第22話 バーバパパ(Vtuber)
今日は週に一度の愛好会の集まりの日。なので、会員全員が部室である視聴覚室に集まっていました。現時点での会員は全部で5名。ヨシムラ部長に大西先輩、パレット&ミッチーに――。
「ふん、久々の部室だな。何もかもみな懐かしい……」
と、ちょっと言動の癖の強い渡部――パレット達からは厨ニの渡部と呼ばれている――がいます。文芸愛好会唯一の男子会員。ちなみに彼はパレット達と同級生。大西先輩とヨシムラ部長は3年生。そう、この愛好会、1年生がいないのでした。
部長は愛好会の会長だから会長と呼ぶべきなのですが、本人が部長と呼ん欲しいと言う事で部長呼びが定着しています。後は、部室と言う呼び方も。
週に一度の集まりは、愛好会の活動方針を決めて、その報告をする場。それと、創作の参考になるような作品の上映会なんかをしたりもします。それ以外はかなり自由で、最初のテーマ決めと最後の作品を集める作業以外は来ても来なくても問題ありません。
とは言え、何だかんだ集まりはいいのですけどね。
「え、えっと……あの……今日は2学期初の部活なので……会誌の、て、テーマを決めたいと思います」
ヨシムラ部長が蚊の鳴くような声でメガネを曇らせながら話を進めます。会誌は不定期に出す同人誌で、まずテーマを決めた後にそれに沿った作品を各会員が書いて集め、本にします。その本は同人誌即売会とかで売っているそうなのですが、どこで売っているのかパレット達は知りません。その辺りの作業は先輩方がやっているからです。元々、先輩方が個人で同人誌活動をしていた流れでこの愛好会が出来たのだとか。
「テーマは未来がええんやない?」
「え、SF……ですね、はい。えっと、他には?」
「秋だし、ハロウィンとか?」
「あ、いいですね。ハロウィンは……ホラー……かしら?」
その後もテーマ談義は続き、候補が10個くらい並びます。最終的には投票で今回の会誌のテーマは未来に決まりました。
「で、では皆さん……『未来』をテーマに作品を……お、お願いします」
テーマが決まった後は自由時間。部室ですぐに構想を練り始めてもいいし、即帰っても構いません。勿論、雑談で暇を潰してもいいのです。
この時、いつもはすぐに視聴覚室を出る渡部が、今回は何故かパレット達のもとにやってきました。
「ふふ、今から我が貴様らにとっておきの動画を紹介してやろう!」
「いや呼んでないんだけど」
「まぁこれを見るのだ!」
「?」
渡部に強引に見せられた動画はどこかの教室で特徴的な容姿のキャラが踊り狂う動画で、一言で言うと狂気でした。流れてくる音楽も聴き慣れない激しいもので、妙に動画と合っています。キャラは顔が変形したり数が増えて異常な行動をしていたり、突然可愛い犬が出てきたりとシュールそのもの。
全く意味は分からないものの謎の魅力もあり、パレットとミッチーは動画から目を離せませんでした。
雰囲気に圧倒されて、再生中はずっと黙って見続けていた2人。再生が終わったところでミッチーは首を傾げます。
「何これ?」
「すごいだろ? これが我の中での今の一押しなのだ」
「あ、バーバパパやん。そか、渡部もこれ見るんやね」
「あ、はい」
話に突然大西先輩が割り込んできて、渡部のテンションが一気に下がります。気の知れた同級生相手以外には借りてきた猫になるのが彼の限界なのでした。
頼れる先輩の登場にパレットの目は輝きます。
「先輩もこれ知ってたんですか?」
「去年から注目してたよ。私のオススメはこれ」
「こ、怖くないですか?」
「だーいじょうぶだって」
先輩に見せられた動画は鳩がダンスをする動画。流れる音楽は鳩の鳴き声をアレンジしたノリのいいもので、映像にシュールさはありましたけど、楽しい動画でした。
「この動画も同じ作者さん?」
「バーバパパは今までにもたくさん動画作ってて、そのどれも音楽と映像の幅が広くて、基本シュールなんやけど笑えるのから深いのもあってええよ。音楽は元ネタをアレンジしてものが多いから、才能で言えば映像のセンスの方がすごいと思う」
「あ、じゃあ登録してみます」
「今のところ月に1回は新作も出てるし、2人も気に入ってくれたらええな」
大西先輩の推薦もあって、パレットとミッチーはこの動画アカウントを登録する事にしました。最初に動画を勧めた渡部はいつの間にか先に部室を出ていったようで、気がつくともうどこにも見当たりません。
「あれ? 渡部は?」
「帰ったんじゃね? あいつはああ言うやつだし」
パレット達は渡部が苦手だったので同級生が姿を消しても軽く流します。残りの会員達はなんやかんや下校時間まで楽しく部室で過ごしたのでした。
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