第32話 読まれたいなら流行を研究しなくちゃ
放課後になってパレット達が視聴覚室の扉を開けると、やはり今日も大西先輩とヨシムラ部長が先に席に座っていました。残る会員は後1人だけなので、ほぼ部活状態とも言えます。
仲の良さそうな上級生2人を見たパレットは軽くため息を吐き出しました。その些細な友人の変化をミッチーは見逃しません。
「あれ? パレチーがっかりしてる?」
「え? いやそんな事ないよ?」
パレットが動揺していると、後輩が来た事に気付いた先輩が振り返ります。
「おっ、来たね。近う寄りー」
「はーいっ」
「……」
ミッチーが調子よく先輩の言葉に甘えて歩いていくのを複雑な表情で見つめながら、パレットもワンテンポ遅れて続きました。
先日からこの秘密の集まりに参加するようになったヨシムラ部長ですが、小説の才能があって上がり症でメガネと言う事は紹介済みですよね。追加情報としては、背がちっちゃい。身長は140センチくらいしかありません。後、リス耳です。
そう言う感じなので結構な数のファンがいるとかいないとか。いかにも文学少女みたいな雰囲気なのも、ファンを増やしている要因なのかも知れません。
「先輩と部長はいつから友達なんですか?」
「小学生の頃やろか? 執筆の趣味はヨーコからうつされたんよ」
「ちょ……病気みたいに言わないで!」
「あはは」
先輩と部長とミッチーが仲良く話しているのを、パレットはほぼ上の空で聞いています。それは、この会話に割り込むタイミングを逃してしまったからでもありました。続いていく自分不在の会話を右から左に流しながら、彼女の心もまた空洞になっていきます。
この状況を前にして今日は無に徹しようとパレットが決意したところで、突然会話のボールが先輩から豪速球で飛んできました。
「パレットさあ、執筆してるんやろ? 調子どう?」
「え、えっと……。いや、あんまり受けてないです」
「読まれたいん?」
「と、当然ですよっ!」
折角の先輩からのパスを焦ったパレットは、うまく返せたかどうか不安になります。ただ、そんな彼女の素直な気持ちは十分先輩に届いたのでした。
「受けたいなら流行を知らんとあかんよ」
「え?」
「まずはランキングトップの作品を読んで、何が受けているのか研究してみ? それが分かったら、今度は自作にその要素を取り入れる。パクリはあかんよ?」
「あ、私あんまり読む事してなかったかも。読むのも大事なんですね」
「ほうよ~。ねぇ?」
先輩はうなずきながら隣りに座っていた部長に話を振ります。この無茶振りを受けた部長は、うつむき加減になりながらゆっくりと言葉を選ぶようにパレットに語りかけました。
「に、人気作品から学ぶ事は多いから……どんどん読むといいいと思う……」
「と言う、部長からのありがたいお言葉なのでした!」
「ちょ、からかわないで~」
先輩達からのアドバイスを聞いたパレットは目を輝かせます。そうして、忘れないようにしっかりと頭に叩き込みました。その目の輝きを見た先輩もニッコリと笑みを浮かべます。
「良かった。つまらなさそうな顔をしてたけど、もう大丈夫そうやね」
「え? そんな顔してました?」
「してたしてた。折角こうして集まっとるんやけん。みんなで楽しくやろな」
「はい!」
こうして心のバリアの薄くなったパレットは、その後は少しずつ会話に参加出来るようになりました。話をする事で、少し苦手だった部長との心の距離も縮んでいきます。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていき、気が付くと下校時間になっていたのでした。
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