第57話 ミッチーの心境変化
10月10日土曜日。台風14号も日本に弾き返されたように去っていき、地元はのんびりとした時間が流れています。天候は曇り。雨の心配もないので、パレットは久ぶりにミッチーの家に向かいます。特に理由はありません。友達の家に向かうのは一緒にいたいから。ただそれだけです。
「ミッチーんちに来たのも久しぶりだな~」
パレットは微妙に緊張しながら、ミッチーの家のインターホンを押しました。
「はいはい~どなた~」
「私だ」
「あ、パレチー。どったの?」
「私らに理由はいらんでしょ?」
2人は玄関で笑い合い、ミッチーはパレットを招き入れます。廊下を歩きながら、パレットはそこに流れる微妙な違和感を感じとりました。
「何か変に静かだね」
「今日は両親がいなくてね」
「え? 何があったの?」
「ちょっと親族関係のアレで……夜までには帰ってくるけどね」
こうして静かだった理由も分かり、取り敢えず2人はミッチーの部屋へ。来た理由もない以上、すぐに何かをするでもなく――。猫の集会のように何となく適当に座ると、部屋にあった本とかを読み始めます。
「ミッチーの部屋に来ると知らない漫画がたくさんあって楽しいな」
「パレチーって小説書くのに漫画読むんだね」
「読むよー。買うのはラノベが多いけど。だからミッチーの家に来るのが楽しいんだ」
「そか。私もラノベ買おうかなぁ……」
興味が漫画一辺倒だった友人のこの心境の変化に、パレットは驚いて顔を上げます。そうしてミッチーの顔を見つめました。
「どう言う系の話がいい? オススメなら任せて!」
「いや、そこは自分で決めるよ」
「この漫画しかない本棚に小説の並ぶ日も近いかぁ~」
パレットはミッチーの本棚を見ながら想像を膨らませます。現時点の本棚は様々なジャンルの漫画の単行本が並んでいました。アニメ化された作品の原作漫画がほとんどでしたけど、恋愛マンガからグルメ漫画まで並んでいて、ミッチーの雑食ぶりがうかがわれます。
「前にちらっと売り場を眺めたけど、ラノベってむっちゃ本出てるよね」
「新刊は月に100冊以上出てるからねぇ。正直出し過ぎだと思う」
「漫画も多いけど、匹敵するね」
「でも漫画ほどジャンルは多くないからな~」
パレットは少し自虐的にラノベの弱点をつぶやきました。そう、ラノベ売り場は売れるジャンルに偏っているのです。それは購買層の偏りを意味していました。とは言え、流行り始めた頃は様々なジャンルの本が出ていたので、淘汰された結果が今の有様だとも言えます。
ミッチーはラノベの先輩のそんなありがたい言葉を聞いて、深くうなずきます。
「取り敢えずはアニメ原作のやつから選ぶ事にするよ」
「最近面白いと思ったのは?」
「うーん? 正直今まで何がラノベ原作かとか気にしてなかったから……」
ミッチーはそこで言葉をつまらせると沈黙してしまいました。まだそこまで興味がないと言うのがこの態度からも分かります。それでも、自分の趣味に少しでも近付いてくれそうな雰囲気を感じて、パレットは嬉しくなるのでした。
自力で作品を選びたい友人の気持ちを尊重して、パレットは最後まで自分の好みを口にしない事にします。ただ、ラノベの基礎知識的なものは、隙あらば早口で喋りまくっていったのでした。
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