人の変わり探しとけよ!」
荒々しい見た目の男は一方的に言うと、渦の中へ入っていった。
眼鏡をかけた賢そうな女性は笑顔で見送った。
しかし荒々しい見た目の男の姿が完全に見えなくなると、彼女の顔は先程の笑顔が嘘であるかのように、鬼の形相になった。
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