三十路のつぶやき

動ける筋肉

第1話 人生、生きる目的

無限に湧いて出る仕事に見切りをつけて、

夜の散歩に出かけると、

ふと懐かしい神社を見つけた。


子どもの頃に数回、親に連れられてきた覚えがある。


時刻は21時を回り、

少しホラー映画に出てきそうな雰囲気を醸し出しているが、

勇気を出して鳥居をくぐってみる。


子どもの頃は気づかなかったが、

神社の境内に向かう道の両端にならんだ1mほどの建造物は、

夜になると明かりが灯るようだ。


ずらっと軍隊のように並んだ建造物は、形がすべて均一で、

これを作った人の並々ならぬ努力が垣間見える。


ふと明かりをよく見ようと顔を近づけると、

なんと、火ではなく、電球が仕込まれており、

人工的な明かりだった。しかもLED。


なんとも言えぬ一抹の哀しさを覚えつつ、

境内へと歩みを進める。


境内に無事たどり着くと、

いかにも物陰から子ども幽霊が出てきそうで、

帰りたい気持ちが込み上げるが、

ぐっとこらえて、空を見上げてみた。


見上げた空は、青黒い巨大な大河のようで、

綿のような雲は、樹々が唸るほどの風に揺られ、

優雅に水面を漂っている。


きらりと輝く星々は川底の宝石のようで、

神秘的な美しさに思わず手を伸ばしてみる。


すると突如まるで地球と繋がったかのような

奇妙な感覚に襲われた。


この大きな地球という惑星から見ると、

自分は本当にちっぽけな生命体に過ぎない。


例え明日、命の灯火が消えようとも、

地球規模から考えたら全く影響はないし、

世界は何もなかったかのように進むだろう。

(厳密には家族や友人がしばらく悲しむかもしれない)


そう考えると、今まで仕事で他者との軋轢に苦しんだり、

成功したいと考えていた自分の悩みが、

豆粒みたいな悩みのような気がしてきた。


人は何のために生まれて、何のために生きるのだろう。


ふと遠くの住宅街へ目を向けると、

親子が手を繋いで家の中に入っていく様子が見える。


ただいまぁーと無邪気な子どもの声がかすかに聞こえる。


きっとあの子の親は、平日は一生懸命子どものために働き、

休日は子どもと一緒に遊んで幸せを感じながら、

人生を全うするのだろう。


何のために生きるのか、やりたいことは何なのか。


またそれらの答えが見つかったとして、

死んだら何が残るのか。

魂は何処へ行くのか。


考えても答えは出ない。


そういえば昔、雑誌のファッションモデルに憧れて、

事務所へ書類を出したことがあったなぁ。


結局2〜3箇所出して受からなくて、

どうせ将来食べていけないだろう、とか

現実的な理由を考えて断念してたけど、

夢を諦めるための言い訳が欲しかっただけかもしれない。


地球レベルで考えたらどうってことないのに。


ふと、足の周りにザワザワとこそばゆい感覚がする。

蚊のような生物がまとわりついてるようで不快なので、神社を出ることにした。



そうだ、今日は食べ過ぎたから、久々にジムに行こうかな。


部屋の片隅にあるはずのランニングシューズを

頭の中で思い浮かべながら、鳥居をくぐった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三十路のつぶやき 動ける筋肉 @tyokomint-suki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ